この気持ちの名前を俺はまだ知らない

遊。

文字の大きさ
23 / 35
第三章

3

しおりを挟む
3



それから、俺達は男女別で練習に励む事になった訳だが。

とりあえず全体の指揮をとってる小城にはこっそり事情を話しておき、ヤスには二人共やめたと言っておいた。

「へぇ…ならお前も百メートルな。」

「わ、分かってるよ…。」
 
こう言われるのも覚悟してたさ…。

まずは基礎体力を付けようと言う小城の提案で、縄跳びを毎日ちょっとずつ回数を増やしながらやり始めた。

勿論その後には走る練習もあり…。

帰ってからも腹筋、腕立てをしたりと日々体力作りに励んだ。

「お前にしてはよくやってんじゃねぇか。」

「してはは余計だっての…。

ここまでやってんのにもう今更やめるなんて考えられねぇよ。」  

実際ここまで音を上げずに(いや…最初は上げてたけども…。)頑張れたのは、やっていく内に自分の中で何処か執念のような物が芽生え始めたからかもしれない。

ここでやめたらそうして頑張った事も全部無駄になってしまうから。

「へー…そんくらいのやる気が普段からあれば良いんだがな。」

「ぐっ…本当に毎回痛いとこ突きやがって…。」

くそう…実際間違ってないけど…!

「まぁ、お前も色々あってちょっとは変わってきたんじゃねぇの?」

「そうなのかなぁ…。」

「ついこないだまでは女々しいわ気持ち悪いわで面倒くさかったのにな。」

「うぐっ…お…お前は…。」

珍しく褒めてきたと思ったら…!

「でも今は無鉄砲なりに前より自分から動けるようになってきたんじゃねぇの?」

「それは褒めてるんだよな…?」

今度は褒めてるのかどうかも分からないぞ…?

「一応。」

「じゃあ一応ありがとな。」

「ん。」

「よし、今日はそろそろ帰ろうぜ。」

最終下校時刻のチャイムが鳴り、小城が提案してくる。

こんな風に最近一緒に練習するようになって、それからは三人で帰る事が増えた。

その流れで今日も三人で帰ろうとしていると、遠くで美波がまた水木と二人で帰っているのが見えて思わず立ち止まる。

「おい、ぼーっとしてんなよ。」

そんな俺を見て、言いながら後ろから小突いてくるヤス。

「あ、あぁ…。」

「水木か、あっちのクラスは多分あいつがアンカーだろうなぁ。」

俺の視線の先を見て、小城が口を挟む。

「水木…か。」

一度口に出し、何度か頭の中でその名前を反芻する。

「え、何?水木がどうかした?」

そんな俺の反応を不審に思ったのか、小城が聞いてくる。

「なぁ小城、水木と沢辺はどう言う関係なんだ?」

それに対して何も返せない俺の代わりに、ヤスがそう聞き返してくる。

「…え?あぁ、なんか幼馴染らしいよ?

だからよく一緒に居るみたいだし。」

そうだったのか…。

「え、え?本当にどうしたんだよ?」

動揺が顔に出ていたらしい。

小城が心配そうに聞いてくる。

「こいつ、一年の時に沢辺と付き合っててフラれてんだよ。」

ヤスが代わりに説明してくれる。

「………え?えー!?フラれたってのは聞いてたけどあれって沢辺の事だったんだ!!」

よっぽど予想外だったらしく、それに大袈裟なくらい驚く小城。

「あいつにも…そんな奴がいたんだな…。」

一緒に居るのを見たのは今回が始めてじゃないし仲が良さそうだとは思った。

でもそんな親しい間柄だったなんて。

「そりゃいても別に不思議じゃねぇだろ。

まぁお前の前だと沢辺か水木のどっちかが遠慮して距離を置いてたんだろうな。」

そのまま呆然としていると、ヤスがそう返してきた。

「だよ…な。

俺って本当に何も知らずにあいつと付き合ってたんだな。」

と、こでこちらに気付いた水木が歩み寄ってくる。

一方の美波はそれに気付いたのか心配そうに顛末を見守っている。

「おい、佐藤。」

「え…あぁ。」

急に低い声で名前を呼ばれて思わず怯む。

サッカー部のキャプテンだけあり、筋肉質な体型。

身長は美波と同じくらいだが、その目付きの悪い眼光からは余す事ない敵意がむき出しになっていて、そこから充分な存在感を醸し出していた。

「美波と別れた事、絶対に後悔させたるけぇな。」

「っ…!?」

「じゃあな。」

それだけ言うと、水木はさっさと行ってしまう。

それに何も言い返せず、通り過ぎる背中をただ目だけで見送る。

「…どうした?

気圧されたか?」

そんな俺に見かねたヤスが声をかけてきた。

「…あいつ…美波の事呼び捨てだった。

それに喋り方も一緒だった。」

「まぁ…そりゃそんな長い付き合いなら呼び捨てにもなるだろうし、幼馴染なんだから喋り方だってそうだろう。

そして今はそう言う関係を咎められる立場でもない。」

「確かに…な。」

「なるほど、なんか複雑な訳ね…。」

小城もようやく状況を察したらしい。

そう言って口を挟んでくる。

「まぁ、そんな所だ。」

それにヤスが答える。

別れてから知った事。

それは付き合ってた時に気付けなかった事ばかりだ。

何故だろう?別れてからの方が知らない姿が見えてくるのは。

そして、そんな姿が気になって仕方ない自分がいるのは。

知らない姿を知る度に、美波の事だけじゃなく、自分の事でさえも分からなくなる。

こう言う気持ちをなんて呼ぶんだろう?

「お前、あいつに言われたままで良いのかよ?」

「そりゃ俺だって悔しい!…んだと思う。」

「だと思う?」

実際悔しさは確かにあった。

でもそう口に出してみて気付いたのだ。

悔しくてもそれに対して言い返す言葉が無い。

悔しいと思う理由すら分からない。

そんな自分が悔しさを吐露する事が、あまりに不当に思えて、怒るに怒れなかったのだ。

「分からないんだよ、自分が。

自分の事なのに…。」

「…まぁ、自分も一人の人間なんだ。

分からない事だってそりゃあんだろ。」

「そう…だよな。」

俺は今答えを探している。

でも探せば探すほど遠ざかるばかりで、求める答えは一向に見つからない。

「灯台もと暗し…だな。」

「え?」

「探してるもんってのは案外近くにあるのかもしれねぇって事だよ。」

「そう、なのかな。」

この時の俺には、ヤスが言う言葉の意味がよく分からなかった。



「ぜー…はー…。」

放課後、早速私達は通学路にある大きな公園の広場で練習を始める事になった。

「ま、摩耶ちゃん、大丈夫…?」

「だ…大丈夫…じゃないかも…。」

気合いを入れて練習を始めたものの、普段から走る習慣がない私達(主に摩耶ちゃん)は、少し走るだけで息切れしてしまう。

「ほらほらー!自分でやるって言ったんだからね!もっと頑張んなよー!」

ちなみに、恵美ちゃんは今ベンチに座ってメガホンで私達を応援してくれていた。

「ちょっと…!あんたも…走り…なさいよ!」

そう抗議する摩耶ちゃんの声も息切れのせいで途切れ途切れだ。

「嫌よ、だって私は別にそんな重要なリレーには出ないもん。」

そしてそんな途切れ途切れの抗議も即座に却下されてしまう。

「むー…。」

それに不満げに唸る摩耶ちゃん。

そんな感じで、恵美ちゃんは今私達のコーチと言うポジションに落ち着いた。

「ま、でもそんなに息切れしてたら続けては無理そうね。

ちょっと休憩しましょ。」

摩耶ちゃんからの抗議が通ったのか、はたまたただ呆れただけなのか…。

肩を竦めてそう提案する恵美ちゃん。

「さ…賛成。」

途端に少しばかり晴れやかな表情を取り戻す摩耶ちゃん。

表情に疲れた感じはすごく出ているものの、そんな様子からなんだかんだ楽しそうだなと感じた。

それは多分最初のように面倒くさがってやりたくないって言う気持ちが、やりたいに変わったから。

 摩耶ちゃんの中で、大きな心境の変化があったのかもしれない。

こうして楽しそうな摩耶ちゃんが見れるなら、無理に誘ってみて良かったのかもしれない。

そうしてそんな摩耶ちゃんを見て、一緒に練習して、なんだかこうしている時間がこれからかけがえのない思い出に変わっていくんだなぁとその時私は思った。

「ねぇ、摩耶ちゃん。

青春ってこう言う感じなのかな?」

「…は?何よそれ…。」

呆れられてしまう。

「え、違うかなー?」

うーん違うのかなかぁ。

「まぁ…でも…悪くないわね。」

肩を竦めながらも、摩耶ちゃんも一応それに同意してくれたみたいだ。

「ふふふ。」

「クッキー作ってきたから皆で食べよー!」

恵美ちゃんが鞄からクッキーの袋と紅茶の入ったポットを取り出す。

「わ!すごい!頂きまーす!」

「おー!丁度甘い物欲しかったの!」

美味しいクッキーを食べながら、私達は明日も頑張ろうと思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密

まさき
青春
 俺は今、東大院生の実験対象になっている。  ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。  「家庭教師です。住まわせてください」  突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。  桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。  偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。  咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。  距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。  「データじゃなくて、私がそう思っています」  嘘をついているような顔じゃなかった。  偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。  不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...