ガルテナ ~私の一番の音楽~

茂庭

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チハルの励まし

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 翌朝、制服に着替えている時にマリからメッセージが来た。

『先に行くね』

 ショックだった。一瞬喜んだ自分が恥ずかしい。朝から心を折られてしまった。
でも気合いを入れる。嫌われて当然でしょ。謝るためにも、学校に行かなくちゃ。

『分かった』

 すぐに返した。
メッセージで謝るつもりはなかった。顔を見て謝りたかったから。
準備を済ませ、玄関を出た。




 登校中。一人の通学路は寂しい。つまらない。学校がやたら遠く感じた。
それでもいつも通りの時間に着いた。

 下駄箱から上履きを取り出し、教室に向かう。
教室の前でチハルとシオリが立っていた。

「ユカリさん! おはようございます!」
「おはようございます」

 げっ、朝から早速会いたくないメンツが。待ち伏せてやがったか。
と、心の中で悪態をついてしまった。二人はなんにも悪くないのに。完全に私の問題。
でもこれはチャンス。

「おはよう」
「体調は大丈夫ですか?」
「うん、お陰様で」
「なんにもしてませんよ!」
「こういうのは挨拶だから。あ、昨日お見舞い来てくれたんでしょ? いなくてゴメンね」
「いえ、そんなの全然気にしないで下さい」

 チハルは心配そうに続けた。

「それよりも、あの、責任感じないで下さいね。予選突破できなかったのはグループの責任であって、ユカリさんのせいじゃありませんから」

 凄い直球だった。

「うん、ありがと。あ、そうだ、丁度渡したいものがあったんだ。コレ」

 カバンから鍵を取り出して差し出す。

「部室の鍵ですか?」
「うん、チハルが持ってて。部長だし」
「でも信用できないって」
「それ結構前でしょ。もうしてる。サナエさんはしてないけど」
「あ、言っちゃいますよ?」

 告げ口するとニヤリとしたチハルに予想を返す。

「いや、あの人絶対鍵忘れたりサボり部屋に使うからね」
「でも……」

 チハルは鍵を受け取るのをためらっていた。

「頼むよ部長、君にしか頼めないでしょ」

 そう言うとチハルが右手の平を差し出してくれたので、鍵を乗せようとした。
すると今まで黙っていたシオリがチハルの右手首を掴み、その手を下げさせ鍵の受け渡しを遮った。
チハルはシオリに視線を向けた。

「シオリ?」

 チハルの右手首を掴んだまま、シオリは私を見据えた。

「チハルは部長の仕事が忙しいです。部室開けるのはユカリさんの仕事のはずです」

 バンドに参加した時、マリに鍵を返された時にも同じことを言われた。
もしかしたらマリは私に鍵を押し付けられた時、そういう風に愚痴っていたのかもしれない。

「私の仕事だったんか」
「はい」
「でも受け取っておいた方がいいと思うよ。私今日部活休むから」
「なんでですか?」

 チハルに尋ねられる。
辞めるつもりだから。と言うと騒がれそうなので、適当に嘘をつく。

「気が乗らないから」
「でも受け取れません」

 シオリが言った。チハルの手首をキュッと掴んで放さなかった。

「じゃあ先生に渡しておくから、気が向いたら受け取って」

 カバンに鍵を戻すとチハルが話を続ける。

「あの」
「なに?」
「急に変ですよ。鍵の話なんて」

 しまった、違和感を感じられてしまった。
しめしめ、丁度いい機会だから鍵を押し付けてしまえ。
なんて考えていたとは言えなので、適当に誤魔化そう。
大丈夫、チハルはチョロいから騙せる。
と思っていたら手首を放したシオリが割って入った。

「部活止めたりしませんよね?」
「え!?」

 チハルがシオリに視線を向けて驚いた。
私も驚いた。なぜバレた。でも騒がれると面倒なので、また適当に嘘をついた。

「しないよ。しばらく気ぃ張ってて疲れたから、ちょっと休みたいだけ」
「よかった! ビックリしたー! 聞きましたからね!」

 チハルは安心と喜びを笑顔で表していた。やっぱり私が辞めることを全く考えていない様子だった。
心がチクリと痛む。けど、もう決めていた。

「うん、そろそろチャイムが鳴るから」
「はい、じゃあまた!」

 チハルは体を反転させて一年の教室に向かい離れて行ったけど、シオリはまだ私を見据えていた。
眼鏡の下の瞳は曇りが無くて何を考えているのか分からない。沈黙しているシオリに問いかける。

「どうしたの?」
「……ユカリさん、嘘はダメですからね」

 言葉に詰まる。シオリは本当に鋭い。
 先に一年の教室に向かったチハルが、なかなか来ないシオリを階段への曲がり角から呼んだ。

「シオリー! 行こうよー!」

 それを聞いたシオリは私に軽く会釈をした。

「では、失礼します」

 そう言って反転し、ポニーテールとスカートを美しく回した。
そしてチハルの方へ向かって行った。
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