彼岸よ、ララバイ!

駄犬

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秘密の遊び①

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 子どものはしゃぐ声は時折、鬱陶しく聞こえるものの、町から取り上げられると妙に不自然で不健康とさえ思う。ただ昨今、人口減少からなる子どもの出生率の低下は、公園をすっかり寂れさせ、伽藍の修行場として過不足ない雰囲気があった。数少ない子どもの足取りを追うには、下校時の背中を注視してやれば手っ取り早く、公園で遊具をあやなすより刺激的な遊びを常に探し求めて町を彷徨っていた。

 あらゆる感覚は鋭敏で、好悪を峻別する。歳を重ねるにつれて、中庸である為に気付きと妥協を覚え、養われた曜日感覚の無常なる揺り籠にすっかり不感症になる。だからこそ、太く短い子ども時代は取り返し難く、憧憬を覚えて仕方ない。

 とはいえ、子どもには子どもの苦労があり、学習を厄介に思った稚気な心模様は、終業に合わせて堰を切ったように席から立ち上がらせる。屋台に群がる血色の良い上擦り声から逃げるようにして授業を受け持つ教師が教室を後にする。一年毎に様変わりする人間関係は、子どもならではの柔軟性で忽ち適応するが、とある一人の生徒はその行事に苦心しており、忙しなく周囲を見渡しては顔色を窺っていた。

「公宏君、今日遊ばない?」

 このような突飛な誘いも子どもの無邪気さに起因していて、教室での孤立を恐れて二つ返事で生徒は笑顔を拵えた。

「イイヨ!」

 放課後の暇を同級生と過ごすのは、真っ直ぐ自宅へ帰ることで親から友人関係を言及される恐れから逃れる為の体の良い口実となった。

「どこへ行くの?」

 公園などの愚にも付かない場所へ足が向くとは一寸も思っておらず、大人の目から遠ざかることを優先事項として、遊び場は決められていた。故に、影を好み静かに笑う様を見て、「秘密の遊び」に相応しい場所があるのだと生徒は察する。自分の通学路とは間反対の方角を歩く高揚感は、自然と笑みを溢れさせ、やがて二階建てのアパートの前で足が止まる。

 手摺の案内に従おうとすると、ささくれ立った鉄の荒さに右手は一筋の切り傷を負った。鉄板で組み上げられた階段の劣化は、一段登るたびに軋みを立てて、築年数は語るに落ちる。長机を並べたような陳腐な通路の前に並ぶ表札を四つ数えると、「高垣」という苗字が借りる部屋の扉の取っ手に手を伸ばす。

「親はいないから」

 あたかも魔法の言葉を操ったかのような力強さを押し出して、安心安全を謳った。二の足を踏む暇はない。何故なら、生徒の後続に後二人いて、彼らは気の合う同士の仲間なのだろう。他人の家の敷居を跨ぐのに臆することがなく、靴を脱いで三和土から上がる道程にまるで迷いがなかった。生徒はその流れに身を任せて以下の挨拶をこなす。
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