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第一部
目覚めた先は
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印刷されたブランドの象徴が悉くズレていたり、白い縫い目からして、作りの甘い贋作であることは明白だ。しかし、破格の値段で手にした威光を、脇差さながらに扱って特権階級を想起させる貴賤の構えは、決して虚飾ではない。体裁を繕うという事にかけて、そこに嘘はないのだ。わざわざ口に出して看破しないのは、そんな事に気焔を吐いたところで舌先に胆汁の苦さを味わう事を知っているからである。ならばそこに本当も嘘も、語るに落ちるだけの材料は存在せず、あって然るべき自我だけがぽつねんと鎮座する。
「明日、鞄見せてやるよ」
二宮隆一が顎をしゃくって得意げに笑みを溢せば、高崎優が見当違いな方向に目配せし、ゆくりなく言うのである。
「そうだ。今日は午後から雨なんだぜ?」
俺は教室の窓から空に浮かぶ雲の色味を確かめる。
「うそ?! 天気予報じゃあ曇りじゃなかったか」
肩を落とす二宮隆一を横目に、鞄の中に常備している折り畳み傘の出番をしずしずと確信した。梅雨入りにしてはまだ早く、雨が降れば肌寒さに一枚上着が増えるような四季の折り目、俺は今そこで生きている。
下校時、黒く染まったアスファルトと、湿った空気の匂いを嗅いで、折り畳み傘を広げた。悠然と何事もなく、手持ち無沙汰を享受する毎日は、あらゆる選択を先延ばしにする気風を育てた。それが仮に今後を左右する特別な選択だとしても、恐らく気付くことなく通り過ぎてしまうはずだ。人との衝突を避ける為に日陰を選んで歩いてきた俺が、唯一気にするべき事柄といえば、目の前の天気ぐらいか。
最近は、前を見て歩く事がなくなった。視線は足元に落ちて、傘も当然ながら前傾ぎみになる。そんな傘の切っ先に、誰ともつかない足が覗いた。このまま進んでしまえば、傘をぶつけ合ってばつの悪い顔を浮かべた末、平謝りを繰り返しそうだ。俺はそれとなく横にズレる。しかし、足は俺の動きに追随し、避けるつもりだった肩と肩がぶつかり合った。
「?!」
思ってもみない行動を前に、肝を潰された挙句、刃物の柄と思しきものが自分の腹部から生えている事に気付く。身体を這い上がる怖気に地面が波打ち、立っていることが困難になって膝をついた。とっ散らかる視線の動きの最中、右手側に人影を見る。俺はなんとか正気を保ちつつ、まじまじとその人影に目を凝らす。そこには、今起きている出来事を満足そうに観察する男の卑劣な顔があり、俯く事でしか抵抗できなかった。腹を抱えるようにして雨に濡れた地面の上を丸まり、浅くなっていく呼吸を一人感じながら、目蓋の重みと懇ろになる。
身体機能の著しい低下によって、心も身体もどこかうつけていたが、蛍光灯では出せぬ味わい深い暖色の光を見ると、安寧らしきものが横たわる。眼前には手彫り感に溢れる天井があり、トンネルを想起させる凹凸が一瞬、室内である事を忘れさせるが、ここは確かに室内だ。家具らしきものが配置されている事や、ベッドと思しき上で横臥する今の自分を鑑みるに、室内であると断言できる。
「どこだ……ここ」
「明日、鞄見せてやるよ」
二宮隆一が顎をしゃくって得意げに笑みを溢せば、高崎優が見当違いな方向に目配せし、ゆくりなく言うのである。
「そうだ。今日は午後から雨なんだぜ?」
俺は教室の窓から空に浮かぶ雲の色味を確かめる。
「うそ?! 天気予報じゃあ曇りじゃなかったか」
肩を落とす二宮隆一を横目に、鞄の中に常備している折り畳み傘の出番をしずしずと確信した。梅雨入りにしてはまだ早く、雨が降れば肌寒さに一枚上着が増えるような四季の折り目、俺は今そこで生きている。
下校時、黒く染まったアスファルトと、湿った空気の匂いを嗅いで、折り畳み傘を広げた。悠然と何事もなく、手持ち無沙汰を享受する毎日は、あらゆる選択を先延ばしにする気風を育てた。それが仮に今後を左右する特別な選択だとしても、恐らく気付くことなく通り過ぎてしまうはずだ。人との衝突を避ける為に日陰を選んで歩いてきた俺が、唯一気にするべき事柄といえば、目の前の天気ぐらいか。
最近は、前を見て歩く事がなくなった。視線は足元に落ちて、傘も当然ながら前傾ぎみになる。そんな傘の切っ先に、誰ともつかない足が覗いた。このまま進んでしまえば、傘をぶつけ合ってばつの悪い顔を浮かべた末、平謝りを繰り返しそうだ。俺はそれとなく横にズレる。しかし、足は俺の動きに追随し、避けるつもりだった肩と肩がぶつかり合った。
「?!」
思ってもみない行動を前に、肝を潰された挙句、刃物の柄と思しきものが自分の腹部から生えている事に気付く。身体を這い上がる怖気に地面が波打ち、立っていることが困難になって膝をついた。とっ散らかる視線の動きの最中、右手側に人影を見る。俺はなんとか正気を保ちつつ、まじまじとその人影に目を凝らす。そこには、今起きている出来事を満足そうに観察する男の卑劣な顔があり、俯く事でしか抵抗できなかった。腹を抱えるようにして雨に濡れた地面の上を丸まり、浅くなっていく呼吸を一人感じながら、目蓋の重みと懇ろになる。
身体機能の著しい低下によって、心も身体もどこかうつけていたが、蛍光灯では出せぬ味わい深い暖色の光を見ると、安寧らしきものが横たわる。眼前には手彫り感に溢れる天井があり、トンネルを想起させる凹凸が一瞬、室内である事を忘れさせるが、ここは確かに室内だ。家具らしきものが配置されている事や、ベッドと思しき上で横臥する今の自分を鑑みるに、室内であると断言できる。
「どこだ……ここ」
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