鞍替えした世界で復讐を誓う

駄犬

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第二部

方針

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 傷の深さに呼応して、もがき苦しむ感触がそのまま刀身から伝わってくる。急所を突かれたスカベラの、暴れ馬さながらの手が付けられない地団駄を想定しながら、更に奥深くへと剣を刺し込んだ。すると、黒々とした体液が流れ出し、生死を分ける目下の足掻きを通り過ぎた。薄弱な痙攣と、口器から糸のような体液が地面に伸びる。

「あと少し!」

 頭と胴を繋ぐ節に斬りかかったトーマスの掛け声を聞いて、スカベラがまさに虫の息である事を知る。それでも、トイレに流そうと手を伸ばした矢先に、ハラワタを引きずりながら動き出すゴキブリの生命力は何度も目にしてきた。油断は大敵で、勝利の美酒に酔いしれるような脇の甘さを見せてはならない。俺は剣の柄をしっかりと握ったまま、スカベラが確実な死を迎えるまで目を決して離さない。

 すると不意に、ボーリングの球が渡されたかのように両腕に重さを感じた。筋肉は直下に掘り出され、なんとか支えようとしたものの、ゆくりなく掛かった重みに俺は切先を地面に向ける。そうすることで、頭だけになったスカベラの様子を目の当たりにした。

「ヨシヨシ」

 トーマスがスカベラの背中の上に乗り、獲物を捕らえた狩人の誇らしげな顔を浮かべる。俺達の猛攻を受けて息の根を絶たれたスカベラの無惨な亡骸が眼前にあるが、たった一匹に強いられた苦闘の果てだと思うと、なかなかに骨が折れる。一昼夜を無事に乗り越える想像など、今はできない。

「……」

 それは明らかに油断であった。数刻を見据えた思案は二匹、三匹とスカベラを誘蛾灯のように引き寄せて、風見鶏さながらに首を回す。

「おいおい……」

 欝勃たる気概をスカベラへ向けるには、一匹目を颯爽と葬る軽々しさが求められ、今の俺達はひとえに苦虫を噛み潰す他なかった。一気呵成に攻勢へ出た先刻の勢いは剥落し、辛うじて平静を保つ事で精一杯だった。

「一網打尽にされて誰一人も生き残らない事が最も避けるべきだ」

 カイトウが独り言のようにそう言って、意思の疎通を図る。手管を尽くした指針では決してない。厭世を多く含んだ自棄を媒介に下された、後ろ暗い打算に因んだものである。だが、その判断は正しい。無数のスカベラに取り囲まれてから脱兎の如く逃げろと告げるのは手遅れ甚だしい。

「チッ」

 然しものトーマスですら、スカベラの影を幾つも見た途端に眉根に皺を作り、不服の声をあげてカイトウに楯突く事はしなかった。それぞれが思い思いの方向へ向き、命を賭した特攻と袂を分かつ。それは、スカベラの触覚に混乱を灯すのを目的とした疾走であり、蜘蛛の子を散らすには些か足りないが、六人も一斉に走り出せば、スカベラも狙いを絞りづらいだろう。そんな算段で起こした行動に俺は逆らった。踵を返してカイトウが走って行った方向へ、堂々と胸を張って追い掛けたのだ。
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