ドーベルマン

駄犬

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「なんだよ。そのネックレス。急に色気付いて、好きな女でも出来たのか?」

 下卑た笑みに裏付けられた、貴賤上下の有様は少年にとって絶望の象徴であった。学校生活は懲罰的な日々となり、首輪に繋がれた家畜同然の荒廃した顔付きを生み出す。見物人の登場を嫌ったクラスメイトの死角を選ぶ良識はまさに、人を痛ぶる上で欠かせない。

「やめたほうがいい」

「お? 随分と威勢がいいじゃないか」

 少年の胸ぐらに伸びる手は、邪な気配が満ちていて、それを撥ね付けるには相応の力と意思が求められた。少年には今、それらの条件に叶ったものが内在しており、凜然と胸を張ってクラスメイトの蛮行へ一つの答えを出す。

「え?」

 クラスメイトが他人事のように惚けた声を上げたのも無理からぬ話だ。自身が伸ばした手首が直立に曲がり、花をつけるように天井に向かったのだから。

「ぉえ」

 嗚咽まがいの息を漏らす。人目を憚り校舎の死角に少年を連れ込んだ阿呆な知恵によって、自らを危機に追いやったクラスメイトは、後悔や懺悔よりも痛みに明け暮れた。

「おいおい、こんな程度で泣きっ面を見せるなよ」

 侮蔑を孕んだ眼差しをクラスメイトに落とす少年は、しげしげと蠕動する頭を鷲掴みにした。指がやおらめり込んでいき、クラスメイトは正気が吸い取られていくかのような自失具合を顔にぶら下げる。チョコが溶けるように少年の指が頭蓋骨の奥へ沈んでいく異様な光景に、赤い血がしずしずと浮き上がってきて、伺いを立てるのだ。

「此方で合ってますか?」

 人智を超えた力の露出は、起こった出来事に対して結果が後からついて来るような、不可逆性に基く。

「あ、あ」

 人語を操る事すら放棄したクラスメイトの口からは、涎が止めどなく流れ出し、虚な瞳は今際の際を見ているようだった。身体の末端に死後硬直を迎える前の痙攣めいた震えを催すクラスメイトに、蘇生処置などによる手当ては手遅れだろう。

「きったね」

 血で汚れた手の指に柳のように絡まる髪の毛から、不潔な排水溝と瓜二つの嫌悪感を覚え、少年はしきりに水気を切った。ワックスがけされて久しい薄汚れた床に頬をつけて横臥するクラスメイトは、背負うべき命がなくなって、身体を探れば銀色のチャックが見つかりそうな抜け殻加減を湛えている。

「……」

 そこに感慨はなく、淡々と命を握り潰した感覚だけが少年の手に残った。白昼に走るサイレンが学校に集まり、花盛る教室の窓に押し寄せる人波を少年は静観した。

 殺害場所が校舎という限られた人物にしかなし得ない数奇な事件は、甘い蜜のように匂いを放ち、昆虫さながらに黒々としたカメラが正門に群生する。少年の犯行から数時間も立たない間に形成されたその有象無象は、生徒の下校を狙って、ボイスレコーダーをマイク代わりに差し向ける。

「友達だった?」

「どんな性格だった?」

「今、どんな気分?」

 立ち止まる生徒がいれば、遠慮会釈ない質問の数々を一気呵成にぶつけて、事件の外殻を埋めようと躍起になる。醜悪極まりない、メディアの目敏さは、必然的に少年を捕まえた。
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