ドーベルマン

駄犬

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集会

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「久世もドーベルマンにやられたみたいだ」

 学生の恵里尾から白髪混じりの年がしらまで、老若男女の人々がアパートの一室を寄り合いの場所とする異様な光景は、林田の召喚に応じた為に起きた。

「そうか。世の中は案外、狭くて奇想天外だな」

 宝石店から出てきた盗難者をドーベルマンが迎え撃つ姿を捉えた監視カメラの映像を、吉報のように嬉々と口頭するニュースキャスターの姿に林田は恨めしそうに目を細めた。

「林田さん、コイツも貴方と似た力を持っているんですかね」

 なかなかにド派手な金色の短髪は、そこらの会社員を見回しても物珍しく、眉毛も剃っている事からこの男、一般社会とは乖離した立場にあると存ずる。

「そうかもね。河合君はラッキーだったね」

 男もとい河合は、林田の軽口に納得のいかない顔をして、滲み出る不満を天井の隅に向けた。

「そんな河合さんのおかげで、飲ませてもらっています」

 恵里尾が、片手に持ったエナジードリンクを河合に掲げて感謝を送る。

「……はいはい」

 一回りも年下であろう恵里尾の意図しない嫌味に河合は苦虫を潰す。このバツの悪さに塩を振ったのは、鼠色のスーツと赤い縁の眼鏡で凛然とした雰囲気を醸す身持ちが固い受付嬢のような風貌をする女であった。名は鈴木。

「自動販売機を潰すなんて、私達の力を無駄に使っているようにしか思えないけど」

 河合の犯行を矮小とみなし、蔑視する鈴木の態度は、林田を中心に形成された集団に於いて、河合を殊更に労る者がいないのを見る限り、それほど見当違いの態度ではなさそうだ。

「派手な盗みでドーベルマンに目を付けられるぐらいなら、これぐらいが最も現実的で有効な力の使い方だと思うけどな」

 河合は胡座に腕を組んで、自身の判断がどれだけ分相応なものなのかを鈴木に解いた。すると鈴木は、呆れた口調で林田へ訊ねる。

「林田さぁーん。声を掛ける相手を間違えたんじゃない?」

「お前……」

 河合は立ち上がり、壁に寄り掛かっていた鈴木の元へにじり寄った。先に手を出す事を唆す睨み合いは、遠慮会釈なく相手を傷付ける争いへの押印にしようとする挑発の構えである。

「見苦しい、やめないか」

 年の功を感じさせる落ち着いた低い声で二人を諫めるのは、林田が先導する集団の中で最も高齢の家内であった。

「長老は黙ってろよ」

 河合はすかさず、不躾な言葉で家内の老婆心を制する。すると、年長ならではの形而下にある穏やかさで二人の荒事を収めようとしていた家内のこめかみに、ふとましい青筋が立ち現れる。

「誰が、ボケ老人だぁ?!」

 仲裁に入ったはずの家内が誰よりも強い怒気を飛ばし、怒髪天を衝くかのような湯がいた赤みを顔に灯す。

「言ってねぇー!」

 もはや何がきっかけでこのいざこざが始まったのか。曖昧模糊とした睨み合いが三人の間に交わされ、頓珍漢な小競り合いを林田は止めに入った。

「はいはい、喧嘩しない。僕らがやり合ったらどうなるか、わかるよね?」

 林田がそう窘めると、三人はいそいそと互いに背を向けて距離を取った。林田、恵里尾、鈴木、河合、家内。合わせて五人が六畳一間の居間で、テレビのニュースを叩き台にこれから先の立ち振る舞いの如何を顧みる。ドーベルマンの登場はひとえに、林田一行の頭を悩ます。

「ドーベルマンは、僕達の前に立ちはだかる当面の敵になるだろう」

 林田はこの場を取りなす中心人物として、論じるべき議題について明瞭にする。

「ぼくはね、共存を望むかな」

 家内は個人的主観に基づき、ドーベルマンに対する考えと自身の立ち位置を鑑みた上で上記の結論を出した。

「それは難しい問題だわ」

 鈴木が眼鏡のレンズを拭きながら、家内の見解と真っ向から対立する。

「俺も右に同じ」

 先程まで互いに忌み嫌っていた鈴木と河合は、ドーベルマンへの対応策を練る必要があり、その舵取りは林田にあると言わんばかりに視線を送った。

「僕も、ドーベルマンとはなるべく早い決着を望んでいるかな。長引けば被害は久世だけに留まらない」

 林田はあくまでもドーベルマンは敵対すべき相手として認識しており、念頭にあるのは自らが率いる集団の邪魔になるかどうかにある。

「でも、ボクらが力を合わせたら、いくらドーベルマンとはいえど、四苦八苦するんでは?」

 揺るぎのない意思を瞳に灯す恵里尾が、凸凹たる集団の力の集約を提案すれば、林田は仄かに笑い、手を叩くのである。

「それは上等だ」
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