2 / 24
一人目
しおりを挟む
呆れ返ったような溜息まじりの言い草は、明らかに私を貶める為の表現であり、悪様に扱う事を遠慮しない初めの一歩目になるだろう。そんな予感があった。
「ありがとう」
あらゆる顔を使い分けながら、社会に迎合する。それは清濁併せ飲む度量が求められ、得てして卑屈になりながちだ。だからといって、本心を見失うような事はない。虚飾は謂わば逆説的に本心を浮き彫りにし、ある一つの目的の為に手段として阿るのは、本心を捉える上で欠かせず、原動力にもなり得る。
そう、病院の敷地を囲うフェンスに群生する有象無象のメディアを背負った人間達も同じだ。各々が持ち寄ったカメラで病院の外観を資料映像とする光景は、通行人から蔑視をもらって当然の醜さがあった。だが、私からすると明確な目的をもって集まった同士であり、他人の物差しで測った道義心など従うまでもない。
中継を任された、とある女性の姿が目に入る。カメラの下に構えられた白い紙を必死に目で追いながら、口を動かしている。せっかくなので、聞き耳を立てて雛鳥のようにお裾分けしてもらおう。
「今現在、この病院で治療を受けている状況です。はい、はい。今から一時間前に搬送されて」
中継先と思われる相手とイヤホン越しで会話をする女性は、身振り手振りで切迫感を煽りながら背景にある事故の深刻さを伝えていた。時間の流れを享受すると私は次に被害者の性別や歳、名前について知る必要があった。個人情報の管理に疎い当事者ないし第三者がインターネット上に身分に繋がる細かな情報を書き残している事が多々ある。世俗の関心を集める事件事故が起これば、蟻道を辿るかのようにして、不特定多数の人間が目くじらを立てる。これは加害者にも被害者にも等しく行われ、私の求めるものが直ぐに手に入った。
「小林一葉。蓮井廉。牧田紀夫。春日部涼太。柳香織。田所順平」
氏名は直ぐに特定できた。これらの事象は全て椅子に座っているだけで得られ、画面を介さずにわざわざ現地に赴く理由は一つだけだ。被害者と接触し、心情を引き出す事にある。これは、対人間のコミュニケーションが大きく作用し、記者の手腕を問うというより、見た目に起因する。寝癖や乱れた服装で得られる信頼など地面の石ころと一緒で、迂闊に口を滑らせる以外に得られるものはない。清潔で理知的な、如何にも後ろ暗い事を抱えていないといった、骨格がいる。その次に、腰を低く保って自分がどれだけ非力なのかを動物的本能に訴えかける。これだけでは警戒を解く事には直接繋がらないが、きっと取材を取り付ける為の第一歩となるだろう。
私は再び、インターネットに目を向けた。一部のソーシャルネットワークは顔を出す事を前提に運営するサイトもあり、ネット上の繋がりを地下を連想して語るのは時代錯誤甚だしく、個人の価値観に合った方法で人間関係の拡大を図るような昨今だ。裁量は全て自分にあり、そこで生じる不利益は始めに提示される長々とした規約の同意に則って処理され、ほとんどの場合は個人の問題に帰結する。
「これか……」
ありふれた風景だったものが、衆目の関心と結びつき、まるで臓物を引っ張り出すかのようにその人物の素性が浮き彫りになる。ソーシャルネットワークとの向き合い方に資質や生来の性格は表出し、とあるニュースキャスターと同姓同名の小林一葉は、年齢、性別が他の被害者より簡単に情報として手に入った。過去を遡れば、住んでいる場所も漠然と把握でき、脇が甘いとここまで徹底的に露見してしまうのかと、その恩恵を授かりながらも少し恐れを抱いた。
「ありがとう」
あらゆる顔を使い分けながら、社会に迎合する。それは清濁併せ飲む度量が求められ、得てして卑屈になりながちだ。だからといって、本心を見失うような事はない。虚飾は謂わば逆説的に本心を浮き彫りにし、ある一つの目的の為に手段として阿るのは、本心を捉える上で欠かせず、原動力にもなり得る。
そう、病院の敷地を囲うフェンスに群生する有象無象のメディアを背負った人間達も同じだ。各々が持ち寄ったカメラで病院の外観を資料映像とする光景は、通行人から蔑視をもらって当然の醜さがあった。だが、私からすると明確な目的をもって集まった同士であり、他人の物差しで測った道義心など従うまでもない。
中継を任された、とある女性の姿が目に入る。カメラの下に構えられた白い紙を必死に目で追いながら、口を動かしている。せっかくなので、聞き耳を立てて雛鳥のようにお裾分けしてもらおう。
「今現在、この病院で治療を受けている状況です。はい、はい。今から一時間前に搬送されて」
中継先と思われる相手とイヤホン越しで会話をする女性は、身振り手振りで切迫感を煽りながら背景にある事故の深刻さを伝えていた。時間の流れを享受すると私は次に被害者の性別や歳、名前について知る必要があった。個人情報の管理に疎い当事者ないし第三者がインターネット上に身分に繋がる細かな情報を書き残している事が多々ある。世俗の関心を集める事件事故が起これば、蟻道を辿るかのようにして、不特定多数の人間が目くじらを立てる。これは加害者にも被害者にも等しく行われ、私の求めるものが直ぐに手に入った。
「小林一葉。蓮井廉。牧田紀夫。春日部涼太。柳香織。田所順平」
氏名は直ぐに特定できた。これらの事象は全て椅子に座っているだけで得られ、画面を介さずにわざわざ現地に赴く理由は一つだけだ。被害者と接触し、心情を引き出す事にある。これは、対人間のコミュニケーションが大きく作用し、記者の手腕を問うというより、見た目に起因する。寝癖や乱れた服装で得られる信頼など地面の石ころと一緒で、迂闊に口を滑らせる以外に得られるものはない。清潔で理知的な、如何にも後ろ暗い事を抱えていないといった、骨格がいる。その次に、腰を低く保って自分がどれだけ非力なのかを動物的本能に訴えかける。これだけでは警戒を解く事には直接繋がらないが、きっと取材を取り付ける為の第一歩となるだろう。
私は再び、インターネットに目を向けた。一部のソーシャルネットワークは顔を出す事を前提に運営するサイトもあり、ネット上の繋がりを地下を連想して語るのは時代錯誤甚だしく、個人の価値観に合った方法で人間関係の拡大を図るような昨今だ。裁量は全て自分にあり、そこで生じる不利益は始めに提示される長々とした規約の同意に則って処理され、ほとんどの場合は個人の問題に帰結する。
「これか……」
ありふれた風景だったものが、衆目の関心と結びつき、まるで臓物を引っ張り出すかのようにその人物の素性が浮き彫りになる。ソーシャルネットワークとの向き合い方に資質や生来の性格は表出し、とあるニュースキャスターと同姓同名の小林一葉は、年齢、性別が他の被害者より簡単に情報として手に入った。過去を遡れば、住んでいる場所も漠然と把握でき、脇が甘いとここまで徹底的に露見してしまうのかと、その恩恵を授かりながらも少し恐れを抱いた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる