親愛なる記者の備忘録

駄犬

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それ如何に

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「私もまだ事故の全容を掴みかねていましてね。柳さんから話を聞いて、さらに深掘り出来ればと考えているんです」

 女性は考え耽るように口をつぐみ、私の了見について含蓄ある風采を象り、如何にも口を挟まれる事を嫌う、独りよがりな思索を見せた。私はその熟慮を快く受け入れる。幾らでも時間を使ってくれていい。付き合う気概がある。

「……」

 ひとしきり何を発するべきかの適当な取捨選択を終えた女性は、そっぽを向いて私への警戒心を露骨に表していた態度を翻し、対面でもって目を合わせる。そして、満を辞して言った。

「私が柳です」

 アパートの出入りを恙無く行う為に、替え玉を用意した「柳香織」の用心深さに感心しつつも、まさかここまでマスコミに対する不快感を要しているとは露も思わなかった。私がこうして彼女と話しているのが不思議なくらいである。

「これはどうも。高谷生来と申します」

 名刺は渡さず、自己紹介をした。こっちの方が滞りなく対話が行えるはずだ。

「不可思議な事とは一体なんの話ですか」

 私は、「小林一葉」と「蓮井廉」から聞いた話を詳らかにし、貴重な証言を授かる為の供物にした。

「もし仮にその話を大手を振って発信したなら、眉唾物の乱心だとする聴衆の姿が目に浮かぶわ」

「柳さんはどうなんですか?」

「ワタシ? ワタシはそうね……。頭を打って、あまり正確な事は言えないし、言いたくもない」

 記憶に蓋をするかのように軽はずみな言動を慎む「柳香織」から有用な情報を引き出すには、一度や二度の接触では些か足りず、時間を掛けて雪解けを待つような悠然とした気風がいる。

「なら、気が向いた時にでも、私に連絡を下さい。その時はしっかりとお話を聞かせてもらいます」

 私は名刺を半ば強引に渡し、潔く「柳香織」の前から去った。経験則を持ち出すほど、取材に対するいろはについて明るくないが、長物なやり取りを繰り返すだけの無駄な時間を過ごすはめになると肌感覚で解る。だからこそ、小林一葉は憮然と足を動かし、私の後ろで黙する。

「……」

「そんな不機嫌そうにしないで下さいよ」

 仏頂面と形容しても良かったが、小林一葉に被せると軽薄に感じ、彫刻されたシワの深さを慮ると比類ない深刻さを思う。

「一通り被害者を訪ねてみてから、彼女にもう一度話を聞いてみましょう」

 私は子どもを諫めるように柔和な語り口で小林一葉の溜飲を下げようとした。

「そうですね。それが賢明でしょう」

 酷く一本調子な弁舌から、全くもって納得していない事が伝わる。ただ、今はそれでいい。無理にご機嫌を伺っても癪に触るだけだろう。

「はい、また次の取材対象が決まったら、連絡させてもらいます」

「わかりました」

 だらだらと時間を共有するより、私達は帰路を選んだ。
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