Distant eyes

とまとぷりん

文字の大きさ
6 / 14

第6話

しおりを挟む
懐かしいメロディが流れてきた。
このCDは、作成当時以来ほとんど聴いていない。
1曲目のイントロはドラムス・ジュンのリズムからだ。
ほとんどジャズ系だから4ビートなのだが、やはりオープニングは軽快にしようと
この曲を選んだ。「Oil Lighter」作曲は知り合いのギタリストだ。
実はこのCDの一曲に別れた妻も参加していた。
元々音大卒でピアノ講師だが、ジャズのリズムが苦手なのと、アドリブが
出来ないという理由からバンドのメンバーにはならなかった。
だが彼女のオリジナル曲が気に入り、少しアレンジして演奏した。
5曲目の「夜桜」がそれだ。
「いつごろの録音なんですか? 」
CDのジャケットを見ながら香が言った。
「そうだな、10年になるかな。懐かしい」
「まだこのCDあんまり聴いて無いんです。この曲好き・・・Oil Lightea
神田さん、よかったらソファに座ってください」
そう言って二人掛けのソファーを指した。
「大丈夫ですよ。もう襲ったりしないから」
そう言うと少し顔を赤らめながら笑った。
二人は静かに演奏を聴いていた。5曲目に入ったところで香が口を開いた。
「この「夜桜」というのは裕子さんの演奏なんですね。作曲もなんだ・・・
この頃はまだ一緒に住んでたんでしょ?」
もちろん一緒に住んでいたが既に家庭内別居に近かったはずであった。
当時は仕事で中国への出張が頻繁にあり、月に半分ほどしか家には居なかった。
にもかかわらず、自宅に戻っても妻の仕事がピアノ講師だったこともあり
車で1時間ほどのレッスンスタジオで生徒を教え、彼女が自宅にもどるのは
9時過ぎ、遅い時は10時を廻ることもしばしばだった。
こうなると帰ってきても疲れているせいか、夫婦の生活はほとんど無かった。
私自身彼女を求める事を自制するようになり、多分この事が原因で別れる事になった
のでは無いかと今になって思う事がある。
「一緒に住んでいたよ。この演奏の頃は何とかやり直せないか模索してた頃かなー」
「今でも裕子さんの事好きなんですか?」
香りが寂しそうに言った。
「もちろん好きだよ。でも会ってないし会いたいとも思わないんだ。要するに・・・
一番好きだった頃の彼女の事意外は忘れちゃってるだけなのかもしれない。
だから好きって言えるのかな?」
自分でも良くわからない感情なのだが、何が原因で別れたのかも思い出せない。
だからと言ってやり直せるとも思えない。
誰かが言っていたが男の女性に対する記憶方法は(名前をつけて保存)
という感じなのだろうか?
「裕子さん素敵な人ですよね。お母さんとは呼べなかったけど・・・
いいお友達だし大切な相談相手でもあるの。今でも好きなんて
やきもち焼いちゃうけど何となく分かる気がする」
「出来れば・・・彼女には僕の事は告げない欲しいな。」
「言ったりなんかしないわ。神田さんとキスしちゃったんだから」
そう言いと香は黙ってうつむいてしまった。
「神田さん 明日・・・もう今日だけど、どこか一緒に行こうよ。忙しい?」
もう午前3時である。さすがに20代には勝てない。
いくらなんでもこのまま寝ないでどこかへ行くなんて事は出来そうに無いし
さすがに眠くなってきた。
それほど飲んで無いのだが、それでもターキーをショットで7~8杯は飲んだだろうか。
「香ちゃん元気だね。さすがに少し眠いよ少しここで眠っていいかなぁ?」
「私眠くないから、神田さんベッド使ってください。よかったらシャワーも」
「いくらなんでもシャワーはマズイよ。ここでいいから」
その辺りまでは憶えているのだが、どれぐらい眠ったのだろうか?
目覚めるとソファーの横で香りが眠っていた。
裕子との間には子供は出来なかったが、居たとすれば香よりは少し若いのだろうか?
そういえば、3年ほど前に少し付き合ってた知恵は確か27歳だった。
それこそ水商売の女性だったが、妙に気が合い月に何度か食事をしたり、映画を観た。
もちろん男と女の関係もあったし相性も合っていたが、知恵が故郷熊本に帰る
という事で連絡を取らなくなった。
腕にもたれて眠っている香がなにか寝言を言っている。
聞き取れないが笑っているようだ。
裕子と関係がなければきっと抱いていただろう。
香は十分魅力的だし会話も楽しい。

少し運命を恨みたくなった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

処理中です...