マヌカン

とまとぷりん

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第二十五話

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智弘と吉井が話していた頃、佳代子の病室に見舞い客が来ていた。
アイドル歌手の山崎真也である。
昨日銀座で出会い、偶然とはいえ事件になってしまった侘びをかね
見舞いに来ていた。
「佳代子さん、昨日はボクのファンが酷いことをしました。本当に申し訳なかった」
黒い麻のジャケットに白いTシャツというラフな格好でも、その存在感は一般人とは
別次元であった。
佳代子とは一度雑誌の撮影で一緒になっただけで、会話らしい会話など
したことが無かった。
佳代子自身、日本の歌謡曲はあまり聴かないのでこの山崎真也の
事もコマーシャルで知っているぐらいのレベルである。
「山崎さんこそお忙しいのにわざわざお越しいただいて・・・」
「マネージャーに聞いたら入院されたって言うじゃないですか。びっくりしましたよ」
「そうだったんですか。ちょっと持病があって・・・それの検査入院なんです」
「そうなんですか。どこかお悪いんですか?」
「たいした事は無いんです。それよりお仕事は大丈夫なんですか?」
「今日はオフなんです。この後スージー・クワトロのコンサートに行くんですよ」
「いいなー。スージー・クワトロ大好きなんです!」
「へー。そうなの?ロックとか聴くんだ。お嬢さんって感じなのに」
「もー、全然聴きますよー。前はドアーズとかだったけど、最近はディープパープルとか」
「うそ?パープルなんか聴くの? 僕はリッチーが大好きで・・・ほら、来日した時
一緒に撮った・・・・」そう言って財布からリッチーブラックモアと並んだ山崎の
写真を佳代子に見せてくれた。
何でも山崎もギターをやっていて、ロックバンドを持っているという。
「もう、僕の宝物なんです。でも脱退しちゃったんだよなぁ・・・彼」
「12月にレインボーが来るんですよね?私、絶対行こうと思って・・・チケット
取れるかなー」
「それだったら、事務所に頼んでおきますよ。何枚か確保できるはずですから」
「えー。ホントですかあ? 行きたいなー。新作アルバム聴きました?」
「虹を翔る覇者 (Rising)ですよね。勿論。ロニー・ジェイムス・ディオ最高ですよね」
「イアンギランも好きだけど、ディオはホントに素敵!」
「なんだか気が合いますね?あっと・・・もうこんな時間だ。そろそろ失礼します。
12月のチケット、楽しみにしていて下さい」
そういと、山崎真也は病室を出て行った。
佳代子は久しぶりに自分の趣味の話ができ、凄く楽しかった。
智弘はそう言った趣味はほとんど無く、佳代子のレコードを聴いても直ぐに
デザインを描きだすという感じで音楽そのものにはあまり食いついてこい。
「山崎真也か・・・いい人じゃん。今度レコード聴いてみようかな」
そう言いながら、山崎が置いていった見舞いのゼリーを頬張る佳代子であった。



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