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第一章:黄金の瞳の令嬢
第一話(前半)黄金の瞳と町の守護者たち
しおりを挟む帝都の午後の陽光が、活気あふれる中央広場を照らしていた。
その喧騒を切り裂くように、一人の男が必死の形相で駆け抜ける。
「どけ! どけぇっ!!」
男が突き飛ばした果物の籠が宙に舞い、色鮮やかなリンゴが石畳に転がった。
「おっと! 今日は一段と威勢がいいねぇ!」
露店の店主が呑気に声を上げた直後、風のように三つの影が通り過ぎる。
「おじさん、ごめん! リンゴは後でカインが代金を払うわ!」
「えっ、僕が!? ……もう、エレーナは人使いが荒いなぁ!」
屋根の縁を軽やかに跳ねる少女――エレーナが鈴を転がすような声で叫び、地上を走る青年、カインとリアムが苦笑いしながらも男を追い詰めていく。
町の人々は、彼らが通るたびに「エレーナちゃん、頑張れ!」「カイン君、今日は一段と速いね!」と親しげに声をかける。彼らにとって、この三人は町の問題を解決してくれる「便利屋」のような身近な存在だった。
だが、逃走中の男――ガルドス侯爵に雇われたスパイが、懐から魔導銃を取り出したことで空気は一変した。
「この、化け物どもが……! 来るな!」
——パァンッ!
乾いた銃声。弾丸はカインたちを掠め、その先にいた、母親とはぐれて泣きじゃくる幼子の方へと吸い込まれていく。
「——いけない!」
エレーナの瞳が、一瞬で鮮やかな黄金色に染まった。
能力【視界共有】により、弾丸の軌道、風の抵抗、子供の怯えまでがスローモーションのように彼女の脳内に流れ込む。
エレーナは屋根からダイブし、空中で身を翻すと、子供を抱きかかえて石畳を転がった。
「……大丈夫、怖くないわよ」
着地した彼女は、子供の頭を優しく撫でて微笑む。だが、顔を上げた瞬間にその微笑みは消え、瞳には冷徹な光が宿った。
「カイン、リアム、追跡を一時中断。町の人に被害が出るわ。……ここは私が片付ける」
エレーナは再び壁を蹴り上げ、垂直に近い壁を一気に駆け上がって屋根の上へと消えた。
男が路地裏の袋小路に逃げ込み、勝利を確信して息を整えたその時――。
「——どこを見ているの?」
頭上から、月を待たずして降り立った死神。いや、あまりに気高い「影」。
男が驚愕して再び銃を構えようとした瞬間、エレーナの黄金の瞳が彼を射抜いた。
【魅了(チャーム)】。
「……あ、あぁ……」
男の腕から力が抜け、銃がカランと音を立てて落ちる。男の意識はエレーナの瞳に吸い込まれ、ただ恍惚とした表情で立ち尽くした。
「よく頑張ったわね。でも、悪い子の遊びはここまでよ」
エレーナは男の手から、機密事項が記された文書を優雅に奪い取った。
遅れて追いついてきたカインとリアムが、屋根の上で髪を整える彼女を仰ぎ見る。
「お疲れ様、エレーナ。やっぱり君の『目』からは誰も逃げられないね」
「さぁ、私たちの『家』へ帰りましょう。お父様とお兄様たちが待っているわ」
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