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第二章 海賊の少女

ヒロインとゲロインは一文字違い、そこに何の違いもありゃしない

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「う、うぅん……」

 少女のうめき声が聞こえる。
 どうやら息があるようだ。

「ノアクルよ、残念がることはすのじゃ。いくら船をリサイクルできないからってのぉ……」
「ちっ、生存者がいたか……――って、さすがの俺でもそこまでは思わねーよ!」

 アスピにツッコミを入れてから、その少女のことを観察してみる。
 年齢は十五歳くらいだろうか。
 普通よりちょっと小柄で、身長は150程度に見える。
 髪は茶色で、大きな錨型のリボンで後ろ結びだ。
 その頭に海賊の船長のような帽子を付けているが、なぜか猫耳のような飾りが見える。

「ん? もしかして……この子は獣人か? この地域では珍しいな」

 猫耳のような飾りだと思っていたものがピクッと動いたので、どうやら帽子に穴を開けて耳を出しているらしい。
 なぜ十五歳の少女が海賊の船長のような格好をしているのかは不明だが、このまま見殺しにはできないだろう。

「……いや、でも海賊なら犯罪者だから助けると面倒なことになるのか?」
「知識不足じゃのぉ……。本当にお主は第一王子なのかと小一時間問い詰めたくなるのじゃ……」
「いや、だって海賊って海の荒くれ者で、商船から強奪したり、港街を襲ったりするんだろう?」
「そういう輩もおるが、この国は私掠船免許を発行しておるのじゃ」
「私掠船免許?」

 アルケイン王国も過去は海賊の被害に悩んでいた時代もあった。
 しかし、敵国からの海域侵犯に立ち向かったのも海賊だ。
 その関係から、敵国からの船に対しては略奪をしていいという赦しである、私掠船免許が発行されたのだ。
 現在でもその私掠船免許を持っているものは、ほぼ海軍の戦力として扱われたりもしている。

「あ~……アレか~。宰相の娘が教えてくれていた気がする……」
「そういうこともあって、海賊の格好をしているからといって、この娘が悪だとは限らないのじゃ」
「それじゃあ、とりあえず助けてやるか。外傷があるかどうかわからないな……俺が確かめるわけにもいかないし……ムル、頼んだ」
「お姉ちゃん、任された~」

 ムルは手の部分が翼になっているのだが、器用にそれを使って触診したり、足で服をめくったりして確認をしていた。
 色々と異性の素肌が見えてしまいそうだったので、ノアクルは急いで後ろを向いた。

「外からわかるダメージなし~。魔力も正常に循環しているから、すぐに目を覚ますと思うよ~」
「俺じゃ確認すると問題があったから助かった、ありがとう」
「いいよいいよ~。弟のできないことをするのがお姉ちゃんの役目~!」
「ふむ、弟というのもいいな」

 アスピが小声で『何じゃこの空間……』とツッコミを入れていたがスルーした。
 そうしていると、少女がピクリと身体を動かしてから、ゆっくりと目を開いた。
 その眼は落ち着きある茶色だ。

「こ、ここはどこだにゃ……」
「ここは船の中だ。俺たちが見つけたときはかなりボロボロだったぞ」
「あ、あなたは……? って、ハーピー!?」

 海賊少女は珍しいハーピーを目にして驚いたようだ。
 床に座ったような格好ながら、ズザッと後ずさった。

「あ~、俺はノアクルで、コイツはムル。悪いハーピーじゃない」
「初めまして~。悪いハーピーじゃないムルだよ~。助けに来たんだよ~」
「ど、どうも。助けて頂いたのに、驚いてしまって失礼しましたにゃ……」
「うーむ、どうしようかな……ムルくらいで驚いていたら……アスピは紹介しない方が……」

 チラッとアスピの方を見ると、トコトコと海賊少女の近くに歩いて行っていた。

「ふんっ、亀が喋って何が悪いんじゃ」
「にゃー!? 亀が喋ったにゃあああああ!?」
「ほら、普通驚くだろ。コイツはアスピ。悪くはないが偉そうな亀だ」
「お主に言われたくはない」
「わ、悪い亀さんではないのですね……失礼しましたにゃ……」
「ほっほっほ、よいよい。ワシは心が広いから、何をされても失礼だとは思わないのじゃ」

 余裕綽々のアスピ、本当に何をされても平気なのか疑問である。
 それはさておき、まだ海賊少女のことを何も聞けていないことを思い出した。

「えーっと、キミは何者なんだ?」
「失礼しましたにゃ……って、失礼しましたしか言ってませんね……。私の名前はジーニャス・ジニアス。えーっと、海軍学校での模擬戦の最中に〝不幸な事故〟に遭って、とある理由で倒れていましたにゃ……」
「とある理由?」
「それは…………オロロロロロロロロロロロロロロ」

 ジーニャスが喋っている途中、とても言い表せない色の物体が口から嘔吐され、下にいたアスピに滝のように降り注いだ。

「なんじゃあああああああああ!? お主なんてことをおおおおおお!?」
「し、失礼しましたにゃあああああ!! 実は私、超船酔い体質でして……海の上だとすぐに吐いてしまうんですにゃ……」

 ジーニャスの最初の印象はゲロだった。
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