上 下
40 / 49
第四章 海上機動都市VS城塞浮遊都市

やるべきこと

しおりを挟む
 耳をつんざく爆裂音、強烈な魔力同士がぶつかる乱反射の虹色が弾け飛び、両者間の空間を荒らした。
 一言でいえば『しっちゃかめっちゃか』だ。
 幸いなことに上手く相殺できたのか、ノアクルがいる艦首からは被害は確認できずに収まった。

「ちっ、仕留め損ないましたわ」

 舌打ちするローズは初めての魔大砲に興奮しているのか、かなり戦意が高くなっている。
 ノアクルは言いたいことはあるのだが、それに対してとりあえず褒めた。

「判断が早いのはいいことだ。こちらへの被害も出ていない」
「当たり前ですわ、宰相の娘ですもの」
「だが――一歩間違えば相手側に被害を出してしまっていたな」
「被害? 攻めてきたシュレドを撃退するくらい……」
「よく見ろ、あの城塞浮遊都市は浮かびはしているが、シュレドの領地である城塞都市バルプタだ。動かすための魔力も考えて、大量の住人が乗ってる可能性が高い」

 ローズの判断は正しいのだが、最適解ではなかった。
 もし、魔大砲の威力が拮抗せずに、パルプタを貫いてしまったら大量の住人が犠牲になってしまうだろう。

「で、でも……」
「言いたいことはわかるが、それでも俺はローズを大量虐殺者にはしたくない。わかってくれるな?」

 ノアクルの気持ちが伝わったのか、先ほどまでとは違いローズは叱られた仔犬のようにシュンとしてしまっていた。

「申し訳ありません……。わたくしが先走ってしまったばかりに……。殿下なら魔大砲ではなく、シールドの方に魔力を回していたはずですわ……」
「次に活かしてくれれば良い。俺だって完璧じゃないからな、ミスってくれたらローズが指摘をしてくれ」
「……はい!」

 魔大砲は強力な一撃を放つと、その魔力補充のために再装填まで時間がかかる。
 それは相手も同じはずだ。
 その間に解析を進めていたアスピが報告をしてくる。

「魔大砲を放ったことによって、魔力の流れが明確に見えるのぉ。大きな魔力源四ヶ所から、一人の人間がいる部屋へ送られている感じじゃ」
「ふむ」
「たぶん魔力源四ヶ所は、ノアクルが推測した通りにパルプタの住人じゃろうな」
「四ヶ所に集めて、その魔力をシュレドがいる魔大砲の制御室に送っている……というところか?」
「まぁ、そんなところじゃろうて」

 乗組員を魔力源とするやり方はこちらの海上都市ノアと一緒だが、パルプタは普通の人間たちが住む都市だったはずだ。
 何も知らずに閉じ込められている可能性が高い。
 やはり正面から殴り合って皆殺しにするような戦い方は気に食わない、とノアクルは考える。
 それも踏まえて、すでに作戦を練っているであろう天才に訊いてみることにした。

「ジーニャス、作戦の提案を頼む」
「そうですにゃ~……。ノアクル様は住人を殺さないようにと考えているはずですので、それを鑑みての提案をいくつかしますにゃ」

 陸に上がると無能だが、やはり船の上だと有能なようだ。

「最初の提案は、このまま全速力で逃げることですにゃ――と言っても、却下だろうと思うので次へいきますにゃ」
「うむ」
「こっちは割と堅実な案ですにゃ。魔大砲が相殺できたので、魔力をシールドに回して防戦に回って、アルケイン王国付近まで付かず離れず退避。さすがに公に都市と住人を危険に晒すやり方を見て放置できない海軍が、シュレドとの戦いに介入してくれますにゃ」
「アルヴァ宰相も味方になってくれる可能性が高いな」

 普通ならその案でいくのだろう。
 だが、ノアクルは違った。

「しかし、今のシュレドは住人に何をするかわからない。魔力を吸い上げすぎて殺すというのも考慮している」
「じゃあ、最後にノアクル様らしい作戦ですにゃ。その名も〝城塞浮遊都市殴り込み作戦〟!」
「ほほう、良い名前じゃないか」

 満面の笑みを浮かべるジーニャスと、ニヤリするノアクル。
 それ以外の全員は嫌な予感しかしなかった。
しおりを挟む

処理中です...