2 / 3
1
居酒屋での話
しおりを挟む
街外れの小さな飲み屋である。
民家の一階部分を改造し居酒屋として作り替えた店である、定年退職し
た老夫婦が趣味としてやっている居酒屋だった。
煙の匂い、酔っぱらいの喧騒が店の中に満ちていた。
店自体は団体客が入れば一杯になってしまう程度の小さな店である。
机が二つ、カウンターにポツポツと人が座っている。
木造のカウンターで、使いこまれたシミと傷が長い間この店を支えているのだと物語っている。
あふれそうなタバコの灰皿。
空のビール瓶。
倒れたお猪口と空のグラス。
カウンターにはグラスを倒した際に零れた酒が拭かれないまま残っている。
常連客が仕事の後にふらっと立ち寄るのに丁度いいとても居心地のいい、疲れた大人たちのオアシスの様な店であった。
カウンターのある場所の奥に普段は使われない座敷部屋がある、そこに二人の人間が酒を飲んでいた。
机の上にはすでに幾つもの空になった皿と空き瓶が転がっている、随分と酒が進んでいるらしく会話も弾んでいるらしかった。
酒を飲んでいるのは二人の男。
一人は大柄の男、もう一人は先日の宗一と志波の戦いを観戦していた天川である、2人とも鍛えこまれた肉体に彼らの持つ視線は鋭い、武術の知識のない人間でさえ彼らの強さを一目見ただけで強さを認識できる。
大柄の男は女性のウェストほどもある腕に2m近くの巨体は威圧感がある、髪はオールバックに固められ決して崩れないようにされている。
大樹の様な男であった。
根本的に人間ではないのだろう。
指が、首が、胸が、脚が、腹が、血管が、神経が、全てが人知を超えていた。
人ではない何かが人の形をしてそこにいる。
顔では笑顔を浮かべているが次の瞬間には修羅でも這い出て来そうな得体の知れなさがそこにあった。
『鳳凰寺 新星』
それが巨漢の名前であった。
日本最強の柔道家であり、最大規模の柔道家組織を束ねる雄こそがこの男であった。
国内外問わず弟子を持ち、その組織の影響力に関しては警察以上とさえ噂される。
「それでアイツはどうなってんだい」
「アイツとは……」
酔いが回っているのだろうか大柄の男は上機嫌に天川を問いかける。
「勿体つけてんじゃねぇよ、この前観たんだろアイツの闘いをよぉ」
「そうですね、ではこちらをご覧下さい」
カバンから出したタブレットを新星の前に差し出す、タブレットには先日の決闘の映像が流れていた。
「結構苦労しましたよなにぶん余りにも情報が少なくて、彼はあの時八神宗一と名乗っていましたが……本名は八雲宗一といいます、身長184㎝体重93㎏とやや重めの体重であります。
しかし実際に私が見たところスピード・パワー共にトップクラスの実力と見受けられます、ですが近隣のジムや道場には一切通っていないらしくどういった恐らくが完全に我流と見受けられます」
天川の会話を聞きながらタブレットの映像を眺める。
「なぁ天川よ、お前さんこの餓鬼に勝てるかい」
「ハハッまさか相手は志波先生を相手に勝利を収めた手練れですよ、勝てるはずがありません」
「天川でも勝てないか、そりゃ残念だ」
言葉とは裏腹に心底楽しそうに笑う、まるでおもちゃを与えられた子供の様に。
「八雲宗一……まいったなぁ恋しちまうぜ」
新星は実に旨そうにビールを胃の中に流し込む。
「しかし柳流とは何なのでしょうか聞いたことがありません、独自の流派なのでしょうか、それにしてはサブミッションや打撃に統一性といいますか芯の部分が見えてこないのです」
宗一が使っていた柳流は飽くまで『翼断ち』の一つのみ他は他流でも見れるような一般的な技のみ、確かに武術は様々な流派から特徴を吸収しそこから派生することから名前が違っていても使う技が同じということは多々ある。
そのことから前回の闘いで様々な技を使うのは理解できる、しかし天川の感じている違和感は別にあった。
流派というのは「○○流と○○流を収めた私が開いた新しい流派です」というのが普通であり、流れを汲んでいる以上その意思か信条を組んでいる筈なのだ、柔道であれば投げ、崩し、受け身、と人間を投る事を目的とし技を発達させている、柔道の祖である嘉納治五郎は技術として存在はしていても明言化されていなかった投げの基本を分かりやすく解説し後世に残している。
しかし宗一の闘いからは使う技の哲学というか目的意識が感じ取れなかった。
流派というよりも一人の男が手当たり次第に格闘技を学びそれで戦っているかのような違和感である、だがそれにしては戦い方が洗練させている動きだった。
「柳流……そういったんか」
新星の目付きが変わる。
コップに再びビールを注ぎ直し飲み干すとカタンッと机の上に置いた。
「柳流……八雲鈴仙の弟子ねぇ」
新星は口角を上げ犬歯を覗かせた。
民家の一階部分を改造し居酒屋として作り替えた店である、定年退職し
た老夫婦が趣味としてやっている居酒屋だった。
煙の匂い、酔っぱらいの喧騒が店の中に満ちていた。
店自体は団体客が入れば一杯になってしまう程度の小さな店である。
机が二つ、カウンターにポツポツと人が座っている。
木造のカウンターで、使いこまれたシミと傷が長い間この店を支えているのだと物語っている。
あふれそうなタバコの灰皿。
空のビール瓶。
倒れたお猪口と空のグラス。
カウンターにはグラスを倒した際に零れた酒が拭かれないまま残っている。
常連客が仕事の後にふらっと立ち寄るのに丁度いいとても居心地のいい、疲れた大人たちのオアシスの様な店であった。
カウンターのある場所の奥に普段は使われない座敷部屋がある、そこに二人の人間が酒を飲んでいた。
机の上にはすでに幾つもの空になった皿と空き瓶が転がっている、随分と酒が進んでいるらしく会話も弾んでいるらしかった。
酒を飲んでいるのは二人の男。
一人は大柄の男、もう一人は先日の宗一と志波の戦いを観戦していた天川である、2人とも鍛えこまれた肉体に彼らの持つ視線は鋭い、武術の知識のない人間でさえ彼らの強さを一目見ただけで強さを認識できる。
大柄の男は女性のウェストほどもある腕に2m近くの巨体は威圧感がある、髪はオールバックに固められ決して崩れないようにされている。
大樹の様な男であった。
根本的に人間ではないのだろう。
指が、首が、胸が、脚が、腹が、血管が、神経が、全てが人知を超えていた。
人ではない何かが人の形をしてそこにいる。
顔では笑顔を浮かべているが次の瞬間には修羅でも這い出て来そうな得体の知れなさがそこにあった。
『鳳凰寺 新星』
それが巨漢の名前であった。
日本最強の柔道家であり、最大規模の柔道家組織を束ねる雄こそがこの男であった。
国内外問わず弟子を持ち、その組織の影響力に関しては警察以上とさえ噂される。
「それでアイツはどうなってんだい」
「アイツとは……」
酔いが回っているのだろうか大柄の男は上機嫌に天川を問いかける。
「勿体つけてんじゃねぇよ、この前観たんだろアイツの闘いをよぉ」
「そうですね、ではこちらをご覧下さい」
カバンから出したタブレットを新星の前に差し出す、タブレットには先日の決闘の映像が流れていた。
「結構苦労しましたよなにぶん余りにも情報が少なくて、彼はあの時八神宗一と名乗っていましたが……本名は八雲宗一といいます、身長184㎝体重93㎏とやや重めの体重であります。
しかし実際に私が見たところスピード・パワー共にトップクラスの実力と見受けられます、ですが近隣のジムや道場には一切通っていないらしくどういった恐らくが完全に我流と見受けられます」
天川の会話を聞きながらタブレットの映像を眺める。
「なぁ天川よ、お前さんこの餓鬼に勝てるかい」
「ハハッまさか相手は志波先生を相手に勝利を収めた手練れですよ、勝てるはずがありません」
「天川でも勝てないか、そりゃ残念だ」
言葉とは裏腹に心底楽しそうに笑う、まるでおもちゃを与えられた子供の様に。
「八雲宗一……まいったなぁ恋しちまうぜ」
新星は実に旨そうにビールを胃の中に流し込む。
「しかし柳流とは何なのでしょうか聞いたことがありません、独自の流派なのでしょうか、それにしてはサブミッションや打撃に統一性といいますか芯の部分が見えてこないのです」
宗一が使っていた柳流は飽くまで『翼断ち』の一つのみ他は他流でも見れるような一般的な技のみ、確かに武術は様々な流派から特徴を吸収しそこから派生することから名前が違っていても使う技が同じということは多々ある。
そのことから前回の闘いで様々な技を使うのは理解できる、しかし天川の感じている違和感は別にあった。
流派というのは「○○流と○○流を収めた私が開いた新しい流派です」というのが普通であり、流れを汲んでいる以上その意思か信条を組んでいる筈なのだ、柔道であれば投げ、崩し、受け身、と人間を投る事を目的とし技を発達させている、柔道の祖である嘉納治五郎は技術として存在はしていても明言化されていなかった投げの基本を分かりやすく解説し後世に残している。
しかし宗一の闘いからは使う技の哲学というか目的意識が感じ取れなかった。
流派というよりも一人の男が手当たり次第に格闘技を学びそれで戦っているかのような違和感である、だがそれにしては戦い方が洗練させている動きだった。
「柳流……そういったんか」
新星の目付きが変わる。
コップに再びビールを注ぎ直し飲み干すとカタンッと机の上に置いた。
「柳流……八雲鈴仙の弟子ねぇ」
新星は口角を上げ犬歯を覗かせた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる