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見苦しく落ちる風船が紫色の羽に見える。
喧しく怒鳴る老婆が妖精に見える。
ぎこちなく空舞う枯れ葉が天使に見える。
揺るぎなく照る太陽が悪魔に見える。
それらすべては輝いていて、
それらすべては穢れていた。
実に幻想的な夢であった。
小林雨斗は思った。
意識を取り戻し瞼を持ち上げると、そこには現実世界が待っていた。
枕元に放られていたスマートフォンで時間を確認する。
「あー、今日はいいか。」
いつも一緒に講義を受けている2人の友人と自分合わせて3人のSNSグループへ、寝坊をしたから大学に行かないと連絡をする。
貧血気味な身体をおもむろに起こし、寝床であるロフトを後にする。
朝食など朝の支度を済ませた彼は、スマートフォンを片手にまた床に寝転んだ。
そこで、ふと気づく。
「まあ、遅刻しないくらいには間に合うのか。」
「普通に生きる」、それが彼の望みだ。
もちろん、やらなければならないことには取り組むし、それに伴って成功も失敗もする。ゲームや人との付き合いでも、良いことと悪いことのどちらも経験する。
彼は、それらのプラス要素とマイナス要素は打ち消しあい、最後は0に帰着すると考えていた。似たような考えを持つ人はいるだろう。しかし彼の場合は、その考えを持つに至ったきっかけが特殊だった。
突然だが、特殊能力の存在を信じるだろうか。一般的な人間は信じないであろうが、実は小林雨斗という人間は、それを持っていた。
発現したのは高校1年の春、ゴールデンウィークの前日である。
その日、彼が親しくしていた友人が他界した。
自殺だった。
その友人は、雨斗に対し、以前から自殺を仄めかす行動をしていた。
そしてそれに雨斗は気付くことができなかった。
ひどく悲しんだ。
ひどく後悔した。
そのはずなのに……
……涙が出ないんだ。
涙が出ないんだよ。
周りはみんな暗い表情をしている。
自分とともに彼とつるんでいた仲間には倒れたやつだっていた。
それなのに
それなのに…
なぜ感情を表に出すことができないのか。
なぜ冷静だと思われ事情聴取に行かされる?
なぜみんなと一緒じゃないんだ。
それならいっそ、もう家に帰りたい。
独りで自分の部屋に座っていたい。
そう思った。
思ってしまった。
気づけば自分の部屋にいた。
川のせせらぎが聞こえている。
紛れもなくそこは現実世界で、疑いようもなくそれは現実だった。
彼が現実逃避から脱するまで、それほど時間はかからなかった。親に励まされ、従姉妹家族に励まされ、亡き友人の家族に励まされ、クラスメイトに励まされた。
親しい仲である人間以外との交流が苦手になり、過度な変化を嫌うようになったが、それでも、復帰することができてとてもよかったというのが彼の心中である。
一方で、彼は、己の新たな相棒の解析にも力を入れた。友の命と引き換えに得た能力ではあるが、彼自身寄り縋れるものが少なく新たに見つけることにも積極的でないため使えるものは使いたかったし、自分の力を把握することはどんな状況でも大切だと思っていた。
短く表すと、空間を掌握し干渉することができる能力だ。効果範囲は大体半径5km。探知、自分を浮遊させる、遠くのものを動かしたりとどめたり、そしてワープ。デメリットは、干渉の程度によって空腹度が増すことである。
この世にとって幸いだったのは、この強力な能力を持っているのが雨斗だったことだろう。亡き友の存在から、自分が悪と思う用途で使わない。さらに、小食だった雨斗は好んで大食いすることもなく、デメリットがうまく制限として機能していた。
「んー、今日は相棒を使って受けたいほどの講義でもないし、ま、いいか。」
差し込む朝日に目を細める。画面には、「今日の部活は用事があるので休みます」と、淡白なサボり宣言が映し出されていた。
喧しく怒鳴る老婆が妖精に見える。
ぎこちなく空舞う枯れ葉が天使に見える。
揺るぎなく照る太陽が悪魔に見える。
それらすべては輝いていて、
それらすべては穢れていた。
実に幻想的な夢であった。
小林雨斗は思った。
意識を取り戻し瞼を持ち上げると、そこには現実世界が待っていた。
枕元に放られていたスマートフォンで時間を確認する。
「あー、今日はいいか。」
いつも一緒に講義を受けている2人の友人と自分合わせて3人のSNSグループへ、寝坊をしたから大学に行かないと連絡をする。
貧血気味な身体をおもむろに起こし、寝床であるロフトを後にする。
朝食など朝の支度を済ませた彼は、スマートフォンを片手にまた床に寝転んだ。
そこで、ふと気づく。
「まあ、遅刻しないくらいには間に合うのか。」
「普通に生きる」、それが彼の望みだ。
もちろん、やらなければならないことには取り組むし、それに伴って成功も失敗もする。ゲームや人との付き合いでも、良いことと悪いことのどちらも経験する。
彼は、それらのプラス要素とマイナス要素は打ち消しあい、最後は0に帰着すると考えていた。似たような考えを持つ人はいるだろう。しかし彼の場合は、その考えを持つに至ったきっかけが特殊だった。
突然だが、特殊能力の存在を信じるだろうか。一般的な人間は信じないであろうが、実は小林雨斗という人間は、それを持っていた。
発現したのは高校1年の春、ゴールデンウィークの前日である。
その日、彼が親しくしていた友人が他界した。
自殺だった。
その友人は、雨斗に対し、以前から自殺を仄めかす行動をしていた。
そしてそれに雨斗は気付くことができなかった。
ひどく悲しんだ。
ひどく後悔した。
そのはずなのに……
……涙が出ないんだ。
涙が出ないんだよ。
周りはみんな暗い表情をしている。
自分とともに彼とつるんでいた仲間には倒れたやつだっていた。
それなのに
それなのに…
なぜ感情を表に出すことができないのか。
なぜ冷静だと思われ事情聴取に行かされる?
なぜみんなと一緒じゃないんだ。
それならいっそ、もう家に帰りたい。
独りで自分の部屋に座っていたい。
そう思った。
思ってしまった。
気づけば自分の部屋にいた。
川のせせらぎが聞こえている。
紛れもなくそこは現実世界で、疑いようもなくそれは現実だった。
彼が現実逃避から脱するまで、それほど時間はかからなかった。親に励まされ、従姉妹家族に励まされ、亡き友人の家族に励まされ、クラスメイトに励まされた。
親しい仲である人間以外との交流が苦手になり、過度な変化を嫌うようになったが、それでも、復帰することができてとてもよかったというのが彼の心中である。
一方で、彼は、己の新たな相棒の解析にも力を入れた。友の命と引き換えに得た能力ではあるが、彼自身寄り縋れるものが少なく新たに見つけることにも積極的でないため使えるものは使いたかったし、自分の力を把握することはどんな状況でも大切だと思っていた。
短く表すと、空間を掌握し干渉することができる能力だ。効果範囲は大体半径5km。探知、自分を浮遊させる、遠くのものを動かしたりとどめたり、そしてワープ。デメリットは、干渉の程度によって空腹度が増すことである。
この世にとって幸いだったのは、この強力な能力を持っているのが雨斗だったことだろう。亡き友の存在から、自分が悪と思う用途で使わない。さらに、小食だった雨斗は好んで大食いすることもなく、デメリットがうまく制限として機能していた。
「んー、今日は相棒を使って受けたいほどの講義でもないし、ま、いいか。」
差し込む朝日に目を細める。画面には、「今日の部活は用事があるので休みます」と、淡白なサボり宣言が映し出されていた。
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