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25杯目.絵日記に紡がれた想い

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僕は、店主から渡された本を鞄に入れ家に帰った。
急いで玄関ドアを開けて、部屋に入る。

鞄から本を取り出し机に置く。
どんな内容が書いているのだろう。
内容がどうあれ受け止めるしか無い。

昨日が最後だと思っていたが、まだ最後のメッセージが意図しないところで残されていたのだ。

表紙には何も書いてない。
ただただ真っ白な本だった。

深呼吸をし、気持ちを整える。
恐る恐る表紙をめくり一ページ目を開く。


予想していたものとは違った。
中には絵日記が書かれていた。
今年に入ってからのものだった。

所々抜けている日はあるが、それでも定期的にかかさず描かれていた。
白紙のページにその日の出来事や、想い。
それに合わせた絵が描かれていた。

読み進めていくと、確かに書かれていた。
周りの人と話が合わない、流行りの事が乗らない、友人同士のノリが辛いなど。
いい日も書いていれば、前に言っていた悩んでいる事なども書かれていたのだ。

僕が知るずっと前から悩んでいたようだ。

「こんなの気づかないよ…」 

つい言葉が溢れる。
その文字や絵からは、この場所から抜け出したいと、大人になって自由になりたいと。
そう書かれていた。

ただ、少し微笑ましくもある。
大人になるために喫茶店に行く。
苦いコーヒーを美味しく飲むなど。
そんな事も、前からやっていたようだ。

次々とページをめくると、僕と出会った日になる。
財布を忘れ、僕が代わりに支払った日だ。

〔とても親切な人がいた、ありがとう〕
〔どこかでお会いしたらお礼がしたい〕

と書かれていた。
気にしなくてよかったのにと、笑ってしまう。

次は偶然にも再開した日だ。

〔例の人に会う事ができた、真田さんと言うらしい〕
〔スーツなので大人っぽいと思ってしまった〕
〔何をしてる人なんだろう、どんな人かな?〕

この頃から少し興味は持っていてくれたようだ。
僕も少しばかり、この頃から惹かれていた気がする。

〔駅で見かけた時は驚いた、この近くなんだね〕
〔本屋さんでまた偶然出会った、これって奇跡だね〕
〔深呼吸し、緊張しながら声をかけてみた〕
〔驚いていたようで、こっちまでびっくり〕
〔緊張して声をかけたのバレてないよね?〕

ははっ、バレるはずがないよ。
彼女が現れただけで、頭が真っ白なんだから。
あの無邪気な笑顔の前には無力だったよ。

〔ちょっと変なことを言ってしまったかな〕
〔嫌われたく無いな、でも本音だったんだよ〕
〔電話番号渡したけど、電話くれるかな?〕

そんな事で嫌いになるはずはなかった。
それに電話はごめん、緊張して電話できなかった。
初恋にも気づいていない僕を、少し理解してほしい。

〔初めて真田さんから電話が来た!変に緊張するな〕
〔真田さんの声が耳元から聞こえるって凄い〕
〔嬉しくて舞い上がってるのバレてないといいけど〕
〔それに、電話とはいえ風呂上がりは恥ずかしいな〕

それは、何度も言いますがバレてません。
僕の方がカッコ悪く無いかって不安だったよ。
ずっと舞い上がって、ずっと意識してるんだから。
それに、こっちの方が緊張したよ。
確かに、電話越しの声が聞こえるのは凄い。
風呂上がりの件は、先に謝ります。すみません。

〔夏祭りの約束しちゃった!楽しみ!〕
〔何着て行こうかな?やっぱり浴衣だよね?〕
〔綺麗だって褒めてくれたらいいな〕

夏祭りの約束は僕も嬉しかったよ。
待ち遠しくて、待ち遠しくて、こんなにも時間が過ぎるのが遅いことを恨んだ日はなかったな。

〔夏祭り当日!スーツ姿で驚いたな、かっこいいな〕
〔浴衣褒めてくれてよかった!気合い入れたからね〕
〔花火も綺麗だだったー、また行きたいな〕
〔横目で顔を見上げていたのバレてないよね〕

うん、時間が迫ってて大変失礼しました。
かなり待たせたよね、だいぶ焦ったよ。
俺も花火はもう一度見たいって思ったね。
最後が名残惜しかったー。
ちなみに、見られてたのは気づいていない。
僕も見てたしお互い様だね。

〔クラスメイトの人にバレそうになった〕
〔実は本屋さんのとこも見られてたらしい〕
〔たまに陰口が聞こえてきてやだな〕
〔真田さんとは何もしていないのに〕

夏祭りの帰りはそういう事だったんだ。
気づかなくてごめんね。
あと、陰口で辛い思いをしていた事にも、何も気づいてやれなかった事、本当にごめん。
今となっては後悔しているよ。

〔今度旅行に行く事になった!やった!〕
〔でも、京都とか遠くに行きたいって思った〕
〔真田さんが王子様みたいに連れ出してくれたらな〕
〔きっと、初めて人を好きになったんだろうな〕
〔この気持ちは大きくしちゃいけない、そう思う〕

僕にはこの頃から周りが見えなくなっていたよ。
自分よがりで、物事を考えて。
もっと早くに気づけていたらと、今も思う。
それでも、この頃は旅行の約束が楽しかった。
どれだけ、僕の心の支えになったか。

〔初めての旅行!しかも初恋の人と!車で!〕
〔ずっと心臓が鳴りっぱなしでうるさかったな〕
〔聞こえてなきゃいいんだけど…大丈夫かな?〕
〔それに、真田さんを名前で呼ばなかった〕
〔この想いは大きくしちゃだめだから、抵抗する〕

この旅行は僕も鳴りっぱなしだったよ。
僕の方こそバレてないか心配だ。
楽しんでくれてありがとう。
僕も大きくなる想いが、抑えきれないほどに膨れ上がってきていたのもこの時期からだったんだ。

〔変な別れ方になっちゃった!〕
〔大丈夫かな?また誘ってくれるかな?〕
〔ダメだ、抑えないといけないのに〕

僕も心配していたよ。
少し様子がおかしいなって感じてた。
でも、本当のことは何も聞かずにいた。
ちゃんと聞けていたら何か変わったかな?

〔車から降りるところを見られてたみたい〕
〔完全にクラスで陰口を叩かれている〕
〔学校に行くの、やだな、何もしてないのに〕
〔親にバレたらどうしよう〕
〔大人だったらこんな事気にしないんだろうな〕

後から知って驚いたよ。
僕の浅はかな行動で傷つけてしまった。
もっと周りを見て、責任を持てる行動をするべき。
今となってはそう考えるよ。

〔今日で会うのは最後になるかも〕
〔私の絵、綺麗って言ってくれた〕
〔すごく嬉しかった、嫌な絵が好きになった〕
〔この絵を渡して、気持ちを終わらせなきゃ〕
〔真田さんにも迷惑をかけてしまうから〕

絵が綺麗なのは本心。
本城さんを綺麗って言ったのも本心だよ。
もう既に心は奪われてたんだから。
絵をくれてありがとう、大事にするよ。

〔またやらかしてしまった〕
〔こんな終わり方にするつもりなかったのに〕
〔最後の最後で、感情が抑えきれなくなった〕
〔こんな終わり方嫌だな…会いたいな…〕

文字が滲んでるけど、泣いていたのかな?
その涙を拭ってやれなくてごめん。
そばにいる事もできずごめん。
謝ってばっかりだね、ごめんね。
それでも,僕も終わりにしたくなかったんだ。

〔修学旅行で皆に問い詰められた〕
〔嫌な言われ方ばかりされる〕
〔なんでこんな事ばかり言われないといけないの〕
〔真田さんの悪口を言うのはやめて!〕

せっかくの修学旅行…。
僕のせいで台無しにしてしまったね。
何度も謝っているけど、ごめん。

〔クラスの人たちは理解してくれたらしい〕
〈陰口も消えはしないが、少なくなった〕
〔ちゃんと伝えたら分かってくれた〕
〔真田さんから着信も来てた〕
〔あとは、最後に真田さんと話さなきゃ〕

かなり悩んで決意してくれたんだね。
最後に連絡をくれてありがとう。
あの日、本心を聞けてよかったよ。
僕も伝えたい事も伝えたし。
二人の終わり方としては綺麗じゃない?
僕はそう思うな。
ま、見栄を張りましたけど。



そうして、会話をしながら読んでいた。
この絵日記ははここで終わっている。
次をめくっていくが、真っ白のままだ。
あの日話した事が、全てだったんだろう。

彼女はこんなにも悩み、苦しんでいたのだ。
この絵日記から色々なことが分かった。
震えた文字や、滲んだ文字を見るとそう思う。

追い詰めてしまったのは自分だ。
彼女の人生に関わってしまった事で。
今はどう思われているか、分からないが。 

それでも、僕は……。


出逢えてよかった。


そう思える。
ありがとう、出逢ってくれて。

絵日記をめくり終える。
すると、最後のページに紙が挟まっていた。
中を開くと手紙だった。

僕へ宛てた、最後の。
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