ジュダストロ・ファーマーズ

瀬戸森羅

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未熟な農家さん

こんな本だったっけ?

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ー午前6時
 朝だね。とっても。今日は雨が降ってる…。とっても…。畑に水をやる必要もなさそうだ…。
 どうしようかな…。

雨になると途端にやることがなくなってしまった。まだほんとに種まいただけだからねぇ…。
 …部屋の整理でもしようか。

「あれ…?」
 本棚に見慣れない本がある…。
「なんだろこれ…。」
 表紙は…説明書…。
「これって…あ、やっぱりそうだ。お仕事のことが書かれた本…。」
 でもおかしい。本の材質が変わってる…?

ー午後12時
「お前の本もそうか。」
「もしかして…ビットの本も…?」
 食事しに行ったレストランでビットと会ったのでさっきの本のことについて聞いてみていた。
「初めはやたらにボロボロだったのになぁ…。」
「そうだね…。」
「知らないんですか?」
 トーマスが急に話に入ってきた。
「トーマス…。」
「失礼しました。面白そうな話をしていたので、つい。」
「なんか知ってるみたいだな?」
「えぇ…。ルーン…というものをご存知かな?」
「ルーン…。アミィが得意なやつだ…。」
「…間違ってないですが、もう少し具体的だとなお良かったですね。」
「魔法…だよな?」
「そうです。」
「もしかして…この本…。」
「えぇ。成長のルーンが彫り込まれてますね。」
「そういえば…種まきのページも畑の整備をする前はなかったな。」
「そうだったの…?」
「目を通してないんですか?」
「そのページに書いてあることやってから…次のページ開くから…。」
 トーマスは軽くため息をついてみせたけど、人それぞれだと思うよ…。
「まぁ、この本はそういった特定の条件に合わせて成長しているんでしょうね。」
「トーマスは流石だな。」
「少し考えればわかりますよ。」
「じゃあ…この本が完全に埋まる頃には、1人前…。」
「だな!」
「頑張りましょうね。」

ー午後2時。
 家に帰ってきた。またあの本を見てみる。
 表紙が変わったってことはやっぱり中身も変わったのかな…?
「あ…。」
 ページの質感も変わってた。
 説明書が、「古紙同様の説明書」から「新品同様の説明書」になった。
 中身は…。やっぱり新しいページが増えていた。
『やぁ、みんな。本の表紙が変わって驚いたんじゃないかな?
今回からページが増えるだけでなく材質も変わるようになったんじゃ。
簡単に説明すると、この本には特殊なルーンが込められていて、諸君らの成長とリンクして本も成長するようになっておるんじゃよ。
 材質はだんだん良いものになるからそれをモチベーションに頑張って欲しいのォ。それでは、仕事にはげむように。』
 トーマス…やっぱりすごいな…。

 僕が本を読んでいると、いきなり玄関の戸が激しく開けられた。
「アルーー!!」
「え?…ミカ。」
「アル!大変だよアル!あたしの説明書がなくなっちゃったのー!!」
「ミカ。この本…見て。」
「なによー!今はそれどころじゃ…って、説明書?アルのやつあたしのと違う…。」
「…このページ…見て。」
「なになに…?…え?本が成長?!材質がかわる?!」
「そうなんだって…。」
「すごーい!じゃあ今頃あたしの家の本もー?!」
「うん…。変わってるはず…。」
「じゃ、まったねー!」
 …ミカはすごい勢いで出ていった。
 まあ、確かに驚くよね…。
 この本…これからどんな内容になるんだろ…。楽しみ。

ー午後5時
「ねぇねぇみんな!説明書の秘密知ってる?!」
 食事に来ていた新成人のメンバーに、ミカが声をかけた。
「…ミカ…今更なんだよ…それ…。」
「俺たちゃあ昼からその話してんの。」
「…はぁ。」
「ちょっとトーマス!ため息だけは許さない!」
「……はぁ。」
「またしたー!」
「まあまあ、私だってさっきまで気づかなかったし、周りに言いたくなる気持ちもわからなくないよ。」
「チェリッシュー…。」
「ああ、みんなの本もそうなんだ~。」
「アミィのもやっぱりそうなんだね。」
「なかなか高級な布になったよねぇ~。」
「え?ちょっとちょっと!話が違うんだけど!」
「…僕のは…古紙が新しくなっただけ…。」
「俺のもそうだった。」
「私もだ。農家メンバーはみんなそうみたいだな。」
「んー、農家はやっぱり作物の成長とも関係するからじゃないかな~?ボクはどんどんやればその分進むからねぇ~。」
「なんか…負けた気分ね…。」
「まあ、そんな落ち込むことじゃないさ。それぞれペースもあるし。」
「出遅れた奴がいないだけいいんじゃねぇのか?」
「確かに…そうかも…。」
「じゃあひとまずアミィの材質を目指して頑張ろうぜ!」
「そうですね。」
「頑張ってね~。ボクももちろんまだまだ成長させるけど~。」
 やっぱりアミィはあんな薬を作っちゃうだけあって本の成長も早いみたいだ。…負けてられないね。

ー午後7時
 今日は結局雨でほとんど仕事せずに終わっちゃったからあんまり疲れてないかな。
 …なんかちょっとだけ暇かも。
 とんとん。
 扉を叩く音がする。
「誰か来た…?」
 扉の鍵を開けた。
「こんばんは。」
「おーっす。」
「あれ?トーマスに、ビット?どうしてここに…?」
「暇になってな。」
「私もです。」
「トーマスなんかは…家で本でも読んでるタイプかと…。」
「…人を見かけで判断してはいけませんよ。こう見えてアクティブなんです、私は。」
「そうそう。トーマスはこれでも一緒にスポーツやったりもするんだぜ。」
 …それは、意外だ…。
「じゃあ…何かすることあるの?」
「こいつを持ってきた。」
 そう言ってビットは懐からカードを取り出した。
「これ、知ってるよな?」
「ジュダストロ・エクスプローラー…。」
「子供向けのカードゲームとされていますが、実は戦略を考えるのは大人でも難しいものです。」
「…確かに昔はやってたけど…。」
「どうだ?やるか?」
「…久しぶりに…いいかも。」
「じゃあ私は魔法使いを取らせてもらいます。」
「じゃあ…僕は…羊飼い…。」
「あ、じゃあ俺は戦士!」
 …夜は更けていった。

ー午後11時
「よし!じゃあ俺達はそろそろ帰るよ。」
「遅くまですみませんでした。」
「楽しかったから…いいよ。」
「じゃあまた明日な!」
「頑張りましょうね!」
「うん…また…ね…ふぁ。」
 2人を見送って家の中に入った。
 …遅くまで懐かしいカードゲームをやっていたら、眠くなってしまった。
 明日も早いし…おやすみなさい…。
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