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第二章 絵麻
50.さらば、配偶者たちよ
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その書類は、数枚のA4用紙をホチキスで留めた冊子だった。
隣から隣へと回してもらい、全員に行き渡ると、みな手にした途端に黙々と読み始めた。
「どういうことだ……」
「これは何……」
戸惑う声、紙をめくる音。
さらには、それらをかき消すかのごとく怒号が響いた。
「なによこれ! こんな物を作るなんて、よっぽどお暇なのね? 会社に出られず暇だからって、こんな悪戯をするなんて、頭がどうにかなったんじゃありませんこと? それともあなたと違って熱心に働いている私と清澄の仲を勘違いして、貶めようとなさってるの?」
清香は興奮した様子でまくしたてると、口元に手をあてて身体を二つに折った。
「そうよ。招いてもらった側がこんな悪戯を仕掛けるなんて失礼ですよ」
義母は清香のもとへ行き、背中をさすり始める。
「清香、あなたはもう下がりなさい」
「絵麻さん、こんなつまらん悪戯は誰も愉快にはならんよ」
義父は怒りを抑えた声で言った。怒気を表に出してしまうと、冗談だと受け取っていないことが気づかれてしまう。それを恐れているかのように。
「これはどういうことなんだ?」
しかし、絵麻の父は苛立ちを隠そうとせず、むしろあらわにして言った。
重役たちはその様子を上目に伺いながら、同時に書類を読み進めている。
みなに読ませた書類は、清澄と清香の不貞に関するものだった。
レオが調査したものを弁護士がまとめた不義の証拠だ。
清澄と清香の会話を書き起こした文章が主な部分で、レストランやカフェ、ホテルのロビーなどで録音したものだった。
その中には、共通の別宅の存在や生活の細々としたやり取りから、二人が共に暮らしていると取れる内容がハッキリと明示されていた。
性行為を暗に示唆する内容から、生まれてくる子供がまるで二人の子であるかのような会話まで、生々しいほど具体的に語られている。
内容だけを見れば、新婚夫婦がプライベートな会話をあけっぴろげにしているような印象のものだが、姉弟でする会話とは思えぬものだ。
そのうえ、健一を貶めるような内容も多くあり、『使えない男』『面白くも何ともない男』などのストレートな悪口はもちろん、『子供の父親になってもらうためには都合がいい』『あいつと私が子作りしたなんてあり得ないのに』などという、息子の父親として利用しているとも取れるものもあった。
「あなたを見損ないました」
清香が絵麻を見据えながら声を震わせた。
「こんな妄想の物語を作れるほどお暇なら、少しはお仕事の勉強をなされるか、弟の気を惹くためにご自分をお磨きになったらいかが?」
言い終わると絵麻をさらに強く睨みつけ、くるりと出口の方を向いて歩き出した。
「あ、清香さん。まだ帰らないでください」
それまで押し黙っていた健一が声をかけた。
しかし清香は無視するばかりか歩みも止めない。
「この離婚届にサインをお願いします」
その言葉でようやく足を止めた。
清香は振り返り、怒りの形相で健一のほうへ歩み寄る。
「何を言っているの?」
「でなければ、こちらの出生前DNA検査の申請書にサインをお願いいたします」
「はあ?」
今度は驚愕の声で叫んだ。
「僕の子であれば、検査をしても問題はないですよね?」
「健一くん、どういうことだ?」
義父が健一に問いかける。
「社長、僕は清香さんと婚前交渉をしていません」
健一は義父のほうを向く。
「僕にはその記憶がないのです」
「なにを……」
娘のそんな話は聞きたくないというようにカッとしたようだが、驚きのほうが大きいらしい。
「妊娠を告げられて結婚に同意をしましたが、入籍したあとも夫婦らしい会話もなければ、二人きりになったこともほとんどありません」
「そうはおっしゃってもあなた、現に清香は妊娠しているじゃありませんか」
義母が叫び声をあげた。
「はい。ですから疑念を解消するためにも、検査を願い出ているわけです。ですが、そのように疑いをかけられることがご不快とあらば、離婚も辞さないということです」
「何を言っているの? この子は間違いなくあんたの子よ!」
清香はお腹を押さえながら悲鳴に近い声で叫んだ。
「あなた、絵麻さんにそそのかされたのね? 絵麻さんは夫の関心が自分に向かないからって他の夫婦も貶めてやろうとしているだけなのよ」
健一は動じることなく、冷静な態度で二枚の書類を清香に差し出した。
「絵麻さんは関係ありません。結果次第では無関係ではありませんが、離婚を願い出ることも、検査を申請することも、僕の意思です」
「な……」
清香は目を見開いた。
「あんたに意思なんて要らないのよ!」
「こんなのいたずらよね?」
義母は清澄に近づき、その腕を掴んだ。
しかし清澄は答えず、書類を見つめたまま呆然としている。
「おい、清澄?」
義父も息子の肩を揺さぶるが、反応はない。
「いたずらかどうかは、お二人のスマホをご覧いただければすぐにおわかりいただけると存じます」
絵麻は朗々と言った。
「スマホ?」
清香が反応した。
「例えばLINEとか、写真とか」
「そんなものまで見たの?」
「いえ、そのようなことはいたしません。ですが、疑念を証明するためにも、ご両親にお見せしてみてはいかがでしょう?」
絵麻が言うと、清香はハッとした顔になる。
「いくら両親でも、プライベートなことよ」
そして、テーブルの上にあったスマホを急いで掴み、両手で抱きしめた。
「おっしゃるとおりです」
絵麻は答えた。本心からの言葉だ。
しかし、義両親もそう考えるとは限らない。なぜなら清香は先ほど口走った。
『そんなものまで見たの?』と。
つまりあの書き起こした会話は捏造したものではないと、暗に口にしてしまったのだ。
それに、よせばいいのに清澄は慌てた様子でスマホを取り出し、何やら操作を始めている。
この流れでその行動は、何やら見られたくないものを削除しているようにしか見えない。
当然というか、やはりその様子を見咎めた義父が近づいて、強引に清澄の手からスマホを奪い取った。
「あっ」
清澄は取り返そうとしたが、義父に睨みつけられてその手を止めた。
「お父様、それは戯れに過ぎません。清と冗談を送り合っていただけなのです」
清香が震える声で言い、取り返すつもりなのか後ろから義父に近づいた。
義父は聞こえていないのか、操作を始めたスマホに見入っていて反応を返さない。
「お父様、いくら息子でもプライベートなものですから……」
清香は義父の真後ろにまで来た。
しかしそのとき何か見えたのだろう。
スマホのほうへ伸ばしかけていた手を途中でピタリと止めた。驚愕の顔で口をパクパクとし、悲鳴をあげて部屋から駆け出ていった。
耳元で叫ばれても義父は無反応のままだった。
顔は紙のように白くなり、今にもその場に崩れ落ちそうなほど震えている。
「なに?」
義母が歩み寄り、義父の横からスマホを覗き込んだ。
それに気づいた義父は項垂れたようになり、力なくスマホを義母に手渡した。
絵麻は、スマホの中に何があるのかまではわからなかった。
また、何かが入っているのかすらわからなかった。
レオから「お二方は行為中の様子を撮影するのがお好みのようです」と耳にしただけだった。
スマホを見るのは配偶者であろうが関係なく無理な話だ。覗き見ることもできないし、部屋に入ることもできない。レオも二人の居室や寝室に盗聴器を仕掛けることは違法だからと、公共の場で交わされた会話の断片を拾っただけだった。
だから、あのように言うしかなかった。
義父たちの手にスマホは渡らなかったかもしれない。
しかし、義父は外面はいいが家父長制そのままな強引な人物であり、義母は清香にべったりの子離れできない母親で、噂話に目がない野次馬根性を持った人物であることを知っていた。
見ても何もなかったかもしれない。
しかし、上手くいかなくても構わなかった。家族に疑念の種を蒔くだけでも十分だと思っていた。
絵麻も健一も、一度で離婚にまでたどり着くとは考えていなかったからだ。
ただ、やるだけやってみようとしただけだった。
義母は一言も発することなく、白目を剥いたようにして椅子に倒れ込み、使用人が数人駆け寄って介抱を始めた。
清澄は叱られるのを恐れている子どものように俯き、身を縮こませているだけだった。
「財産分与だけで構いません。離婚さえしていただければ、慰謝料は必要ありません」
絵麻はそう言って立ち上がった。
「おい、絵麻……」
困惑し続けていた父も合わせて立ち上がったが、珍しくも母がそれを制するかのように被せてきた。
「あなた偉いわ。私にはできなかったもの」
「お母様もお考えになったことがあるのですか?」
母は席を立ち、絵麻に歩み寄って肩に触れた。
「当然よ。何百回とね。でもあなたが不自由するといけないと思って」
「今はもう不自由いたしません」
絵麻が答えると母はくすっと笑った。
「そうね」
そして母は静かに部屋を後にした。
絵麻以外の誰にも言葉をかけず、見ることもなく、父のことすら目もくれずに出ていった。
絵麻は母に向けて一礼し、清澄のもとへ向かった。
「ご記入いただけましたら、弁護士に連絡をしてくださるようお願い致します」
言いながら、清澄の前に一枚の紙を置いた。項垂れていた彼の目に入るように。
すると彼は肩を震わせ、その書類から視線を逸らそうとして顔をあげ、また下げた。どこを見ていいのかわからないらしい。
頼りの姉は既に部屋から逃げ出している。それに気づいているのかいないのか、ただ怯えて、存在を消そうとでもしているかのようだった。
絵麻は静かに周りを見渡した。
「皆様、大変お見苦しいところをお見せしました。深くお詫び致します。役員は辞任する意向ですので、その件は改めてご連絡をさせていただきたいと存じます。それでは本日は失礼させていただきます」
にこやかに言い終え、深々とお辞儀をして、絵麻も部屋を出ていった。
隣から隣へと回してもらい、全員に行き渡ると、みな手にした途端に黙々と読み始めた。
「どういうことだ……」
「これは何……」
戸惑う声、紙をめくる音。
さらには、それらをかき消すかのごとく怒号が響いた。
「なによこれ! こんな物を作るなんて、よっぽどお暇なのね? 会社に出られず暇だからって、こんな悪戯をするなんて、頭がどうにかなったんじゃありませんこと? それともあなたと違って熱心に働いている私と清澄の仲を勘違いして、貶めようとなさってるの?」
清香は興奮した様子でまくしたてると、口元に手をあてて身体を二つに折った。
「そうよ。招いてもらった側がこんな悪戯を仕掛けるなんて失礼ですよ」
義母は清香のもとへ行き、背中をさすり始める。
「清香、あなたはもう下がりなさい」
「絵麻さん、こんなつまらん悪戯は誰も愉快にはならんよ」
義父は怒りを抑えた声で言った。怒気を表に出してしまうと、冗談だと受け取っていないことが気づかれてしまう。それを恐れているかのように。
「これはどういうことなんだ?」
しかし、絵麻の父は苛立ちを隠そうとせず、むしろあらわにして言った。
重役たちはその様子を上目に伺いながら、同時に書類を読み進めている。
みなに読ませた書類は、清澄と清香の不貞に関するものだった。
レオが調査したものを弁護士がまとめた不義の証拠だ。
清澄と清香の会話を書き起こした文章が主な部分で、レストランやカフェ、ホテルのロビーなどで録音したものだった。
その中には、共通の別宅の存在や生活の細々としたやり取りから、二人が共に暮らしていると取れる内容がハッキリと明示されていた。
性行為を暗に示唆する内容から、生まれてくる子供がまるで二人の子であるかのような会話まで、生々しいほど具体的に語られている。
内容だけを見れば、新婚夫婦がプライベートな会話をあけっぴろげにしているような印象のものだが、姉弟でする会話とは思えぬものだ。
そのうえ、健一を貶めるような内容も多くあり、『使えない男』『面白くも何ともない男』などのストレートな悪口はもちろん、『子供の父親になってもらうためには都合がいい』『あいつと私が子作りしたなんてあり得ないのに』などという、息子の父親として利用しているとも取れるものもあった。
「あなたを見損ないました」
清香が絵麻を見据えながら声を震わせた。
「こんな妄想の物語を作れるほどお暇なら、少しはお仕事の勉強をなされるか、弟の気を惹くためにご自分をお磨きになったらいかが?」
言い終わると絵麻をさらに強く睨みつけ、くるりと出口の方を向いて歩き出した。
「あ、清香さん。まだ帰らないでください」
それまで押し黙っていた健一が声をかけた。
しかし清香は無視するばかりか歩みも止めない。
「この離婚届にサインをお願いします」
その言葉でようやく足を止めた。
清香は振り返り、怒りの形相で健一のほうへ歩み寄る。
「何を言っているの?」
「でなければ、こちらの出生前DNA検査の申請書にサインをお願いいたします」
「はあ?」
今度は驚愕の声で叫んだ。
「僕の子であれば、検査をしても問題はないですよね?」
「健一くん、どういうことだ?」
義父が健一に問いかける。
「社長、僕は清香さんと婚前交渉をしていません」
健一は義父のほうを向く。
「僕にはその記憶がないのです」
「なにを……」
娘のそんな話は聞きたくないというようにカッとしたようだが、驚きのほうが大きいらしい。
「妊娠を告げられて結婚に同意をしましたが、入籍したあとも夫婦らしい会話もなければ、二人きりになったこともほとんどありません」
「そうはおっしゃってもあなた、現に清香は妊娠しているじゃありませんか」
義母が叫び声をあげた。
「はい。ですから疑念を解消するためにも、検査を願い出ているわけです。ですが、そのように疑いをかけられることがご不快とあらば、離婚も辞さないということです」
「何を言っているの? この子は間違いなくあんたの子よ!」
清香はお腹を押さえながら悲鳴に近い声で叫んだ。
「あなた、絵麻さんにそそのかされたのね? 絵麻さんは夫の関心が自分に向かないからって他の夫婦も貶めてやろうとしているだけなのよ」
健一は動じることなく、冷静な態度で二枚の書類を清香に差し出した。
「絵麻さんは関係ありません。結果次第では無関係ではありませんが、離婚を願い出ることも、検査を申請することも、僕の意思です」
「な……」
清香は目を見開いた。
「あんたに意思なんて要らないのよ!」
「こんなのいたずらよね?」
義母は清澄に近づき、その腕を掴んだ。
しかし清澄は答えず、書類を見つめたまま呆然としている。
「おい、清澄?」
義父も息子の肩を揺さぶるが、反応はない。
「いたずらかどうかは、お二人のスマホをご覧いただければすぐにおわかりいただけると存じます」
絵麻は朗々と言った。
「スマホ?」
清香が反応した。
「例えばLINEとか、写真とか」
「そんなものまで見たの?」
「いえ、そのようなことはいたしません。ですが、疑念を証明するためにも、ご両親にお見せしてみてはいかがでしょう?」
絵麻が言うと、清香はハッとした顔になる。
「いくら両親でも、プライベートなことよ」
そして、テーブルの上にあったスマホを急いで掴み、両手で抱きしめた。
「おっしゃるとおりです」
絵麻は答えた。本心からの言葉だ。
しかし、義両親もそう考えるとは限らない。なぜなら清香は先ほど口走った。
『そんなものまで見たの?』と。
つまりあの書き起こした会話は捏造したものではないと、暗に口にしてしまったのだ。
それに、よせばいいのに清澄は慌てた様子でスマホを取り出し、何やら操作を始めている。
この流れでその行動は、何やら見られたくないものを削除しているようにしか見えない。
当然というか、やはりその様子を見咎めた義父が近づいて、強引に清澄の手からスマホを奪い取った。
「あっ」
清澄は取り返そうとしたが、義父に睨みつけられてその手を止めた。
「お父様、それは戯れに過ぎません。清と冗談を送り合っていただけなのです」
清香が震える声で言い、取り返すつもりなのか後ろから義父に近づいた。
義父は聞こえていないのか、操作を始めたスマホに見入っていて反応を返さない。
「お父様、いくら息子でもプライベートなものですから……」
清香は義父の真後ろにまで来た。
しかしそのとき何か見えたのだろう。
スマホのほうへ伸ばしかけていた手を途中でピタリと止めた。驚愕の顔で口をパクパクとし、悲鳴をあげて部屋から駆け出ていった。
耳元で叫ばれても義父は無反応のままだった。
顔は紙のように白くなり、今にもその場に崩れ落ちそうなほど震えている。
「なに?」
義母が歩み寄り、義父の横からスマホを覗き込んだ。
それに気づいた義父は項垂れたようになり、力なくスマホを義母に手渡した。
絵麻は、スマホの中に何があるのかまではわからなかった。
また、何かが入っているのかすらわからなかった。
レオから「お二方は行為中の様子を撮影するのがお好みのようです」と耳にしただけだった。
スマホを見るのは配偶者であろうが関係なく無理な話だ。覗き見ることもできないし、部屋に入ることもできない。レオも二人の居室や寝室に盗聴器を仕掛けることは違法だからと、公共の場で交わされた会話の断片を拾っただけだった。
だから、あのように言うしかなかった。
義父たちの手にスマホは渡らなかったかもしれない。
しかし、義父は外面はいいが家父長制そのままな強引な人物であり、義母は清香にべったりの子離れできない母親で、噂話に目がない野次馬根性を持った人物であることを知っていた。
見ても何もなかったかもしれない。
しかし、上手くいかなくても構わなかった。家族に疑念の種を蒔くだけでも十分だと思っていた。
絵麻も健一も、一度で離婚にまでたどり着くとは考えていなかったからだ。
ただ、やるだけやってみようとしただけだった。
義母は一言も発することなく、白目を剥いたようにして椅子に倒れ込み、使用人が数人駆け寄って介抱を始めた。
清澄は叱られるのを恐れている子どものように俯き、身を縮こませているだけだった。
「財産分与だけで構いません。離婚さえしていただければ、慰謝料は必要ありません」
絵麻はそう言って立ち上がった。
「おい、絵麻……」
困惑し続けていた父も合わせて立ち上がったが、珍しくも母がそれを制するかのように被せてきた。
「あなた偉いわ。私にはできなかったもの」
「お母様もお考えになったことがあるのですか?」
母は席を立ち、絵麻に歩み寄って肩に触れた。
「当然よ。何百回とね。でもあなたが不自由するといけないと思って」
「今はもう不自由いたしません」
絵麻が答えると母はくすっと笑った。
「そうね」
そして母は静かに部屋を後にした。
絵麻以外の誰にも言葉をかけず、見ることもなく、父のことすら目もくれずに出ていった。
絵麻は母に向けて一礼し、清澄のもとへ向かった。
「ご記入いただけましたら、弁護士に連絡をしてくださるようお願い致します」
言いながら、清澄の前に一枚の紙を置いた。項垂れていた彼の目に入るように。
すると彼は肩を震わせ、その書類から視線を逸らそうとして顔をあげ、また下げた。どこを見ていいのかわからないらしい。
頼りの姉は既に部屋から逃げ出している。それに気づいているのかいないのか、ただ怯えて、存在を消そうとでもしているかのようだった。
絵麻は静かに周りを見渡した。
「皆様、大変お見苦しいところをお見せしました。深くお詫び致します。役員は辞任する意向ですので、その件は改めてご連絡をさせていただきたいと存じます。それでは本日は失礼させていただきます」
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