悪を狩る獣たち(1次小説版)

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3章:マトの人生

第24話 根鳥常史(1)

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 あいつとの出会いは、大学のときだった。
 親友になったのは、そのだいぶ後。

 切っ掛けは、こんな感じだ。

「どったの? つねちゃん?」

 俺はそのとき、悩んでいた。
 セフレの女の一人が、「妊娠したわ。責任とって」って言ってきたんだ。
 お前、安全日って言ったよな? 

 ……騙された。

 あの女、俺の実家が資産家だと知って、玉の輿狙ってきやがった。
 冗談じゃない、いいとこ80点の女と結婚するなんて、ふざけてる。

「知るかボケ、堕ろせよ。金だったら出してやるから」

 そう言ったら、実家に乗り込んであなたのご両親に言うからねの一点張り。
 両親、頭固いから、三男坊の俺ぐらいなら責任取ってこういう女と結婚するのもいた仕方なしとか、わけわかんねぇこと言って結婚を認めそうな気がする。
 どうしよう。俺の妻は100点の女以外ありえないのに。

 そうして悩んでいるところに、あいつが話しかけてきた。
 同じサークルに所属していて、妙にウマがあって仲良くなった友人・栄田文吉はえだぶんきち
 小柄だが、目に力があって、こいつ、強いな、という雰囲気が気に入っていた。
 飄々としてて、面白く、段々色々話す間柄になっていた。

「実はさ……」

 悩みを話した。

「なるほど。とんでもない女だね。名前とか分かってんの?」

「教養学部の、玉野越子たまのこしこ

 顔は並だけど、チチのデカさが満点だったんだよ。
 なのに、とんだ食わせ物だった。

 俺の言葉を聞き、栄田は頷く。
 そして

「うんうん、なるほど。……なぁ、この件、ボクに任せてみない?」

 何か分からんことを言ってきた。
 困惑する。

「お前に?」

 そう問うと

「うん。1週間! 1週間で解決してみせるから!」

 何か、自信満々に。

 どうする気だ? 
 俺はそう思いつつも「分かった。頼むぜ」と言った。


 3日後、教養学部の玉野が、自宅の風呂場で感電死した。
 どうも、入浴中にドライヤーを使っていて、それをうっかり落としてしまったらしい。

 ……これで、妊娠の件で悩むことは無くなった。
 だって、死んだもの。孕んだやつ本人が。

 でも、まさか……

「どう? スピード解決でしょ?」

 ニコニコして、あいつは言った。

 さすがに、驚いて、誰も居ない廊下にあいつを連れだした。

「……なぁ、殺ったの?」

 恐る恐る聞くと

「うん! まぁ、楽勝よ!」

 Vサインしつつそう答えてくる。

 俺は

「……すげぇな、お前」

 興奮していた。
 本物の殺し屋ってやつを、初めて見たから。


 その後、当時の自宅のマンションに連れてきて、色々聞いた。

 どうも栄田の奴、「ダークギルド」っていう犯罪組織に所属する殺し屋なんだそうだ。
 で、そこで中学くらいから仕事してるって。

「まあ、かなーり稼いでいるよ」

 自慢げに栄田は言った。

 やっぱ殺し屋は、稼げんだな。
 まぁ、発覚したら死刑免れないんだから、そうでないと割に合わないか。

 でも……

「……今回は、何で俺を?」

 そりゃ友達だけど、限度はあるだろ。
 そう思ったから、聞いた。

「……ちょっとさ、自分の力でさ、生涯のお客さんを作っておきたかったんだよねぇ」

 遠い目をして。

 聞くと、ダークギルド経由で顧客はそれなりに居るけど、どうもそういう相手、ダークギルドの看板で紹介されたわけだから、どうにも「自分がとってきた仕事!」って感じがしないらしく。
 充実感がいまひとつらしい。

 だから。

 俺が資産家の家の子だって知っていたので、こいつを俺の生涯の顧客にできないか? って思って、白羽の矢を立てたんだそうだ。
 俺なら、真実を話しても驚かない、感心するだろうと踏んでも居たらしい。実際、その通りだったんだけど。

「よくあんじゃん? 資産家が個人的に殺し屋と交流あって、ツーカーの仲になってるのって。そういうの、ボク、憧れててさ」

 照れながら、言ってきた。

「普通ならボクの仕事、ひとり200万円とってるんだけど、つねちゃんの場合は50万円でいいわ」

 え? マジで? 
 つーか、闇営業みたいなこと、していいの? 

「ああ、上納金はちゃんと払うから。つーか、その上納金が50万円なのよね。だから実質タダ働き。あくまでさ、ボクの充足感のために、つねちゃんと雇用契約結びたいのよ」

 ……じ~んときた。
 こういうの、運命の出会いって言うんだろうか? 

「まぁ、だから頼むときは遠慮なくしてくれていいけどさ。それは今回みたいに「避けられない」場合にしてね」

 まぁ、そうだよな。
 友情って寄生関係じゃ無いもんな。
 相手の善意に甘えて、やり過ぎたら結局全部失う羽目になる。
 金の卵を産む鶏を、縊り殺した老夫婦みたいに。
 気は遣わないとさ。

「当然だろ。ズッ友!」

 こうして俺と栄田は親友になった。
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