後に悪の帝王となる王子の闇落ちを全力で回避します!

花見 有

文字の大きさ
1 / 17

第1話

しおりを挟む
 ここはカルヴァ王国――王宮に向かう馬車に揺られ、ルイーザは緊張した面持ちでいた。

「ルイーザ、今日は王宮のお茶会よ。いい?貴方はセルビア公爵の娘。将来は王妃になるかもしれない。いいえ、きっとそうなるわ。ですから、その事をよく肝に銘じて、今日のお茶会を過ごしなさい」

「はい。お母様」

 ルイーザは母の教えを背筋を伸ばして聞いていた。
 まだ、5歳とはいえ公爵令嬢であるルイーザのその淑女ぶりは完璧であった。そんなルイーザは、今日初めてこの国の二人の王子と会う事になる。

 第一王子のエヴァルト様、それから第二王子のレオン様だ。

「それから、第二王子のレオン様とはあまり関わらないようにしなさい」

 お母様が厳しい口調で言ったので、ルイーザは理由も聞けず「はい」と返事をした。

 カルヴァ王国の二人の王子は異母兄弟であった。第一王子のエヴァルト様は王妃であるカルメラ妃の子で、第二王子のレオン様は側室のリシェル妃の子であった。
 王位継承はエヴァルト王子でほぼ決まりだと言われているから、私を王妃にしたいお母様はレオン王子には関わるなと仰ったのかもしれない。けれど、私の中で本当は彼の方が気に掛かっていた。同じ歳という事もあるが、レオン王子のお母様であるリシェル妃は最近、病気療養の為に地方の別邸へ移ったと聞いたからだ。

 レオン王子は寂しい思いをしているのではないかしら……。

 しかし、お母様の言う事は絶対だから、私は王妃になる為にレオン王子じゃなくて、エヴァルト王子に気に入って頂かなくてはいけないのよね。エヴァルト王子は私よりも5歳も上だから、しっかりしている所を見せなければ。

 ルイーザは馬車の窓から見える王宮を眺めた。

 ◇

 お茶会は宮廷内のサロンで催されていた――

 母親に連れられ、ルイーザはカルメラ王妃に挨拶をすると、カルメラは値踏みするようにルイーザを見た後、侍女に耳打ちした。
 その行動にルイーザはこれまでにない程、緊張していた。

 どうしましょう。私、何か粗相をしてしまったかしら……。 

 すると、侍女に連れられてブロンドの髪に青い瞳の年上の少年がやって来た。

「ルイーザ嬢、こちら第一王子のエヴァルトよ」

 カルメラ王妃様に紹介されて、私はエヴァルト王子にカーテシーをした。

「はじめまして、エヴァルト王子。セリビア公爵の娘、ルイーザにございます。お会いできて光栄です」

「フフッ。これは、これは、可愛らしい淑女だね。よろしくルイーザ嬢」

 エヴァルト王子が物腰柔らかそうな少年であった事に、ルイーザは少々驚いていた。

 カルメラ王妃は厳しそうな方に見えるけれど、エヴァルト王子は優しそうな方に見えるわ。

 ルイーザがそんな事を考えていると「それから……」と王妃様の顔がスッと無表情になる。そして、目配せした先から出てきたのは、黒髪にパープルの瞳のルイーザと同じ年頃の美しい少年だった。

 その少年の姿を捉えるとルイーザの心臓は、ドクンと警報を鳴らすように波打った。

 あら?私、あの子を知っている……?

 急に頭を過ぎったのは画面に映った黒髪の青年の高笑いしている姿……――

 あ……れ……?これはなんの記憶?

 その少年は、ぎこちない様子でルイーザ達の前に来ると、怯えたようにルイーザを見た。

 待って、彼は……

「それから、エヴァルトの弟でレオンよ」

 王妃様が吐き捨てるように言うと、その少年……レオン王子は視線を下に落としてしまった。

「レオン……王子……?」

 下を向いていたレオン王子が怯えたように私を見た。
 その瞬間、頭の中を前世の記憶が駆け巡る――

 日本人として生きていた事。その時の家族、学校、友達……そして、ハマっていたゲーム……――

「聖女と……国を、護る英雄た、ち……」

 そう小さく呟いて、私はそのまま倒れてしまった。


 ◇


 キャー!バシリオ様かっこいい!ファニアちゃんかわいい!はあ、マジこのカップル推せるわぁ!!

 私はスマホのゲーム画面を見ながら、ニヤける顔を道行く人にバレないようにマフラーでかくした。

 会社帰りに我慢出来ず、ゲーム画面を開いた私は画面に映る二人の映像にニヤニヤしていた。
 そのゲームとは私がハマっている『聖女と国を護る英雄達』という乙女ゲームだ。ゲームのヒロイン、ファニアが聖女の力を得て、ホステラーノ王国を悪の帝王から護るというもの。一緒に国を護る仲間として、ホステラーノ王国のバシリオ王子、エルフの魔術師シーフス、そして王国最強騎士と唱われるゴートン。この三人と共に悪の帝王から国を護り、そして仲間の誰かと結ばれるというストーリーである。

 その中でも特にファニアとバリシオ王子の王道カップルが私のお気に入りであり、ブラックな会社で死に物狂いで働く私の唯一の癒やしであった――

 明日は久しぶりの休みだし、今日は悪の帝王レオンを倒して、エンディングまでやっちゃうおう!
 もう何周もしてるけど、ファニアとバシリオ王子の幸せなエンディングは最高なのよ!

 私は信号が青に変わったのを確認すると、スマホを鞄にしまい意気揚々と交差点を歩き始めた……次の瞬間……――


 ――キキキー!!!

 私は信号無視のトラックに轢かれそのまま呆気なく――


 ◇

「ぅわああああ!!!」

 叫んで起きたそこは、会社帰りの道路ではない。アパートの部屋でもでもない。
 いや、日本ですらない!!
 こ、ここは……――

「わ、私の部屋だ……」

 先程の叫び声とは比べ物にならない小さな声で呟いたが、どうやら隣にいたお母様には聞こえてしまったようだ。

 お母様は耳を塞いで睨むように私を見ていた。

「全く!起き抜けに叫ぶなんて、令嬢としてはしたない!!」

「も、申し訳ございません……」

 睨む母親に、ルイーザがしおらしく謝罪すると、お母様お得意の小言が始まった。
 ルイーザはそれを下を向いたまま黙って聞いている――ようで頭の中はそれどころではなかった。

 待って。待って!私って、あのルイーザだよね?
 そうよね。ルイーザに転生したのよね?

「聞いているの!?ルイーザ!!」

 お母様のお小言の最中だが、ルイーザの頭の中は先程の夢……、いや前世の記憶の事で混乱していた。

「お母様……、どうしましょう。このままでは私、処刑されてしまうのです」

 だって、悪の帝王が倒された後、妻ルイーザも処刑されたって、サラッとナレーションで……

 私が真剣にそう訴えるとお母様はこめかみと唇をプルプル震わせた。

「ええ。王妃様のお茶会で、しかも王子が見ている前で倒れるなんて!貴方のせいで王子からの婚約話すら来なければ我が家は社交界で笑いもの。そうなったら、貴方には処刑も同然の罰が必要ね」

 と低くドスの効いた声でいった。

「しばらく自室から出るんじゃありませんよ!」

 お母様はそう吐き捨てると、私の部屋から出ていった。

 お母様こっわ!

 って今はそれどころじゃなくて、ここが『聖女と国を護る英雄達』の世界って事よ!
 つまり私は、日本人としての人生が終わって、ゲームの世界に転生したって事よね。しかも……――よりにもよって……どうして主人公側ではなく、敵国のルイーザ・セルビアに転生してしまったの……――

 だって、ルイーザって……カルヴァ王国の王妃でつまりそれは、あの悪の帝王レオンの妻って事よ!?
 という事は、私の行き着く先は、処刑――


 ええー!?せっかく社畜から開放されて、この世界に転生出来たのにそんなの嫌よー!!レオンが悪の帝王なんかになるから…………あ、そうよ。そうなのよ!!まだ、レオンも私も5歳じゃない。レオンが悪の帝王になるまでには時間がある!
 これは、レオンの闇落ちを回避して悪の帝王になるのを阻止するしかない!!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生公爵令嬢は2度目の人生を穏やかに送りたい〰️なぜか宿敵王子に溺愛されています〰️

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リリーはクラフト王子殿下が好きだったが クラフト王子殿下には聖女マリナが寄り添っていた そして殿下にリリーは殺される? 転生して2度目の人生ではクラフト王子殿下に関わらないようにするが 何故か関わってしまいその上溺愛されてしまう

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

結婚前夜に婚約破棄されたけど、おかげでポイントがたまって溺愛されて最高に幸せです❤

凪子
恋愛
私はローラ・クイーンズ、16歳。前世は喪女、現世はクイーンズ公爵家の公爵令嬢です。 幼いころからの婚約者・アレックス様との結婚間近……だったのだけど、従妹のアンナにあの手この手で奪われてしまい、婚約破棄になってしまいました。 でも、大丈夫。私には秘密の『ポイント帳』があるのです! ポイントがたまると、『いいこと』がたくさん起こって……?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

処理中です...