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しおりを挟むこの国では1年前にある法令が定められた。
国民の結婚は、身分に関係なく自由である――
それは、今までのような貴族間であった政略結婚は認めないという事だ。これにより、親が子に結婚相手を進める事は望ましくないとされた。
「良かったわ。私、実は下働きの男と恋仲なんだけど、これで堂々と付き合える」
「子爵令嬢の私の身分じゃ、候爵子息と結婚出来るわけ無いって思ってたけど、玉の輿狙っちゃおうかしら!」
そして、この法令は思いの外、皆に歓迎されていた。
――ただし、クレリッチ公爵令嬢であるフェデリカにとっては何とも迷惑な法令であった。
「はあ。自分で結婚相手を見つけるだなんて、私には絶対に無理よ……」
フェデリカは人と関わる事が苦手で、今まで舞踏会にも滅多に参加していなかった。
「公爵令嬢だから、いずれ両親が決めた相手と結婚すれば良いと思ってたのに、どうしてこんな事に……」
フェデリカは部屋で頭を抱えて、絶望した顔でブツブツと呟いていた。
フェデリカが頭をガシガシかくから、侍女がせっかく梳かした綺麗なシルバーの髪はボサッとなっていた。
「フェデリカ、誰か好きな人はいないの?お付き合いしている人は?」と毎日のように両親に聞かれる質問に、フェデリカは追い詰められていた。
公爵家の一人娘だけあって、後継者が必要という点でもフェデリカの結婚は絶対だったのだ。
「ああ、こんな事ならあの時に勧められた殿方と結婚しておくべきだった……」
いや、無理か……
フェデリカは悟ったように薄紫の瞳を閉じると数年前の事を思い起こす。
以前、フェデリカがデビュタントを終えてすぐの頃、候爵家の次男との縁談が持ち上がった。
そして、初めての顔合わせの日、フェデリカは緊張のあまり、何も話せず下を向いてしまっていた。
「フェデリカお嬢様、そう緊張なさらずどうかお顔を見せて下さい」
相手の侯爵令息が優しく声をかけてくれ、フェデリカは意を決して顔を上げ……そして、なんとか笑顔を見せねばと笑った。
しかし――
「うわっ」
侯爵令息は、引きつった顔で明らかに嫌悪感を示した。その場は何とか両親が取り繕ってくれたが、フェデリカは一言も言葉を発する事なく、下を向いてこの針のむしろのような顔合わせの場から、逃れる事だけは耐えたのだった。
しかし、顔合わせ後に侯爵令息から手紙が届いたと思ったら、格下の自分から断ることは出来ないから、どうかそちらから断ってくれという内容の手紙だったのだ。
それでも公爵令嬢であるフェデリカに、その後も縁談の話はいくつか持ち上がったが、ある日パタリとそれもなくなってしまった。
焦ったフェデリカが2度目に参加した舞踏会で、トラウマとなる決定的な出来事が起こったのだ。
フェデリカが会場に入ると、一斉に皆がこっちに注目したのだ。そして、ひそひそと何か話していると思ったら、クスクスと笑う声。人前に出るのが苦手なフェデリカにとってそれは恐怖であり、その場から逃げるように会場を出たのであった。
そして、後から分かった事だが、どうやら見合いをした侯爵令息がフェデリカの事を、無口で笑顔一つも作れない陰湿な令嬢だと話した結果、それが社交界で広まり、フェデリカは結婚相手に相応しくない令嬢だと噂されていたのだった。
そして、フェデリカは社交界から完全に距離を置くようになってしまったのだった。
それでもクレリッチ公爵家を存続させる為、結婚は必須だという事は理解していた。幸い、政略結婚が主流の貴族社会。両親も私の事を気遣って、いずれ地方の気の良い青年を探してあげるからと言ってくれていたのだが、あの法令が出来たせいで、それも出来なくなってしまった。
「はあ、舞踏会なんて怖すぎて行きたくないし。どこで相手を見つけたら良いのよー」
頭を抱えるフェデリカを心配そうに見ていた侍女のテリルが言った。
「お嬢様。ここは腹を括ってもう一度舞踏会に行きましょう」
「む、無理よ!無理!舞踏会での皆のあの視線耐えられないわ。それに行った所で、私を相手にする殿方がいると思う?」
「しかし……」
「ああ、どうしたらいいの?舞踏会以外で殿方と出会う所はないの!?ねえ、テリル。男女は舞踏会以外でどこで出会うの!?」
「あ!お嬢様、それでしたら、今度王妃様が開催されるお茶会に先ずは行かれては如何ですか?ほら、ちょうど招待状も来ていることですし。王妃様がいる前でお嬢様に何か言うような人はいないですよ。ですから、先ずはお茶会で社交界に慣れてみましょう」
確かにこのまま、引きこもっていても結婚など出来ない。それに、王妃様はこうなった私に何度も手紙を下さったり、他の貴族からは段々減ってしまったお茶会や舞踏会のお誘いも必ず招待状を寄越してくれていた。こんな私の事をいつも気に掛けて下さる心優しい方がいてくれるのならば、心強いわ。ここは一歩踏み出さなければ!!
こうしてフェデリカは、久しぶりに社交場へと参加する事を決意したのだった。
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