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第一夜ー Boys ー
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こんな夢を見た。
「死ねよ。お前なんか」
そう告げてやったときの灯也の顔といったらなかった。ざまあみろ。僕はだんだんと気持ちが昂ぶってくるのを感じた。
もっと傷つけ。後悔しろ。打ちひしがれろ。今僕の怒りがお前一人に向けられていることを知れ。
灯也は信じられないというような顔で僕の目の前に立っている。僕を見ている。床には粉々に散りばめられガラスの小瓶。きらきらと輝くそれは綺麗だった。しかし中に入っていたものは見るも無残な姿となっている。僕はそれが激しく気に入らない。だからこいつに言ってやったんだ。お前のせいだ、と。お前なんか死ねばいい、と。
たった一言『死』という言葉を投げかけてやっただけでなんという顔をするのだろうこいつは。僕は思わず頬が緩むのを抑えることができなかった。
そうだ。お前にこの怒りが分かるもんか。どれだけ悔しいか分かるもんか。大事なものの大切さがお前なんかに分かるもんか。
お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ―――。
「……ごめん、ごめんなさい……ごめ……ぅ」
泣きながら謝りだした灯也。僕はそれでも心の中にどろどろと黒いものが巣くっている感覚を感じていた。そのどろどろした感情は、灯也が僕の小瓶を割った瞬間から芽生えていたもので、重く苦しくて、灯也にしか吐き出すことのできないものだった。僕の中にあるとき、僕はとても気分がイライラしてくる。不愉快だ。中でどろどろしてるときはとても気持ち悪いのに、灯也に吐き出すときだけ気分がすっとする。僕はその瞬間がとても好きだ。もっと、もっとと黒いどろどろが僕を急かす。行き場がないんだ。黒いどろどろが僕に囁く。
大丈夫だよ。
僕は黒いどろどろに言う。
すぐ、出してあげる。
僕は灯也に歩み寄る。跨いだ小瓶の残骸を見て、また黒いどろどろが騒ぎ出す。
「ねえ、灯也」
僕が話し掛けると灯也はびくっと体を揺らした。そして恐る恐る僕を見る。その瞳に映る怯えの感情が僕を喜ばせた。僕はまた唇の端が無意識に吊りあがるのを抑えることができなかった。
もっとだ。もっと怖がれ―――。
「今から僕が言うことをしてくれたら、許してあげるよ」
死への恐怖すら霞むほどに、僕の怒りを怖がれ……。
「可哀想にねえ、まだ10歳でしょう?」
「遺体は見つからなかったんですって」
「まあ、でもそれじゃあ生きているかもしれないじゃない」
「それがね、首から上だけ、見つかったそうよ」
「あそこでしょ?森の奥の、三ノ沢沼、でしたっけ」
「やあねぇ、ここらへんは平穏だと思っていたけど」
部屋の隅で知らないおばさんたちがごそごそと喋っている。
僕は今まで着たことも見たこともなかった黒い服を着て、同じように黒い服に身を包んだ両親に手をひかれて灯也の家に来ている。灯也の家の中にも黒い格好の人たちがいっぱいいた。僕は一人首を傾げる。
あれ。僕なんでこんなところにいるんだろう。
「ほら、宮斗。灯也くんにお別れのあいさつしなさい」
お母さんが僕に言う。お別れ?何で?灯也がどうしたの?
僕は目の前にある大きな棚を見上げた。
そこには屈託のない笑顔でこちらを見ている少年の写真があった。
僕はそれを見て、また首を傾げる。
灯也の写真?何で?何で灯也の家なのに灯也はいないの?何で黒い服を着ているの?あのおばさんたちは何を話しているの?遺体?誰の?灯也?沼って、どこの?首から上だけ?そんなの生きてられないじゃん。じゃあ何で僕は灯也にお別れを言うの?こんなの、こんなのまるでお葬式みたいじゃん。お葬式は人が死んだときにするんでしょ?誰が死んだの?
頭の中でぐるぐると疑問が飛び交う。ひどい頭痛がする。気持ち悪い。頭の中にひどく重い焦げつきみたいなものがあって、それに触れようとしても心のどこかが躊躇する。でも、その焦げつきに全ての答えがある気がするんだ。僕はゆっくりとその焦げつきに手を伸ばす。
灯也は、死んだの?そう、死んだ。いや違う、殺されたんだ。誰に?
僕、に……?
「宮斗?どうしたの、具合でも悪い?」
気遣わしげに僕に話し掛けるお母さんの声がどこか遠くから聞こえるようだった。
ああ、そうか。
僕は頭がだんだんと冴え渡ってくるのを感じた。
「宮斗、宮斗?あなたっ、ちょっと来て。宮斗の顔が真っ青なのっ」
灯也を殺したのは、僕だ。
あはは、
「……なあんだ、僕か、」
「死ねよ。お前なんか」
そう告げてやったときの灯也の顔といったらなかった。ざまあみろ。僕はだんだんと気持ちが昂ぶってくるのを感じた。
もっと傷つけ。後悔しろ。打ちひしがれろ。今僕の怒りがお前一人に向けられていることを知れ。
灯也は信じられないというような顔で僕の目の前に立っている。僕を見ている。床には粉々に散りばめられガラスの小瓶。きらきらと輝くそれは綺麗だった。しかし中に入っていたものは見るも無残な姿となっている。僕はそれが激しく気に入らない。だからこいつに言ってやったんだ。お前のせいだ、と。お前なんか死ねばいい、と。
たった一言『死』という言葉を投げかけてやっただけでなんという顔をするのだろうこいつは。僕は思わず頬が緩むのを抑えることができなかった。
そうだ。お前にこの怒りが分かるもんか。どれだけ悔しいか分かるもんか。大事なものの大切さがお前なんかに分かるもんか。
お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ―――。
「……ごめん、ごめんなさい……ごめ……ぅ」
泣きながら謝りだした灯也。僕はそれでも心の中にどろどろと黒いものが巣くっている感覚を感じていた。そのどろどろした感情は、灯也が僕の小瓶を割った瞬間から芽生えていたもので、重く苦しくて、灯也にしか吐き出すことのできないものだった。僕の中にあるとき、僕はとても気分がイライラしてくる。不愉快だ。中でどろどろしてるときはとても気持ち悪いのに、灯也に吐き出すときだけ気分がすっとする。僕はその瞬間がとても好きだ。もっと、もっとと黒いどろどろが僕を急かす。行き場がないんだ。黒いどろどろが僕に囁く。
大丈夫だよ。
僕は黒いどろどろに言う。
すぐ、出してあげる。
僕は灯也に歩み寄る。跨いだ小瓶の残骸を見て、また黒いどろどろが騒ぎ出す。
「ねえ、灯也」
僕が話し掛けると灯也はびくっと体を揺らした。そして恐る恐る僕を見る。その瞳に映る怯えの感情が僕を喜ばせた。僕はまた唇の端が無意識に吊りあがるのを抑えることができなかった。
もっとだ。もっと怖がれ―――。
「今から僕が言うことをしてくれたら、許してあげるよ」
死への恐怖すら霞むほどに、僕の怒りを怖がれ……。
「可哀想にねえ、まだ10歳でしょう?」
「遺体は見つからなかったんですって」
「まあ、でもそれじゃあ生きているかもしれないじゃない」
「それがね、首から上だけ、見つかったそうよ」
「あそこでしょ?森の奥の、三ノ沢沼、でしたっけ」
「やあねぇ、ここらへんは平穏だと思っていたけど」
部屋の隅で知らないおばさんたちがごそごそと喋っている。
僕は今まで着たことも見たこともなかった黒い服を着て、同じように黒い服に身を包んだ両親に手をひかれて灯也の家に来ている。灯也の家の中にも黒い格好の人たちがいっぱいいた。僕は一人首を傾げる。
あれ。僕なんでこんなところにいるんだろう。
「ほら、宮斗。灯也くんにお別れのあいさつしなさい」
お母さんが僕に言う。お別れ?何で?灯也がどうしたの?
僕は目の前にある大きな棚を見上げた。
そこには屈託のない笑顔でこちらを見ている少年の写真があった。
僕はそれを見て、また首を傾げる。
灯也の写真?何で?何で灯也の家なのに灯也はいないの?何で黒い服を着ているの?あのおばさんたちは何を話しているの?遺体?誰の?灯也?沼って、どこの?首から上だけ?そんなの生きてられないじゃん。じゃあ何で僕は灯也にお別れを言うの?こんなの、こんなのまるでお葬式みたいじゃん。お葬式は人が死んだときにするんでしょ?誰が死んだの?
頭の中でぐるぐると疑問が飛び交う。ひどい頭痛がする。気持ち悪い。頭の中にひどく重い焦げつきみたいなものがあって、それに触れようとしても心のどこかが躊躇する。でも、その焦げつきに全ての答えがある気がするんだ。僕はゆっくりとその焦げつきに手を伸ばす。
灯也は、死んだの?そう、死んだ。いや違う、殺されたんだ。誰に?
僕、に……?
「宮斗?どうしたの、具合でも悪い?」
気遣わしげに僕に話し掛けるお母さんの声がどこか遠くから聞こえるようだった。
ああ、そうか。
僕は頭がだんだんと冴え渡ってくるのを感じた。
「宮斗、宮斗?あなたっ、ちょっと来て。宮斗の顔が真っ青なのっ」
灯也を殺したのは、僕だ。
あはは、
「……なあんだ、僕か、」
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