太りすぎと婚約破棄されたぽっちゃり令嬢はお菓子作りで無双する

愛良絵馬

文字の大きさ
27 / 45

ハンドミキサー

しおりを挟む
 楽しみにしていたアイリスとの再会は、お預けとなった。
 約束していた3日を待たずに、荷物と手紙が届いたのだ。どうやら、立て込んでいた依頼とやらが落ち着かず、日本の話はいずれまた、とのことだ。

 がっかりした気持ちを抱えながらも、一緒に届いた荷物を開く。
 そこには、見覚えのある形状をした、一つの魔道具が収められていた。るんるんとした気持ちで、ハンドミキサーを持ち上げていると、背後からぬっとアルバートが顔を出した。

「それはなんだ、セレスティア」
「ハンドミキサーです! これは、すごいんですよ!」

 言いながら、スイッチをオン。すると、二つの小型な羽根の部分がくるくると……回らなかった。

「あれ?」

 カチ、カチと何度もスイッチを押してみるが、うんともすんとも言わない。

「かしてみろ」

 アルバートに手渡す。横から見たり、ひっくり返したりした後に、「魔石がないな」と呟いた。彼が指差す先を見てみると、確かに、小さな魔石をはめ込むことが出来そうなくぼみがある。
 
「なるほど……では、早速街に買いに」

 行きましょう、と立ち上がりかけた私の腕を、アルバートがつかむ。ハッとして振り返ると、アルバートは無表情で、掴んだ腕をふにふにともんでいた。

「…………あの、ちょっと恥ずかしいのでやめていただけると……」

 肉でたぽたぽなんだよ……。

「あ。すまん、つい」

 心なしか照れ臭そうな表情で手が離れる。口元に拳を持っていき、ごほんと咳払いをしてから、

「魔石ならおれの部屋にあるぞ」
「本当ですか!」
「ああ」

 そういえば、アルバートと出会ったのも魔物狩りの帰りだった。魔石は魔物から取れるのだから、アルバートが所持していてもおかしくない。

「では早速行きましょう!」
「ああ」

 ハンドミキサーをすぐに動かせる嬉しさで、るんるん気分で歩き出してから、ハタと気がつく。アルバートの……っていうか、男の人の私室に行くのって初めてじゃない……? 
 
 途端に、顔が熱くなってきた。赤みがかった頬がバレないよう、数歩遅れてアルバートの後に続く。私の客室からもほど近い、2階の一室がアルバートの部屋だった。

 アルバートが開けてくれた扉をくぐり、室内に足を踏み入れる。もちろん、扉は開けっ放しのままだ。

「わあ」

 アルバートの部屋は、彼の性格をそのまま表したような、質素剛実なものだった。

 大きな天蓋付きのベッドに、書斎机と椅子。壁にはいくつかの武器がかけてあって、そのいずれも大きく、価値がある品のように見えた。
 室内にはほこり1つなく、綺麗に整理整頓されている。

 アルバートは無言で机に向かい、引き出しから麻袋を取り出すと、無造作に中身を机にぶちまけた。
 大小様々な魔石が机を転がる。
 
「どれが良い?」

 緊張しすぎて、足音一つ立てないようにと思い、まるで盗賊か何かのように、そっと室内に足を踏み入れる。

 机の上に置かれた魔石を見下ろすと、赤、緑、紫、黄色と様々な色をしており、どれも宝石のように綺羅綺羅と輝いていた。

「綺麗…………」
「特別綺麗なものを取っておいているからな」
「え! つまりこれ……アルバートのコレクションってことですか?」
「まあ、そうなるのか?」
「だとしたらとても、頂けませんよ! 綺麗じゃなくなっちゃいますもの」

 魔石は消耗品だ。今は綺羅綺羅と輝いていても、ハンドミキサーを長く使っていれば、その魔力はかげり、魔石はにごってしまう。
 なのに、アルバートはきょとんとして、

「別に構わない。もともと、魔物狩りのお礼にと渡されて、その後もなんとなく集めていただけだ」
「でも……」
「美味い菓子が作れるのだろう? ならこれは、セレスティアに使ってもらいたい」

 そう言って、アルバートは手頃な大きさの緑の魔石を手に取ると、私に差し出すように手を伸ばした。

「…………ありがとうございます」

 そっと魔石を受け取る。翡翠のように輝く緑の魔石は、今まで見たどの宝石よりも輝いて見えた。

「私、必ず、今までで一番、美味しいお菓子を作りますね!」
「楽しみにしている」

 フッと、アルバートが微笑んだ。お菓子を食べている時は違う嬉しさをにじませた、引き込まれるような笑顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「婚約破棄された聖女ですが、実は最強の『呪い解き』能力者でした〜追放された先で王太子が土下座してきました〜

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アリシア・ルナミアは、幼い頃から「癒しの聖女」として育てられ、オルティア王国の王太子ヴァレンティンの婚約者でした。 しかし、王太子は平民出身の才女フィオナを「真の聖女」と勘違いし、アリシアを「偽りの聖女」「無能」と罵倒して公衆の面前で婚約破棄。 王命により、彼女は辺境の荒廃したルミナス領へ追放されてしまいます。 絶望の淵で、アリシアは静かに真実を思い出す。 彼女の本当の能力は「呪い解き」——呪いを吸い取り、無効化する最強の力だったのです。 誰も信じてくれなかったその力を、追放された土地で発揮し始めます。 荒廃した領地を次々と浄化し、領民から「本物の聖女」として慕われるようになるアリシア。 一方、王都ではフィオナの「癒し」が効かず、魔物被害が急増。 王太子ヴァレンティンは、ついに自分の誤りを悟り、土下座して助けを求めにやってきます。 しかし、アリシアは冷たく拒否。 「私はもう、あなたの聖女ではありません」 そんな中、隣国レイヴン帝国の冷徹皇太子シルヴァン・レイヴンが現れ、幼馴染としてアリシアを激しく溺愛。 「俺がお前を守る。永遠に離さない」 勘違い王子の土下座、偽聖女の末路、国民の暴動…… 追放された聖女が逆転し、究極の溺愛を得る、痛快スカッと恋愛ファンタジー!

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

平民令嬢、異世界で追放されたけど、妖精契約で元貴族を見返します

タマ マコト
ファンタジー
平民令嬢セリア・アルノートは、聖女召喚の儀式に巻き込まれ異世界へと呼ばれる。 しかし魔力ゼロと判定された彼女は、元婚約者にも見捨てられ、理由も告げられぬまま夜の森へ追放された。 行き場を失った境界の森で、セリアは妖精ルゥシェと出会い、「生きたいか」という問いに答えた瞬間、対等な妖精契約を結ぶ。 人間に捨てられた少女は、妖精に選ばれたことで、世界の均衡を揺るがす存在となっていく。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...