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パーティーが終わって
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「おや、そこにいるのはクラウディア嬢ではないですか」
「御父様……⁉︎」
そこに唐突に、エドヴァルトがやってきた。
「久しいですな。ローズウェル男爵閣下はご健勝で? クラウディア嬢も大変お美しくご成長されて!」
「…………えぇ」
クラウディアが冷めた瞳をエドヴァルトに向けた。そこへ、ロデリックが実に気まずそうな様子でやってきた。
「ロデリック様。お久しぶりでございます」
「…………アルトハイム男爵閣下。ご無沙汰しております」
「本日は娘と『モンフォール公爵家のご嫡男』アルバート様との婚約のお祝いにお越しいただき、誠にありがとうございます」
「…………っく」
うん、生き生きとしてるなぁ、エドヴァルト。実に複雑な気持ちだけれど、悔しさに歪んだ顔のロデリックを見ていると、少しだけ清々しい気分になった。
………………。
「いけません。ここは離れましょう、アルバート」
「なんだ?」
「この場にいては魂に汚れが生じます……!」
言って、アルバートの手を取りその場を離れる。
十分に距離を取ったところでその手を離した。アルバートはどこか怪訝そうな顔を私に向ける。
「一体、何なのだ……?」
「……そうですね、あの場は、実に複雑な人間関係なのです……」
「どういうことだ?」
説明……した方が良いのかなぁ。いやいや、でも、全部説明するとこの場がさらなる混乱におちいりそうだ。
私は、先ほど気がついた新事実だけを伝えることにした。
「ローズウェル家とアルトハイム家は、領地が割と近くてですね……。同じ男爵家同士、何かと因縁の相手なのですよ」
「…………なるほど」
さすがはアルバートも、貴族の一員といったところか。多くは聞かずに、それだけである程度納得してくれたようだった。
それにしても、彼女がローズウェル家ということは、ロデリックとの婚約破棄に彼女が関わってきたことも、なにか政治的な策略を感じざるを得ない。
「とにかく、あの場は御父様にお任せして、パーティーに戻りましょう」
「そうだな」
その後、二人で大広間をもう一度巡り、ゲストの方々へ挨拶を交わして、婚約発表のパーティーは幕を閉じた。
「…………ふぅ」
「大丈夫か、セレスティア」
「えぇ、なんとか……」
最後のゲストをお見送りして、玄関ホールの応接スペースのソファに腰を下ろす。アルバートが気遣ってくれて、途中何度も休憩を入れながらのことだったが、傷む足には重労働には違いない。
「お疲れ様でした」
セバスチャンがハーブティーを持ってきてくれた。ミントのつんとする匂いを嗅ぎながらお茶を味わっていると、緊張していた心がじんわりと解れていく様な気がする。
「今日はどうだった?」
「そうですねぇ……」
アルバートの問いかけから、1日を振り返る。
思えば、ずいぶんと濃い1日だった。これだけ多くの、しかも有力貴族達に挨拶するなど初めての経験だったし……中には、なんとこの国の王子様までいたのだ。
エドヴァルトやロデリック、クラウディアとの再会には気を揉んだし、嫌な気持ちになりもした。
それでも、一番思い出に残っているのは——
「皆さん、とても美味しそうにお菓子を召し上がってくださって……とても嬉しかったです!」
「ははっ」
思わず、と言った感じでアルバートが笑った。セバスチャンも私も、驚いてその表情を見つめる。こんなふうに笑う彼を見るのは、初めてのことだった。
「えっと……私、そんなに面白いことを言いましたか?」
「いいや。ただ、『らしいな』と思っただけだ。……だいぶ盛況だったようだな。菓子はすっかりなくなってしまった」
いつもの仏頂面に戻ってアルバートが言った。その口調にはどこか不満げな様子が見て取れた。
ぴんときた私は、そっと告げる。
「実はですね……お菓子は、少し取っておいてあるのです」
「なんだと」
「ほんの少しですけどね。すみません、セバスチャン。取ってきていただけますか?」
「かしこまりました」
セバスチャンはすぐにお皿に乗せたお菓子を持ってきてくれた。シフォンケーキとクッキーとエッグタルトとチョコレート。それぞれ全部、一種類ずつだ。
「さあ、召し上がってください」
にっこりと告げる。本当はダリアやマリー、セバスチャンや、他の使用人さん達の分も用意したかったが、花蜜が不足しており断念している。
「……食べないのか?」
「ええ。アルバートの為に取っておいたのですから」
私がドヤ顔で告げると、アルバートは少し寂しそうな表情をした。
「一緒に食べた方が、美味いだろう?」
どこか迷子の子どもの様な言い方に、私はあっさりと折れた。
「……えぇ、それもそうですね」
「お茶のおかわりをお持ちしますね」
再びセバスチャンがその場を離れる。応接スペースには心なしか、甘い雰囲気が漂っていた。
「ええと……では、いただきます」
クッキーに右手を伸ばすと、ちょうどアルバートの左手に触れた。
「あっ、すみません……」
お互いクッキーを取ろうとして、ぶつかってしまったのだろう。そう思い引いた手を、アルバートはしっかりと握りしめた。
「……これからは正式な婚約者だ」
「はい……」
心なしか頬が赤い。
私たちは、セバスチャンが戻ってくるまでの間、こっそりと手を繋いでいた。
「御父様……⁉︎」
そこに唐突に、エドヴァルトがやってきた。
「久しいですな。ローズウェル男爵閣下はご健勝で? クラウディア嬢も大変お美しくご成長されて!」
「…………えぇ」
クラウディアが冷めた瞳をエドヴァルトに向けた。そこへ、ロデリックが実に気まずそうな様子でやってきた。
「ロデリック様。お久しぶりでございます」
「…………アルトハイム男爵閣下。ご無沙汰しております」
「本日は娘と『モンフォール公爵家のご嫡男』アルバート様との婚約のお祝いにお越しいただき、誠にありがとうございます」
「…………っく」
うん、生き生きとしてるなぁ、エドヴァルト。実に複雑な気持ちだけれど、悔しさに歪んだ顔のロデリックを見ていると、少しだけ清々しい気分になった。
………………。
「いけません。ここは離れましょう、アルバート」
「なんだ?」
「この場にいては魂に汚れが生じます……!」
言って、アルバートの手を取りその場を離れる。
十分に距離を取ったところでその手を離した。アルバートはどこか怪訝そうな顔を私に向ける。
「一体、何なのだ……?」
「……そうですね、あの場は、実に複雑な人間関係なのです……」
「どういうことだ?」
説明……した方が良いのかなぁ。いやいや、でも、全部説明するとこの場がさらなる混乱におちいりそうだ。
私は、先ほど気がついた新事実だけを伝えることにした。
「ローズウェル家とアルトハイム家は、領地が割と近くてですね……。同じ男爵家同士、何かと因縁の相手なのですよ」
「…………なるほど」
さすがはアルバートも、貴族の一員といったところか。多くは聞かずに、それだけである程度納得してくれたようだった。
それにしても、彼女がローズウェル家ということは、ロデリックとの婚約破棄に彼女が関わってきたことも、なにか政治的な策略を感じざるを得ない。
「とにかく、あの場は御父様にお任せして、パーティーに戻りましょう」
「そうだな」
その後、二人で大広間をもう一度巡り、ゲストの方々へ挨拶を交わして、婚約発表のパーティーは幕を閉じた。
「…………ふぅ」
「大丈夫か、セレスティア」
「えぇ、なんとか……」
最後のゲストをお見送りして、玄関ホールの応接スペースのソファに腰を下ろす。アルバートが気遣ってくれて、途中何度も休憩を入れながらのことだったが、傷む足には重労働には違いない。
「お疲れ様でした」
セバスチャンがハーブティーを持ってきてくれた。ミントのつんとする匂いを嗅ぎながらお茶を味わっていると、緊張していた心がじんわりと解れていく様な気がする。
「今日はどうだった?」
「そうですねぇ……」
アルバートの問いかけから、1日を振り返る。
思えば、ずいぶんと濃い1日だった。これだけ多くの、しかも有力貴族達に挨拶するなど初めての経験だったし……中には、なんとこの国の王子様までいたのだ。
エドヴァルトやロデリック、クラウディアとの再会には気を揉んだし、嫌な気持ちになりもした。
それでも、一番思い出に残っているのは——
「皆さん、とても美味しそうにお菓子を召し上がってくださって……とても嬉しかったです!」
「ははっ」
思わず、と言った感じでアルバートが笑った。セバスチャンも私も、驚いてその表情を見つめる。こんなふうに笑う彼を見るのは、初めてのことだった。
「えっと……私、そんなに面白いことを言いましたか?」
「いいや。ただ、『らしいな』と思っただけだ。……だいぶ盛況だったようだな。菓子はすっかりなくなってしまった」
いつもの仏頂面に戻ってアルバートが言った。その口調にはどこか不満げな様子が見て取れた。
ぴんときた私は、そっと告げる。
「実はですね……お菓子は、少し取っておいてあるのです」
「なんだと」
「ほんの少しですけどね。すみません、セバスチャン。取ってきていただけますか?」
「かしこまりました」
セバスチャンはすぐにお皿に乗せたお菓子を持ってきてくれた。シフォンケーキとクッキーとエッグタルトとチョコレート。それぞれ全部、一種類ずつだ。
「さあ、召し上がってください」
にっこりと告げる。本当はダリアやマリー、セバスチャンや、他の使用人さん達の分も用意したかったが、花蜜が不足しており断念している。
「……食べないのか?」
「ええ。アルバートの為に取っておいたのですから」
私がドヤ顔で告げると、アルバートは少し寂しそうな表情をした。
「一緒に食べた方が、美味いだろう?」
どこか迷子の子どもの様な言い方に、私はあっさりと折れた。
「……えぇ、それもそうですね」
「お茶のおかわりをお持ちしますね」
再びセバスチャンがその場を離れる。応接スペースには心なしか、甘い雰囲気が漂っていた。
「ええと……では、いただきます」
クッキーに右手を伸ばすと、ちょうどアルバートの左手に触れた。
「あっ、すみません……」
お互いクッキーを取ろうとして、ぶつかってしまったのだろう。そう思い引いた手を、アルバートはしっかりと握りしめた。
「……これからは正式な婚約者だ」
「はい……」
心なしか頬が赤い。
私たちは、セバスチャンが戻ってくるまでの間、こっそりと手を繋いでいた。
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