お願いです!ワンナイトのつもりでした!

郁律華

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本編

気がつけばいいお年頃

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それは心の奥底に閉じ込めて鍵をかけてしまいこんだつもりだった。





私、桐川清香きりかわきよかは26歳独身を謳歌している一般企業の社員である。

大学を卒業し、就職活動戦争を乗り越えて働き初めて、転職などをしながらようやく社会人生活も慣れてきて、もう少しで5年になる。

彼氏はこの間自然消滅した。
何故わかったかと言うと、メッセージアプリにいくら送っても何も返ってこないのが1ヶ月続いたからである。
流石にここまで反応がないと、もはや関係は無くなったなと察してしまった。

その人とは、出会いは合コンだった。
その後、二人で何度か会った後にそれじゃあと始まった関係だった。
互いに恋人がいなかったからということもあり、ズルズルとしていたら、これなので仕方がないなということで気持ちに折り合いがついてしまった。

うん、だって、好きもなにもお互いに言ってなかったしね…。

付き合うにあたり、本当に告白も無く、一緒にいても好きという言葉は口にしていない。
一緒に出掛けたり、ご飯を食べたり、笑ったりはしていたのだけれども。

これで恋人関係を続けてたのが謎なのだが、おそらくお互いにお互いを利用してたのだろう。
周りから恋人はいるのかという追求をかわすために利用はしていたし、何度か夜にそういう空気になって流されたりもしていた。

もしやセフレに近かったのか?とも思うが、終わったことなので気にしても仕方がない。
恋愛に対しては殊更執着心は持ちたくないというのが本音なので、深入りしなかった自分の責任でもあるかもしれない。

自然消滅とは穏便だったが、呆気なく関係が終わりを告げるものだった。



そして、大学時代の友人からは続々と結婚報告とそれに伴うパーティーへのお誘いの数々がきた。

ここで気づいた。



そうじゃん、私って世間から見たら適齢期って呼ばれる年齢なんだ。



適齢期ならと、面白半分で登録してみたマッチングアプリには1日数件通知がきて、メッセージのやり取りをしてみませんか?と問い合わせが来るものの気持ちが乗らない。
メッセージのやり取りをしているうちに、途中で何を話せばいいのか分からなくなってしまうことが多かった。
年収を書いたのがいけなかったのか……。
明らかに自分より年収が低い人からの通知が多くて、結婚願望強いですとプロフィール欄に記載されているのを確認すると、そっと閉じてしまうことがあった。
ごめんなさい。

試しに会ってみた人も数人いたが、求められているのが体だと分かり、夜のお相手ならそういうお店に行けばいいのにと思いながらも、笑顔でお茶を濁してさよならをする日々なのである。
生憎とそこまで経験は無いし、怖かったら逃げるに限る。

恋に夢見てどうにかなるお年頃ではないのも分かっているが、やはり少しばかりでも中身を見て好意を寄せてほしいとも思ってしまう。
自分勝手だとは理解している。


毎日確認しているメッセージアプリからは、大学時代の友人たちが日常生活をいかに楽しんでいるかの近況報告があり、それをやり過ごしていると仲の良かった友人たちのグループから通知がきた。

久しぶりに集まらない?と。
それが切っ掛けだった。



少しくらいの遠出は行けそうだと思い、参加する旨を送ってみるとトントン拍子で話が弾み、それぞれの中間地点の都市に集まろうということになった。
ネットで観光スポットや名物料理などを調べながら、友人たちとやり取りを交わす。

ふと、グループのアルバムを見ると、大学生のときに遊んだ写真がいくつもあった。
懐かしいなと見返すと時間を忘れてしまいがちになる。
写っている人物たちが今よりも社会の闇を知らずに若さに満ちている。
これが社会人としての老いなのか。

そして、目に留まったのは私ととある男子学生とのツーショット写真。


ヤバい、忘れてた…コイツも来るんだった…


誰にだって関係性が壊れるのが怖くて蓋をした片思いなんてあるかもしれない。
私もその経験があり、その相手がツーショット写真の男子学生なのである。

いいなぁと思っていたら、友人関係のまま続いてしまい、それを壊すのが惜しくなった。
会話をしても話が尽きず、側にいて居心地がとても良かった。
もし、恋人になれたなら幸せかもしれない。
しかし、ふられてしまったら?
この友人関係で築いてきたものが無くなってしまう。
友人であればずっとこの関係性が続けられるかもしれないと思った。

その男子学生が別の女の子に告白されたと聞かされても表面上は友人の反応を示しながら、家に帰って落ち込んだりした。
少しばかりヤケになって他の友人に絡み酒をしたのは今でも反省している。
あの時は申し訳ありませんでした。

まあ、学生の時のいい思い出だなと遠い目をしながら、メッセージアプリを閉じた。



数日後、仲間と集まり飲んだ次の日の早朝に目を開けて一番にソイツの整った顔面を隣で見ることになるとは思わずに…。

そして、心のなかで大絶叫するとも予想せずに。



『う、うわあああああ!やっちまったああああ!』



とりあえず、諭吉さんを二枚置いて逃げた。
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