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本編のおまけ編(エピローグ直後)
【おまけ~夜の話1~】夜戦宣言
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夜道のネオンが煌めき始め、繁華街の人通りが多い中、人混みからかばわれるように歩く。
このエスコート力はどこで身に付けてきたのかとても疑問であるが、そこを追求してもいいものかが悩みどころだ。
「俺の泊まってるホテルでいい?」
「あ、うん」
聞かれて反射的に答えてしまった。
まあ、ここから私の家は時間がかかるし、歩いていけるならそれでもいいか。
帰っても仕事関係の本とグッズで溢れかえる部屋なので、むしろホテルにお邪魔する方がありがたい。
「それともああいうところ?」
「はい?」
琢磨が指差した先は所謂ラブホテルというものだった。
いや、この時間のラブホテルなんてカップルの巣窟じゃないか!
しかも今から夜戦☆みたいな強者どもの集う……。
え、今から入るってことは路上の方々に今から私たち夜戦☆なんですと宣言することに等しいことでは?
平然と入っていける世の男女スゴいわ。
「わかった、あそこね。」
「いやいやいや、ちょっと待った!」
「だって、はいって言ったし。」
「いや、了承ではなく疑問系だわ!冷静になろう、あれはその……ラブホってやつだよ?」
「うん、付き合うことになったんだから問題ある?」
「関係性に問題はないけど、今から男女の野戦しに行きますよって周りに広めてるようなものじゃない!」
「別に困ることある?」
「奥ゆかしき日本人の遠慮はどこ?」
「そんなものは無いね。」
「マ?」
「本気」
あ、通じるのか!ではなく…会話終了~
いや、本気なんですか?
あ、そうですか。もう、どうにでもなーれ☆
ロビーに入れば、おやまあカップルがたくさん。
若い男女から金銭関係が発生してるような年齢差のある男女まで様々である。
ここで人間観察する一晩がいい。それが面白そう。
そんな思考を飛ばしてると、琢磨がフロントとのやり取りから戻ってくる。
「はい、部屋のキー。宿泊でとったから。」
「おう……」
「アメニティはあそこらしいけど、希望は?」
腰を抱かれてというより、琢磨に引きずられてアメニティバーの前まで連れていかれる。
逃さないって感じのようですが、大丈夫です。
逃げません。たぶん。
「えっと……」
仕方がない。
ロビーで人間観察がしたいなんて言えば、また後からどう食べられるかわかったものではない。
大人しく従おう。
横にあったカゴに入浴剤やら化粧水、髪どめなど使いそうなものを入れていく。
前のときもこんな感じだったしな。
選ぶのは慣れてるんだ。
「ふうん?」
琢磨の目が冷たくなる。
何かまた地雷踏みましたか?
え!どこに地雷要素あった!?
エレベーターで他のカップルも一緒となり、フロアへと向かう。
昨今のカップルって場所構わないんですね。
エレベーターの中でもスキンシップ過多である。
手をつなぐくらいならかわいいもんだが、いや、抱き合われると流石に困る。
私の心は無の境地。早く目的の階に着いてほしい。
辛うじて助かったのは私よりも年齢が若そうだったということだろうか。
君たち、人の視線もう少し気にしようね?
おそらく君たちより年上のおねーさんからのお願いだ。
琢磨の手は大人しくしてたので、ありがたい限りだった。
部屋に入ると広いベッドにソファとテレビがあり、別に大きめのジャグジー付きの風呂があった。
これ、高くなかったかなぁ。
宿泊でとったって言ってたしな……。
さて、以前のときはあれくらいの値段だったから…財布からはお札をこれくらい出せばと計算する。
「荷物置かないの?」
「あー、置く。あと、ちょっと待って。」
ソファにバッグを置き、財布から計算していたお札を数枚出す。
「これくらい?」
「は?」
「あ、週末だから値段上がるか。えっと…」
「いや、これくらい出すから。てか、値段知ってるのって…元カレと来たの?」
琢磨の声のトーンが低くなる。
待って、冷気を漂わせないでください。
というか、さっきの地雷はこれが原因か。
アメニティに慣れてるのはラブホに慣れてるから。
そして、元カレとラブホに行ったことがあるなら、行くときもなぜ渋るのかとか思われてるのか。
「は、はあ?来るわけないでしょ!あれはあっちの家に行って、終わればさよならよ。推し会でラブホを昼間に使ったことがあるのよ。ラブホはそれ以外で来たことないの!」
悲しいかな、元カレとはそんなことしたことなかったんですよ。
ラブホは、オタク向け推し会プランには同士たちとの集いで度々お世話になっているので、慣れてしまったんです。
広いベッドにやだ!私の推しがこんな感じで?
え、このベッドに事後感出すべく、ベッドメイキングする?
風呂大きいな!浮かべる花びらとかあるの!?
大きいテレビにDVD流すから、今から布教プレゼン始めますなどなど……
オタクの妄想は逞しいのである。
声が漏れにくいラブホの利点を生かしていただき、同士たちと叫びまくったよ。
頭おかしかったけど、とても楽しかったです。
「あ、あー。そういう。……ごめん、苛ついて。いや、連れてきたから出すくらいの甲斐性はあるつもりなんだけど。」
「後から何か言わない?」
「これくらいで言うわけない。むしろ、異性で一緒に来るのが初めてなら嬉しい。」
うっ、さっきまでの魔王の笑顔から見慣れた爽やか人畜無害イケメン笑顔になった。眩しい。
このまま夜戦突入されたら、なんか私の体から保たなさそう。
「とりあえず、お風呂にしよ!お湯いれてくる。」
ピンチな時ほど速やかな撤退が重要となります。
お風呂の準備ができるまで備え付けのクローゼットからバスローブを出してきたり、琢磨の分のアメニティの準備をしたり、飲み物も準備しておくかと思って部屋でくるくる動き回っていると、琢磨が吹いた。
手に持っていたアメニティを取り上げられて、頭を撫でられる。
「本当に変わらないよな。」
「え?何が?」
「人のために言われなくても動き回って、先回りして準備するとこ。そういうところをいつも見てて、甘やかしたいって思うんだよなぁ。」
そう言うと、後ろから抱きしめられて私の足が止まった。
今なんて?あ、これは酔ってるのか?夜戦回避なのか?リアタイのアニメチャンスなのか?
思わず考えてることを口に出してしまった。
「寝ないし、夜戦は回避しない。ついでにアニメ見たいなら一緒に見るから。うーん、まだ理解できないか。根深いな。」
「なんと…!」
違った…。いや、まあ、気にしないようにしてたなんて言えないな。
琢磨は私が持ってしまった癖を理解している。
それは、私は異性からをわざと避けようとしてしまうことだ。
この癖がついてしまった経緯も結果も琢磨には隠せなかった。
そして、それを知ったときに静かに私のために怒ってくれたのも知っている。
それがあるから、わざと好意を口に出しつつ行動してくれているのだろう。
私が好意を向けられることに対して怖がらないように。
その気持ちを疑わず、信じられるように。
もし、怖がることがあればすぐに退いて、私のことを優先させられるように。
琢磨のその心は嬉しいけれど、それを言葉にできるほどの勇気はまだないのだ。
琢磨はこんな面倒な女で本当にいいのだろうか。
付き合えるのは嬉しい。でも、迷いは消えない。
この疑問や迷いは心の中にずっと残るのかもしれない。
そうこうしているうちにお風呂の準備ができてしまった。
さて、とりあえず考えるべきは今のことだ。
男女の夜戦に向けて女性は色々と準備があるんだろうが、前は酒の勢いだったため、何もなし。
今回はちゃんとしなければならないんだろう。
女性ってどうするべきなんですかね?
このエスコート力はどこで身に付けてきたのかとても疑問であるが、そこを追求してもいいものかが悩みどころだ。
「俺の泊まってるホテルでいい?」
「あ、うん」
聞かれて反射的に答えてしまった。
まあ、ここから私の家は時間がかかるし、歩いていけるならそれでもいいか。
帰っても仕事関係の本とグッズで溢れかえる部屋なので、むしろホテルにお邪魔する方がありがたい。
「それともああいうところ?」
「はい?」
琢磨が指差した先は所謂ラブホテルというものだった。
いや、この時間のラブホテルなんてカップルの巣窟じゃないか!
しかも今から夜戦☆みたいな強者どもの集う……。
え、今から入るってことは路上の方々に今から私たち夜戦☆なんですと宣言することに等しいことでは?
平然と入っていける世の男女スゴいわ。
「わかった、あそこね。」
「いやいやいや、ちょっと待った!」
「だって、はいって言ったし。」
「いや、了承ではなく疑問系だわ!冷静になろう、あれはその……ラブホってやつだよ?」
「うん、付き合うことになったんだから問題ある?」
「関係性に問題はないけど、今から男女の野戦しに行きますよって周りに広めてるようなものじゃない!」
「別に困ることある?」
「奥ゆかしき日本人の遠慮はどこ?」
「そんなものは無いね。」
「マ?」
「本気」
あ、通じるのか!ではなく…会話終了~
いや、本気なんですか?
あ、そうですか。もう、どうにでもなーれ☆
ロビーに入れば、おやまあカップルがたくさん。
若い男女から金銭関係が発生してるような年齢差のある男女まで様々である。
ここで人間観察する一晩がいい。それが面白そう。
そんな思考を飛ばしてると、琢磨がフロントとのやり取りから戻ってくる。
「はい、部屋のキー。宿泊でとったから。」
「おう……」
「アメニティはあそこらしいけど、希望は?」
腰を抱かれてというより、琢磨に引きずられてアメニティバーの前まで連れていかれる。
逃さないって感じのようですが、大丈夫です。
逃げません。たぶん。
「えっと……」
仕方がない。
ロビーで人間観察がしたいなんて言えば、また後からどう食べられるかわかったものではない。
大人しく従おう。
横にあったカゴに入浴剤やら化粧水、髪どめなど使いそうなものを入れていく。
前のときもこんな感じだったしな。
選ぶのは慣れてるんだ。
「ふうん?」
琢磨の目が冷たくなる。
何かまた地雷踏みましたか?
え!どこに地雷要素あった!?
エレベーターで他のカップルも一緒となり、フロアへと向かう。
昨今のカップルって場所構わないんですね。
エレベーターの中でもスキンシップ過多である。
手をつなぐくらいならかわいいもんだが、いや、抱き合われると流石に困る。
私の心は無の境地。早く目的の階に着いてほしい。
辛うじて助かったのは私よりも年齢が若そうだったということだろうか。
君たち、人の視線もう少し気にしようね?
おそらく君たちより年上のおねーさんからのお願いだ。
琢磨の手は大人しくしてたので、ありがたい限りだった。
部屋に入ると広いベッドにソファとテレビがあり、別に大きめのジャグジー付きの風呂があった。
これ、高くなかったかなぁ。
宿泊でとったって言ってたしな……。
さて、以前のときはあれくらいの値段だったから…財布からはお札をこれくらい出せばと計算する。
「荷物置かないの?」
「あー、置く。あと、ちょっと待って。」
ソファにバッグを置き、財布から計算していたお札を数枚出す。
「これくらい?」
「は?」
「あ、週末だから値段上がるか。えっと…」
「いや、これくらい出すから。てか、値段知ってるのって…元カレと来たの?」
琢磨の声のトーンが低くなる。
待って、冷気を漂わせないでください。
というか、さっきの地雷はこれが原因か。
アメニティに慣れてるのはラブホに慣れてるから。
そして、元カレとラブホに行ったことがあるなら、行くときもなぜ渋るのかとか思われてるのか。
「は、はあ?来るわけないでしょ!あれはあっちの家に行って、終わればさよならよ。推し会でラブホを昼間に使ったことがあるのよ。ラブホはそれ以外で来たことないの!」
悲しいかな、元カレとはそんなことしたことなかったんですよ。
ラブホは、オタク向け推し会プランには同士たちとの集いで度々お世話になっているので、慣れてしまったんです。
広いベッドにやだ!私の推しがこんな感じで?
え、このベッドに事後感出すべく、ベッドメイキングする?
風呂大きいな!浮かべる花びらとかあるの!?
大きいテレビにDVD流すから、今から布教プレゼン始めますなどなど……
オタクの妄想は逞しいのである。
声が漏れにくいラブホの利点を生かしていただき、同士たちと叫びまくったよ。
頭おかしかったけど、とても楽しかったです。
「あ、あー。そういう。……ごめん、苛ついて。いや、連れてきたから出すくらいの甲斐性はあるつもりなんだけど。」
「後から何か言わない?」
「これくらいで言うわけない。むしろ、異性で一緒に来るのが初めてなら嬉しい。」
うっ、さっきまでの魔王の笑顔から見慣れた爽やか人畜無害イケメン笑顔になった。眩しい。
このまま夜戦突入されたら、なんか私の体から保たなさそう。
「とりあえず、お風呂にしよ!お湯いれてくる。」
ピンチな時ほど速やかな撤退が重要となります。
お風呂の準備ができるまで備え付けのクローゼットからバスローブを出してきたり、琢磨の分のアメニティの準備をしたり、飲み物も準備しておくかと思って部屋でくるくる動き回っていると、琢磨が吹いた。
手に持っていたアメニティを取り上げられて、頭を撫でられる。
「本当に変わらないよな。」
「え?何が?」
「人のために言われなくても動き回って、先回りして準備するとこ。そういうところをいつも見てて、甘やかしたいって思うんだよなぁ。」
そう言うと、後ろから抱きしめられて私の足が止まった。
今なんて?あ、これは酔ってるのか?夜戦回避なのか?リアタイのアニメチャンスなのか?
思わず考えてることを口に出してしまった。
「寝ないし、夜戦は回避しない。ついでにアニメ見たいなら一緒に見るから。うーん、まだ理解できないか。根深いな。」
「なんと…!」
違った…。いや、まあ、気にしないようにしてたなんて言えないな。
琢磨は私が持ってしまった癖を理解している。
それは、私は異性からをわざと避けようとしてしまうことだ。
この癖がついてしまった経緯も結果も琢磨には隠せなかった。
そして、それを知ったときに静かに私のために怒ってくれたのも知っている。
それがあるから、わざと好意を口に出しつつ行動してくれているのだろう。
私が好意を向けられることに対して怖がらないように。
その気持ちを疑わず、信じられるように。
もし、怖がることがあればすぐに退いて、私のことを優先させられるように。
琢磨のその心は嬉しいけれど、それを言葉にできるほどの勇気はまだないのだ。
琢磨はこんな面倒な女で本当にいいのだろうか。
付き合えるのは嬉しい。でも、迷いは消えない。
この疑問や迷いは心の中にずっと残るのかもしれない。
そうこうしているうちにお風呂の準備ができてしまった。
さて、とりあえず考えるべきは今のことだ。
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