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ライト

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スマホアプリを飛び出して、アニメ化はもちろん、2.5次元の舞台や映画化されたとても人気のある乙女ゲームがある。

「ダイヤモンドの姫君」はそんな乙女ゲームの一つ。

ゲームには、いくつかの分岐点があり、これまでのキャラクターの生き方や、選んだ攻略対象によって、異なったendを迎える。
そして。このゲームの最大の魅力にして。陰で無理ゲーと言われる所以が、“攻略対象がわからない”ことにある。
乙女ゲームでは通常、はじめに攻略対象を選んでプレイするのだが、このゲームは、ゲーム中盤にならないと、攻略対象を選べない。しかも、それまで進んできた物語の中で、高感度が60%以上のキャラクターでないと、選択可能なキャラクターとして出てこない、というものだった。
よりリアルに近いゲームをとの、作成会社の意図だろうけれども、選択可能キャラクターに推しが入るように狙いながらすると。大抵アウトになる難しく繊細な設定が、されているのだった。

物語の舞台は、
王都にある、王立学園。貴族を中心に、魔力をもつ人物が集められて6歳から15歳まで寮生活をおくる。
異世界転生した主人公は、庶民だけれども、たまたま出会った国王陛下に、魔力をみいだされて入学し、悪役令嬢の嫌がらせに耐えつつ、学問に恋愛に学園生活を謳歌する王道のストーリーで

今、私=リズが主人公だった場合。
①10歳で魔力に目覚め(たぶん)
②学園に行かずに街中(しかも田舎)で暮らし続け
③前世の記憶をつかいおにぎり屋をする

そのルートが存在しない。
物語では、10歳で魔力に目覚めた時に、たぶん国王陛下に出会って、学園行きになるのが“正規ルート”

じゃあ、今は??

消えかけている自身の手を思い浮かべて考える

学園生活は15歳まで
私は今、16歳だけれども
仮に特待生として、の、特別に入学する事が出来るとすれば助かる??
それとも、別の、本当の主人公が居て、完全に自分がモブだった場合。本当の主人公が、国王陛下狙いだった場合。今の自分は、完全に邪魔者であって・・・

あーー!!分からない!
私は、只今、穏やかに、おにぎりを、つくって暮らしたいだけなのに!!!

・・・・ーーん?
暗闇だった思考から、視野が開けて野原が現れる。
目の前には、大きな木が一本。

そっと近づいて。触れてみる。

ーー何だろう、私はこの木を知っている。

ザッと音がして。導かれるように、木の向こう側へ向かうと、見知った人がいた。

ーー私?それも、転生前の??

「そう、私は。貴女。・・・貴女はアタシ」

ーどういうこと?設定を思い出そうとして必死で記憶を巡らせるけれど、こんなキャラは見たことが無い。可能性としてあるのが

「神さま?」良くある転生ものであるやつ!!

「神さま?私が?・・・そう、貴女の世界ではそう呼ばれてるかも。貴女を選んで、こちらに寄せたのは私だから」

彼女は、寂しそうな笑顔で続ける

「貴女を、寄せたのは、貴女が彼を愛してると思ったから、貴女の愛で、彼を助けてもらえたら、と、願ったから・・」

彼女はうでを広げて、大地を映す。
映した大地を大切に抱えて、歌うように呟いた。

「けれど、貴女は彼を選ばなかった。私は間違ってしまった。だからもう1人寄せたの。貴女の世界から、今度は、失敗しないようにちゃんと、彼を愛するように願いをかけて」

彼女の指先から、人型の光が現れる。
それは、ゲームである主人公の容姿そのものだった。今の私と、似ているようで、全く違う。

「ちゃんと学園で、彼に出会うようにした、だから新しい彼女は、ちゃんと彼を選んでくれた。のに、彼がソレに気がついてしまった」

彼女は話続けるけれども、途中から私が根を上げてしまう
ーーで?だから?どういうことなの?

「神さまは、私をココに呼んで、どうする気なの?」

ゾクリと背筋が凍る
ようやく私と視線が合った神様の瞳は、暗く淀んでいたから

「イラナイコハケソウトオモッタノ」

ーーえ?

「リズ!!!」

黒い塊に飲み込まれそうになった瞬間、ライトの声で引き戻される。力強い腕に抱き留められて、はっと目を開けると、見慣れた店の天井に、心配そうなライトの顔がみえた。



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