初恋は清らかに、嫉妬は淫らに

琴奈

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11.俺の初恋〜中学生編〜

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 俺と高山文香さんとの出会いは特別なものではない。中学時代のクラスメイト、ただそれだけだ。小学校も違えば部活動も違う。共通の友人さえいない。
 ただ、彼女と接点を持つことができたのは、活動班での振り分けで俺が班長になり、高山さんが同じ班員になったことだ。彼女は真面目で宿題も予習も忘れずに取り組み、成績も常に上位にいる。
 対して彼女と出会った頃の俺は反抗期真っ盛りで、周りの奴から誂われると喧嘩口調になるほど。授業中も教師から態度について注意されると、反抗することも多々あった。もちろん、それはクラスの女子に対してもだ。だから調整をとるために、俺と高山さんは同じ班にしたと思われる。 
 俺の兄弟は兄貴だけ。姉も妹もいないから、女子との絡み方なんて正直わかるはずがない。
 席替えのタイミングで高山さんの隣の席になったが、俺はまた周りの奴から女子と仲良くしていると思われるのが嫌で、いつものように机をわざと離した。それは女子なら誰が隣になっても同じことをする。大抵の場合は女子から「何で机を付けないの?」と聞いてきたり「酷いよ!」とキーキー高い声で怒ってくる。本当、女って面倒くさい。
 ただ、高山さんだけは周りの女子と違った。彼女は何も言わずに俺の顔を見つめた。机を離したことで驚く表情はしていたけど、特に俺へ注意することなく、そのまま授業を受けた。正直、そんな態度をとったのは彼女が初めてで、大人の余裕のようにも感じた。俺は女子に対して初めて興味を持ったのが、そんな中学生時代の高山文香だ。
 隣に座っていても話す機会はほとんどない。あるとすれば、活動班での話し合いの時間ぐらいだろう。俺が班長だから取り仕切るが、意見を聞くときに声をかけることだけだ。今思い返すと態度の悪かった俺が、よく班長をやれていたのが不思議だ。

 この時期に彼女と一番接近したイベントがある。それはキャンプ研修。その研修には活動班での軽い登山も組み込まれていた。俺たちの班は序盤では順調に進んでいたのだが、中腹の分かれ道で俺が正規ルートとは違う道を案内したために、とても険しい山道を歩くこととなってしまった。 
 男は俺の他に2人いたが、共に運動部で体力には何の心配もない。また女子2人も陸上部とバスケ部の為、まだ大丈夫そうだった。ただ、高山さんは運動部ではないため、明らかに彼女だけペースが落ち、疲労が出始めていたのが見てわかる。
 声をかけようか少し躊躇ったが、見捨てるわけにもいかない。一緒にいる4人が後から何を言おうが関係ない。先頭にいた俺は最後尾にいる彼女に大きな声で問いかけた。

「高山さん、大丈夫か?まだ歩けるか?」

その声に全員が驚いて、彼女ではなく俺の方を見た。どうして驚いたのか未だにわからない。ただその声に反応してか、他の班員も「歩ける?」と高山さんに声をかけ始めた。彼女は俺の顔を見て叫んだ。

「大丈夫!付いていきます!!」

 驚いた。本当は限界だと思うが、彼女は前に進む決意をしている。どこからそんな気力が湧くんだ。

「わかった!次に平面な地形に辿りついたら必ず休憩する。そこまで進もう!!」
「はい!」

俺はその時、初めてかもしれない。人に対して思いやりの心を持ったのは。それはきっと彼女の魅力に惹きつけられたからだと思う。
 少しずつ進むと俺の背丈ほどの、小さな急斜面が行く手を阻む。これを越えないと、正規ルートへと合流できない。俺は少し助走をつけて上へ登った。意外と簡単に登れた。そんな俺の姿を見て、次々と班員たちは斜面を越えていく。しかし、斜面の下にはまだ高山さんがいる。彼女は不安な顔をして見上げている。俺は彼女が何を求めているのがすぐに検討がついた。

「掴まって!」

左手で木の幹に掴み、右手を彼女の方へと差し出した。すると文香さんは微笑み、俺の手を握り斜面をゆっくり確実に登った。上に来た彼女が下へ落ちないよう腕で背中を支えた。

「ありがとう」

満面の笑みで喜んだ彼女は可愛く、そしてとても素敵だった。感謝の言葉と笑顔を自分のためだけに言ったことで、俺の顔は真っ赤になったが、幸いにも最後尾にいたため、誰にも気付かれずに済んだ。

『俺は…高山さんが好きだ』

初恋。右手で握った彼女の手をずっと離したくないと思うほどの熱い恋。彼女を振り向かせるにはどうしたらいいのか。

 夜は研修恒例のキャンプファイアが行われるが、その前にクラス担任たちから全員招集された。学年の誰かが何かをやらかしたのだろう。プログラムには無い出来事だ。急いで外へと向かい、教師生徒の全員が揃ったところで、学年主任が拡声器を使い声を上げた。

「よーし!今からみんなでフォークダンスの練習をしてもらう。男子達はこっちで、女子達はあっちでフォームの練習を開始!」
「えーーー!」
「今から練習!?」
『マジか、嘘だろ』
 
 今まで女子と手を繋ぐのは高山さん以外、記憶にない。周りのクラスメイトも驚きを隠せないでいる。学年主任のしてやったりの顔が非常に腹が立つ。ただ、不満がありつつも全員素直に従う。それは「不参加の場合は別の恥ずかしいダンス練習と、体育内申点の減点を用意している」と忠告したからだろう。担任たちは俺たちの行動や思考など手に取るようにわかるようで卑怯だ。
 基本のステップと基本姿勢を教わると、全体での本番前に活動班ごとでペアの練習をするよう指示が出た。女子と合流するが、全員戸惑いが見て取れる。

「練習…しましょう」
「そうだな。さて…どうしようか」

 俺にも理由がわかる。最初に誰とペアを組むか悩んでいる。ここは高山さんと手を繋いで練習する大チャンスだ。彼女を指名しようとしたその時だった。

「こういう時って男子も【グーチョキパー】で決める?」

ある女子が提案のような質問をした。
 ちなみに【グーチョキパー】とは同じ手の形をした者同士で組み合わせをする、小中学生では一番メジャーで平等且つ不満が出ない取り決め方のこと。
 いやいや、ちょっと待て。もし3分の2の確率で失敗すれば、ここからは意図しない女子との交流時間に変わるだろう。それは断固拒否する。ここは俺が有利になるよう異議が出ないような誘導をするしかない。

「なぁ、この時間は男女での基本練習だけだろう?面倒だから背が近い相手と早く練習しようぜ」
「ああ、いいんじゃないか」
「そうね、時間も短いから早くやりましょう」

 よし、全員納得してくれた。このメンバーの中では一番背が高いのは俺。そして女子の中で一番背が高いのは高山さんだから、俺と彼女で決定だ。
 本当はわかっているが、ワザと悩むフリをして質問をした。

「えっと、女子で一番高いのは…高山さん?」

女子たちは背丈を見て確認している。

「あ、私だわ!」

高山さんが驚いたように名乗り出た。良し、計画通り。

「わかった。じゃあ高山さん、こっちで練習しよう」
「ええ」

 俺は彼女を誘いペアを基本姿勢やステップをお互いの動きを見せて確認した。

「なるほど。ステップは最初は一緒だけど、最後は違うんだな」
「そうみたい。基本姿勢も男子と手の位置が違うのね」
「ああ…じゃあ」

俺は高山さんの目の前に立った。恥ずかしいけど、ここは男から言うしかない。

「ペア練習、お願い…します」
「ええ、はい!お願いします」

少し戸惑いつつ彼女は会釈してから俺に背を向けると、右手は手の平を上にして右肩近くに、左腕はやや斜め下に広げた。さっき話していた女子の基本姿勢だ。
 高山さんの右手がまた俺の目の前にある。俺はそっと自分の右手を、彼女の手の平と重ねた。

『小さくて…柔らかいな』

左手も重ねるが、俺と違って柔らかい。登山の時には気付かなかったが、柔らかくて全く不快に感じ無い。左手も繋ぐと、お互いの身体が更に密着した。

『何だこれっ!俺たち恋人同士みたいだ』

これがダンスの練習では無かったら、高山さんに抱きついてキスをしたくなる。俺にとっては危険な密着度。

「じゃあ、右足を同時に出してステップを………1、2……」

 あの後、俺は彼女とどんな言葉を交わしながら練習をして、どんなキャンプファイアだったのか記憶にない。それほど、彼女への妄想と興奮がずっと止められなかった。ただ、抱きつかなかったのは、少なからず理性が働いたからだ。今の荒れた俺では、抱きつけば好かれるどころか、嫌われるだろう。

 月日は経ち3年生になると、高山さんと違うクラスになった。そして、最後の中体連も惨敗に終わり、夏休みを迎える前に部活を引退した。そろそろ受験を考えて取り組みをしようとしていた時に、同じ部活だった奴から声をかけられた。

「なあ、長野!お前は塾に通っているのか?」
「いや、まだ。これから見つけるところだけど」
「じゃあ、俺の通っている塾に一回見に来こいよ!夏期講習前に無料の体験授業やるってさ」
「ふーん。まぁ、暇だからいいけど」

軽い気持ちで誘いに乗ったが、受けて合わなければ違う塾にすればいいと思うぐらいだった。
 土曜日になり誘われた塾に入ると、男性講師から声をかけられた。

「あいつの友達?じゃあ、この教室の一番後ろの右から2番目の席に座って。あいつはいつも一番後ろの右端に座るからさ」

ちなみに、あいつとは誘ってきた奴のことで、当の本人はまだ来ていない。もう既に何人か座っているが、まだ席は少し空いている。
 開始5分前になると席が埋まってきた。どうやら全員、指定の場所があるようで、さっきの先生から言われた通り、誘った奴も俺の横に座った。

「おっ、早かったな」
「お前が遅いんだよ!」
「そうか?5分前行動は出来ているけどな」

そんな他愛のない会話をしていると、俺の左前の席に女子が無言で席に座る。しかし、見たことのある後ろ姿に会話を止め、彼女に対し驚かせるような声を出してしまった。

「高山さん!?」

俺の声に彼女は反射的に振り向くと、目を見開いて声を出した。

「え、長野君?どうしてここに…」
「おーい、高山!今日は体験を受ける生徒がいるから、お前たちも授業料は無料なんだよ。ご両親から聞かなかったか?」
「私は今知りましたよ!いつもの授業だと思っていましたから」

驚く高山さんに対して親切に説明をしているが、ここまで先生とフレンドリーということは、彼女は通塾期間が長いと推測できる。
 何という運命なんだ。あいつから高山さんの情報は一切聞いていなかったが、こんな偶然が起きるとは。ただ彼女が無名の塾に通っているなど思いもよらなかったが、同じ塾に通えば俺の初恋を実らすことができるかもしれない。決めた。まだ授業を受ける前だけど、ここに入塾する。
 塾に通い始めて、学校では知らなかった部分が見えてきた。彼女にも兄がいるらしく、休み時間に少女漫画ではなく兄から借りた少年漫画を読んでいる。しかも男子ならほぼ全員知っている超人気漫画の最新巻。もちろん、俺も知っている。後ろの席からそれとなく声をかけてみた。

「高山さん、その漫画…好き?」

少し肩がビクッと動いたが、ゆっくり彼女は振り返った。

「うん、お兄ちゃんが『女子でも読みやすいから』って貸してくれるの。面白いわ」
「俺もそれ読んでるよ。主人公よりサブキャラが良いよな」
「うん、そうなの、私も同じ!良かったぁ、仲間ね」

 去年以来、久々に俺に対して満面の笑みを見せてくれた。その高山さんの笑顔は俺だけが知る、独占的な顔に思えてしまう。そして、お互いにわかる共通の話題ができたことに喜びを隠せない。
 そして俺が知らなかった彼女のプライベートなこと、それは私服。制服かジャージー姿しか知らなかったが、高山さんは意外にもショートパンツ、そして厚手のタンクトップに薄手の上着を羽織り授業を受けることが多い。
 真面目な彼女の大胆な私服は健全な中学生の俺にとっては刺激的で、話す時には彼女の胸元や太腿を見てしまうほどだ。その時に知ってしまった。彼女の鎖骨の左下、つまり左胸のやや上にはホクロがある。そこにも触れてみたいが、触れたら俺は猥褻で退塾させられるだろう。
 しかし、思春期の衝動や妄想は激しい。特に性に関しては止められない部分も多く、高山さんの胸元や太腿は帰宅しても簡単に忘れることなどできない。

『服の下はどうなっているんだ』
『彼女の胸や太腿はあの時に触れた手と同じ柔らかさなのか』

 そんな邪なことを考えていると、ズボンがキツくなっていることに気付いた。生理現象は止められず、己は硬く興奮している。ここが俺の自室で助かったが、この興奮を抑えないと、恥ずかしくて外へ出られない。
 俺はベッドを背もたれにして床に座ると、ズボンのファスナーを下げ、下着から興奮した己を出した。そして、右手でゆっくり先端を親指で触れてから、手の平でサイドから包んだ。触るだけなら身体を洗う時にすることだが、興奮を抑えるためならこれで終われない。指で窪みを触れながらゆっくり左右に動かす。ただ昂ぶっているのは下の己だけで、まだ気持ちまでは昂ぶっていないため、気持ち良いが達するほどではない。でも、開放させたい。
 目を閉じると再び高山さんの姿が脳裏に浮かぶ。彼女の胸、腰、尻が露わになった姿を想像する。彼女は両腕で胸を隠し、下着1枚で床に座っている。そして腕を解こうと彼女の右手を掴んだ時に、去年の彼女と手を重ねた時の小さく柔らかな感触を思い出した。同時にダンスの練習でお互いの身体が密着したことも。

「く、ヤバいっ、出る…ああっ」

 最後の密着で俺の気持ちも昂ぶり、白く温かい液が俺の手の中で放たれた。べっとりしたその手を、ベッド脇に常備しているティッシュで拭き取っていく。生理現象とはいえ、身近な人物で妄想して気持ちを昂ぶらせたのは初めてだった。実際に彼女と抱き合う日がいつか来るのだろうか。
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