57 / 188
少年編 4章
第57話 主人公⑨ (リリス視点)
しおりを挟む
「帝立学園に入学、ですか」
師匠の家に来てから早数年。
訓練をしていた私を呼び出して突然告げた。
「あ、そうだ。いつまでもここにいてはお前の成長の妨げになる。だから、入学しろ」
「ですが、あそこは貴族しか入れません。私は元貴族で、今の戸籍は平民ですよ」
「安心しろ。数年前からあそこは平民の受け入れを始めている。試験にさえ受かれば入れる。ああ、ちなみに入学費などは我が負担するから心配するな。お小遣いなども帝都の古い友人に預けている。そいつを頼るといい」
「え、いや、」
師匠は一気に話を進める。
[なあ、入学って何だ?]
クロの場違いな問いを無視して、私は師匠に質問する。
「急に言われましても。どうして突然言われるのですか」
突然過ぎた。昨日まで普通の日常だったというのに。
「・・・我に旅にでなければいけない理由が出来たからだ」
「だったら私も―」
「無理だ!まだ十二のお前に旅は無理だ。まず、自分自身の能力を高めろ。そして、魔法社会で生き抜け」
師匠は悲しい表情を浮かべ、私の頭を撫でた。
それから数日後。
私は今、帝都にいる。
[わぁ~人がたくさんいるな]
「ええ、そうだね!」
突然行かされた帝都。師匠に告げられたその日には既にマーセルを出発した。
師匠と離れ離れとなった一人旅。色々会ったが無事に着くことが出来た。
・・・・・・というか試験内容、私知らないけど大丈夫なのかな!明日だよ!
[うるさいな!君の心の声はある程度こちらに聞こえるんだよ!]
「あ、ごめん。でも!」
[待て!まず精霊語で話せ]
人が行き交う道の真ん中。精霊語の聞こえない周囲から見ると、少女が叫んでいるようにしか見えない。
「はぅ」
[何羞恥で悶えているんだよ。ここ数日はずっとそうだったぞ]
「はぅぅぅぅぅ」
クロからの衝撃の告白に私はその場にヘナヘナと倒れ込んでしまった。
[おい、しっかりしろ。早くあのババアが言っていた宿に行くぞ]
[・・・・・・はっ!そうだった!]
悶えていた私は正気に戻り、顔を上げる。
私は人混みをかき分けながら進むのだった。
「それにしても帝都は凄いな~」
[そうだな。マーセルと違って道路も舗装されて屋台も多く、家も綺麗。ゴミは落ちてないし人も多い]
私は田舎者のように辺りをキョロキョロと見渡す。
[凄い。貴族の家とか大きいな]
「そうだね。何か長蛇の列が出来ているところもある。貴族・・・・・・」
[あ、ごめん。地雷だった]
そんな会話をクロとしながら目的地の宿屋へと着く。
『宿屋 スピリット』
二階建てで少し古びた看板の掛けられた場所。年季の入ったレンガは所々にヒビが入っていて、何回も修理した後が見える。
「こんにちは~~」
恐る恐る中へ入っていると、外見よりも落ち着いた宿屋。ホコリ臭さはなく、しっかりと清掃が行き届いていると分かる。
「ん?ああ、お前さんかね」
中にいたのはがっしりとした体つきの大柄の女性。歳は五十ぐらいで低い張りのある声をしている。
「どうも、リリスと申します」
「何畏まっているんだよ。これから五年間ここで暮らすんだ。私のことはナルガと呼んでおくれ、リリス」
私に近づき、大きな笑みを浮かべる。接し方が分からない私は苦笑いを浮かべる。
「あいつからここの宿泊費とあんたの毎月のお小遣いは貰っている。気軽に暮らすといいよ」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
既に師匠が話を付けているっぽい。そういえば―
「ナルガさんは師匠のお知り合いですか?」
「そうだよ。まあ、私が助けられただけだけど」
「?!そのこと、ぜひ聞きたいです!師匠ってあまり自分のこと話さないので」
「そうか。でも、それは今度ね。今はとりあえず試験について説明するよ」
言われて私は我に返る。謎の多い師匠のことが気になりすぎて、ナルガさんに詰め寄ってしまった。
「す、すいません」
「いいって、いいって。旅で疲れているだろうけど、試験は明日だからな」
そう、試験日はもう明日に迫っている。私は試験内容はおろか、試験を受けることすら数日前に知ったばかり。
急遽ここにいるのだ。
私は今の状況に色々と疑問に思いながら話を聞いた。
入学試験は二つ。記述試験と実践試験。
記述試験は主に、国の歴史、計算、政治、外交、作法、魔法学、騎士学の七科。一試験百点満点での計七百点満点。合格は大体五百点以上らしい。
実践試験は記述試験を合格した人が集められて、一対一で行われる。勝敗よりも戦いの技術などを見られるらしい。その中から四百名ほどが選ばれる。
「まあ、こんなところかな」
話を終えたナルガさんが大きなのびをする。
私は聞いた内容を整理する。
[何か、ここ数年で君がやっていた勉強の試験内容だね]
クロが言うことに私は同意する。
そう、
師匠は私をどうして入学させようとしているのか?
そんな疑問を強めながら、私は次の日を迎えたのだった。
師匠の家に来てから早数年。
訓練をしていた私を呼び出して突然告げた。
「あ、そうだ。いつまでもここにいてはお前の成長の妨げになる。だから、入学しろ」
「ですが、あそこは貴族しか入れません。私は元貴族で、今の戸籍は平民ですよ」
「安心しろ。数年前からあそこは平民の受け入れを始めている。試験にさえ受かれば入れる。ああ、ちなみに入学費などは我が負担するから心配するな。お小遣いなども帝都の古い友人に預けている。そいつを頼るといい」
「え、いや、」
師匠は一気に話を進める。
[なあ、入学って何だ?]
クロの場違いな問いを無視して、私は師匠に質問する。
「急に言われましても。どうして突然言われるのですか」
突然過ぎた。昨日まで普通の日常だったというのに。
「・・・我に旅にでなければいけない理由が出来たからだ」
「だったら私も―」
「無理だ!まだ十二のお前に旅は無理だ。まず、自分自身の能力を高めろ。そして、魔法社会で生き抜け」
師匠は悲しい表情を浮かべ、私の頭を撫でた。
それから数日後。
私は今、帝都にいる。
[わぁ~人がたくさんいるな]
「ええ、そうだね!」
突然行かされた帝都。師匠に告げられたその日には既にマーセルを出発した。
師匠と離れ離れとなった一人旅。色々会ったが無事に着くことが出来た。
・・・・・・というか試験内容、私知らないけど大丈夫なのかな!明日だよ!
[うるさいな!君の心の声はある程度こちらに聞こえるんだよ!]
「あ、ごめん。でも!」
[待て!まず精霊語で話せ]
人が行き交う道の真ん中。精霊語の聞こえない周囲から見ると、少女が叫んでいるようにしか見えない。
「はぅ」
[何羞恥で悶えているんだよ。ここ数日はずっとそうだったぞ]
「はぅぅぅぅぅ」
クロからの衝撃の告白に私はその場にヘナヘナと倒れ込んでしまった。
[おい、しっかりしろ。早くあのババアが言っていた宿に行くぞ]
[・・・・・・はっ!そうだった!]
悶えていた私は正気に戻り、顔を上げる。
私は人混みをかき分けながら進むのだった。
「それにしても帝都は凄いな~」
[そうだな。マーセルと違って道路も舗装されて屋台も多く、家も綺麗。ゴミは落ちてないし人も多い]
私は田舎者のように辺りをキョロキョロと見渡す。
[凄い。貴族の家とか大きいな]
「そうだね。何か長蛇の列が出来ているところもある。貴族・・・・・・」
[あ、ごめん。地雷だった]
そんな会話をクロとしながら目的地の宿屋へと着く。
『宿屋 スピリット』
二階建てで少し古びた看板の掛けられた場所。年季の入ったレンガは所々にヒビが入っていて、何回も修理した後が見える。
「こんにちは~~」
恐る恐る中へ入っていると、外見よりも落ち着いた宿屋。ホコリ臭さはなく、しっかりと清掃が行き届いていると分かる。
「ん?ああ、お前さんかね」
中にいたのはがっしりとした体つきの大柄の女性。歳は五十ぐらいで低い張りのある声をしている。
「どうも、リリスと申します」
「何畏まっているんだよ。これから五年間ここで暮らすんだ。私のことはナルガと呼んでおくれ、リリス」
私に近づき、大きな笑みを浮かべる。接し方が分からない私は苦笑いを浮かべる。
「あいつからここの宿泊費とあんたの毎月のお小遣いは貰っている。気軽に暮らすといいよ」
「わ、分かりました。ありがとうございます」
既に師匠が話を付けているっぽい。そういえば―
「ナルガさんは師匠のお知り合いですか?」
「そうだよ。まあ、私が助けられただけだけど」
「?!そのこと、ぜひ聞きたいです!師匠ってあまり自分のこと話さないので」
「そうか。でも、それは今度ね。今はとりあえず試験について説明するよ」
言われて私は我に返る。謎の多い師匠のことが気になりすぎて、ナルガさんに詰め寄ってしまった。
「す、すいません」
「いいって、いいって。旅で疲れているだろうけど、試験は明日だからな」
そう、試験日はもう明日に迫っている。私は試験内容はおろか、試験を受けることすら数日前に知ったばかり。
急遽ここにいるのだ。
私は今の状況に色々と疑問に思いながら話を聞いた。
入学試験は二つ。記述試験と実践試験。
記述試験は主に、国の歴史、計算、政治、外交、作法、魔法学、騎士学の七科。一試験百点満点での計七百点満点。合格は大体五百点以上らしい。
実践試験は記述試験を合格した人が集められて、一対一で行われる。勝敗よりも戦いの技術などを見られるらしい。その中から四百名ほどが選ばれる。
「まあ、こんなところかな」
話を終えたナルガさんが大きなのびをする。
私は聞いた内容を整理する。
[何か、ここ数年で君がやっていた勉強の試験内容だね]
クロが言うことに私は同意する。
そう、
師匠は私をどうして入学させようとしているのか?
そんな疑問を強めながら、私は次の日を迎えたのだった。
12
あなたにおすすめの小説
【流血】とある冒険者ギルドの会議がカオスだった件【沙汰】
一樹
ファンタジー
とある冒険者ギルド。
その建物内にある一室、【会議室】にてとある話し合いが行われた。
それは、とある人物を役立たずだからと追放したい者達と、当該人物達との話し合いの場だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる