92 / 188
学園編 2章
第92話 悪魔の囁き (ナータリ視点)
しおりを挟む「もおぅ~~、どうしたらいいのよ!!!」
入学して一ヶ月。
私は窮地に立たされている。
入学した当初から私の未来は決まっていた。
否、自分で決めてしまったのだ。
受けなくてもいい入学試験で目立ちたいがために出て、格下だと思った者に負け。
交わした約束を守ろうとしたら、別に守らなくても良かった口約束。
だが公然と高らかに宣言した以上撤回もできず、交わした約束通り配下に入り。
その派閥のトップに振り回され続けている今日この頃の、私の学園生活。
魔法名門家であるフットナ侯爵家は本来であれば第二皇子派である。
魔法協会の幹事を務める父上や宮廷魔法士である兄上を持つ私。
宮廷貴族だからこそ就くべき派閥を間違えてはいけない。
だが現在、私のせいでフットナ家は微妙な立ち位置にいる。
長女がブルボン派、所謂中立派に入ったことで疑いの目を向けられているのだ。
もしかして第一皇子派にも誰かいるのではないかと。
一度疑われれば信頼回復は難しい。
私は家での立場が無くなりつつある。
更に先日のことも私を苦しめている。
ルイが、第二皇子派の誘いを断ったのだ。
もちろん、地方の大貴族が政争に乗り気ではないことは知っている。
だが、それでも入ってもらわなければ困る。だからこそ必死にルイを説得したが無理だった。
その後の第一皇子派からの誘いを彼が断ったのは少し救いになった。
が、父上に詰問されたことに変わりはない。
今や私の立場は家にほとんど無い。
いつ追い出されても不思議ではない。
「もう嫌だ・・・」
私は夕暮れにも関わらず、教室に残っている。
肩身の狭い家に帰ることができず、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。
全ては自分のせいかもしれない。
でも・・・・
「お困りのようですね、お嬢さん」
低くしわがれた声が急に耳に入る。
声のした方を見ると、酷く腰の曲がった黒いローブを纏っている老婆が教室の入口に立っていた。
その後ろにはこれまた腰の曲がった老人がいた。
「貴方、何よ?」
「いえいえ、お嬢さんがお困りのようですから現れたのですよ」
「何のつもりか聞いているの」
「おや、失礼。申し遅れました。わたくし、通りすがりの老婆、ナーレでございます」
後ろの老人は会釈するだけ。
「わたくしたちが現れたのは、困っているお嬢さんに良い解決策を授けようと思いまして」
「・・・一応、聞いとくわ」
「ええ、お嬢さんのお入りになっている派閥を大きくされることです。お嬢様のお力があればできることかと。大きくなれば自ずと発言力もデカくなる、無視できなくなる。その派閥に入られているお嬢様もきっと、家で多少は今よりは居づらくなくなるかと...」
その案は魅力的だった。確かに派閥が大きくなれば自分も大きくなる。
そうなったら、もしかすると家のためにもなるかもしれない。
「で、見返りは何?」
「いえいえ、見返りなどいりませぬ。ただ困っている方を助けたまでですよ、お嬢さん」
老婆は首を振る。
なんて謙虚な人だ! な...んて思えればよかったのだが。
「で、レーナ、そしてアルス。そこまでして私に何をさせたいの?」
私はキッと2人を睨みつける。
すると老婆と老人は観念したかのように背筋を伸ばし、フードを取る。
老婆の顔はレーナに、老人の顔はアルスへと変化していく。
「どうしてバレたのですか?」
「さすがににここ一ヶ月も一緒に居れば、嫌でもあなた達の癖くらい分かるわよ。それに何かさっきから魔力の気配がしていたしね」
「さすが、魔法名家のお生まれです。新たに習得した変身魔法を試す機会だと思いまして」
すると、レーナの顔が私へと変わる。
「残念ながら声を変える魔法は分からなかったので、私が出せそうな声の老婆に変身をしたのです」
「・・・ちょっとやめて!私の顔で喋らないで!」
何か気色悪い。
「それで、どうしてあんな茶番までして私に派閥を大きくしろなどと言ったのよ?」
「いいえ、あれは変身魔法を試すために。ネタバラシはするつもりでしたし」
「何度も聞いているけど、何であんな提案を?」
私は少し苛ついた声で聞く。
「だって、それしか道はありませんよ」
「うっ」
図星だ。
「確かにルイ様も揚げ足を取るような方ですが、騙された貴方も悪い」
「うっ」
「家に居づらい、肩身が狭い」
「うっ」
「だからこそ、先程の提案が魅力的に見えたのでは?」
「うっ」
悪魔の囁きだ!
「もう提案に乗るしか貴方の道はありませんよ!」
「うっ」
駄目だ、悪魔の提案だと分かっているのに兎のように耳を傾けてしまう。
だってもう逃げられない。裏切ることも何もかもが不利益。
差し伸べられた手を掴むことしか選択肢は残されていない。
「さぁ、共に行こうではありませんか!!!」
私はその手を取ってしまった。
私は悪魔の下僕となったのだ。
レーナと私ノそんな茶番劇を、アルスは苦笑いを浮かべて眺めるのであった。
31
あなたにおすすめの小説
【流血】とある冒険者ギルドの会議がカオスだった件【沙汰】
一樹
ファンタジー
とある冒険者ギルド。
その建物内にある一室、【会議室】にてとある話し合いが行われた。
それは、とある人物を役立たずだからと追放したい者達と、当該人物達との話し合いの場だった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ハーレムキング
チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。
効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。
日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。
青年は今日も女の子を口説き回る。
「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」
「変な人!」
※2025/6/6 完結。
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる