異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH

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学園編 2章

第92話 悪魔の囁き (ナータリ視点)

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「もおぅ~~、どうしたらいいのよ!!!」

入学して一ヶ月。

私は窮地に立たされている。

入学した当初から私の未来は決まっていた。

否、自分で決めてしまったのだ。

受けなくてもいい入学試験で目立ちたいがために出て、格下だと思った者に負け。

交わした約束を守ろうとしたら、別に守らなくても良かった口約束。

だが公然と高らかに宣言した以上撤回もできず、交わした約束通り配下に入り。

その派閥のトップに振り回され続けている今日この頃の、私の学園生活。

魔法名門家であるフットナ侯爵家は本来であれば第二皇子派である。

魔法協会の幹事を務める父上や宮廷魔法士である兄上を持つ私。

宮廷貴族だからこそ就くべき派閥を間違えてはいけない。

だが現在、私のせいでフットナ家は微妙な立ち位置にいる。

長女がブルボン派、所謂中立派に入ったことで疑いの目を向けられているのだ。

もしかして第一皇子派にも誰かいるのではないかと。

一度疑われれば信頼回復は難しい。

私は家での立場が無くなりつつある。

更に先日のことも私を苦しめている。

ルイが、第二皇子派の誘いを断ったのだ。

もちろん、地方の大貴族が政争に乗り気ではないことは知っている。

だが、それでも入ってもらわなければ困る。だからこそ必死にルイを説得したが無理だった。

その後の第一皇子派からの誘いを彼が断ったのは少し救いになった。

が、父上に詰問されたことに変わりはない。


今や私の立場は家にほとんど無い。

いつ追い出されても不思議ではない。

「もう嫌だ・・・」

私は夕暮れにも関わらず、教室に残っている。

肩身の狭い家に帰ることができず、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。

全ては自分のせいかもしれない。

でも・・・・

「お困りのようですね、お嬢さん」

低くしわがれた声が急に耳に入る。

声のした方を見ると、酷く腰の曲がった黒いローブを纏っている老婆が教室の入口に立っていた。

その後ろにはこれまた腰の曲がった老人がいた。

「貴方、何よ?」
「いえいえ、お嬢さんがお困りのようですから現れたのですよ」
「何のつもりか聞いているの」
「おや、失礼。申し遅れました。わたくし、通りすがりの老婆、ナーレでございます」

後ろの老人は会釈するだけ。

「わたくしたちが現れたのは、困っているお嬢さんに良い解決策を授けようと思いまして」
「・・・一応、聞いとくわ」
「ええ、お嬢さんのお入りになっている派閥を大きくされることです。お嬢様のお力があればできることかと。大きくなれば自ずと発言力もデカくなる、無視できなくなる。その派閥に入られているお嬢様もきっと、家で多少は今よりは居づらくなくなるかと...」

その案は魅力的だった。確かに派閥が大きくなれば自分も大きくなる。
そうなったら、もしかすると家のためにもなるかもしれない。

「で、見返りは何?」
「いえいえ、見返りなどいりませぬ。ただ困っている方を助けたまでですよ、お嬢さん」

老婆は首を振る。

なんて謙虚な人だ!          な...んて思えればよかったのだが。

「で、レーナ、そしてアルス。そこまでして私に何をさせたいの?」

私はキッと2人を睨みつける。

すると老婆と老人は観念したかのように背筋を伸ばし、フードを取る。

老婆の顔はレーナに、老人の顔はアルスへと変化していく。

「どうしてバレたのですか?」
「さすがににここ一ヶ月も一緒に居れば、嫌でもあなた達の癖くらい分かるわよ。それに何かさっきから魔力の気配がしていたしね」
「さすが、魔法名家のお生まれです。新たに習得した変身魔法を試す機会だと思いまして」

すると、レーナの顔が私へと変わる。

「残念ながら声を変える魔法は分からなかったので、私が出せそうな声の老婆に変身をしたのです」
「・・・ちょっとやめて!私の顔で喋らないで!」

何か気色悪い。

「それで、どうしてあんな茶番までして私に派閥を大きくしろなどと言ったのよ?」
「いいえ、あれは変身魔法を試すために。ネタバラシはするつもりでしたし」
「何度も聞いているけど、何であんな提案を?」

私は少し苛ついた声で聞く。

「だって、それしか道はありませんよ」
「うっ」

図星だ。

「確かにルイ様も揚げ足を取るような方ですが、騙された貴方も悪い」
「うっ」
「家に居づらい、肩身が狭い」
「うっ」
「だからこそ、先程の提案が魅力的に見えたのでは?」
「うっ」

悪魔の囁きだ!

「もう提案に乗るしか貴方の道はありませんよ!」
「うっ」

駄目だ、悪魔の提案だと分かっているのに兎のように耳を傾けてしまう。

だってもう逃げられない。裏切ることも何もかもが不利益。

差し伸べられた手を掴むことしか選択肢は残されていない。

「さぁ、共に行こうではありませんか!!!」

私はその手を取ってしまった。



私は悪魔の下僕となったのだ。





レーナと私ノそんな茶番劇を、アルスは苦笑いを浮かべて眺めるのであった。
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