異世界貴族は家柄と共に! 〜悪役貴族に転生したので、成り上がり共を潰します〜

スクールH

文字の大きさ
186 / 188
留学編 3.5章

第186話 南の国で(三人称視点)

しおりを挟む
「報告です。パンケーキの売上がまたも最高記録を更新しました」
「ほほう、そうか」
「北の帝国でも徐々に食べられているようです」

黒髪に黒目で異様な雰囲気を発している少年がニコニコと報告を聞く。

「他はどんな感じかな?」
「『マヨネーズ』や『プリン』ですが、こちらも王国では少しずつ広まっています」
「そうか、それは嬉しい!」
「『オセロ』や『トランプ』といった娯楽も、貴族間で大変重宝されているとのことです。今や若様は公爵に匹敵するだけの財力をお持ちになっています」

それを聞いて少年は満足そうにうなずき椅子にもたれかかる。

「そうか、もうそこまで稼いでいたのか。でも、まだまだ俺の夢には届いていないな。必ず、この大陸の経済を完全に掌握するまでになりたい」
「それは・・・また大きく出ましたね」
「なんだ?実現できないとでも思うのか?」
「いえ、逆に愚問ではないかと。これまで不可能なことを可能にしてきたのが若様ですから」

二人は互いに相手の目を覗き、そして笑い合う。

「セルード、いつもありがとうな」

少年は目の前の老執事に頭を下げる。

「いえいえ、若様にお仕えするのは楽しいことばかりです。この老いぼれの私には若返りの妙薬です」

「そう言ってもらえるとありがたい」そう言って少年は、はにかんだ。

ドンッ

「大変です!西の森で魔物が現れました!」

勢いよく部屋に入ってきたのは尖った角を生やした銀髪の少女。

「マイヤ、いつもノックをしてから入りなさいと言ったでしょ!」
「あ、すいません」
「セルード、そこまで怒らなくてもいいだろ。マイヤ、報告ありがとう」
「えへへ、それほどでも」

少年に褒められて蕩けたような顔をする少女は、一応は『ドラゴン』なのだが・・・

「御主人様!ナデナデして!」
「はいはい、いつもありがとうマイヤ!」

少女が少年の膝の上に座り、甘える。

それに答える少年と少女のやり取りは、見る者が恥ずかしくなるほどのイチャつきようだ。

二人の様子を見ていたセルードは、未だにこの少女がドラゴンだとはにわかに信じられないでいた。

だが、ドラゴンに姿を変える場面を目にしたことはあるし、本人も自称しているから間違いないだろうが・・・

それよりも、だ。

セルードはこの後に起きるだろうことが頭をよぎり、この場を逃げ出したくなる。

ドンッ

「やっほぉ~~~久しぶ・・・・誰よ!その女!!!!!」

またもノック無しに部屋へと入ってくる女性。

こちらは少年より少し年上で、妖艶な姿の持ち主。

「あ、アレー姉!どうしたの?」
「フフフ、もちろん、貴方に会いに来たに決まってるじゃない!」

ああ、始まる・・・

セルードはいそいそと部屋の隅の方に移動し、大人しくすることにした。

「でも・・・とんだお邪魔虫がいたものねぇ!!」
「何ですって!」

煽られたマイヤは少年の膝から勢いよく飛び降りた。

「こんなちんちくりんのどこがいいのよ!?」
「何、喧嘩売ってるの?コウモリのくせに!くそコウモリ女!!」

アレーと呼ばれた妖艶なその女性は、吸血鬼である。

生血を吸って生きている吸血鬼だが、アレー自体は吸血鬼女王バンパイヤクイーンなので、日光を克服している。

「我らを『コウモリ』と侮辱するとは!この胸無し!!」
「おっぱいお化け!!」

二人が罵り合うのを困惑した様子で見守る少年。

助けを求めるようにセルードの方を見るが、セルードは二人に巻き込まれないよう見て見ぬふりをしている。

そんなこんなのドタバタ劇をやっていると、そこへ、今度は幼女がするりと部屋に入ってくる。

「にーに!」
「モカっー!」

気配を消しながら少年の膝に座り込んだのは、彼の妹のモカ。

今度は兄妹でいちゃつき合い始めたのを見て、女同士の喧嘩をやめた。

マイヤは自分の座っていた場所を奪われて、だが主人の妹をどかすわけにもいかず羨ましげに二人を眺める。

コンコンッ

「すいません。モカちゃんがあまりに会いたがっていたので」

ノックをして入ってきたのは胸当て、肘当て、膝当てをした騎士姿の少女。

「お、フレデリカ!いつ見ても可愛いね」
「え、あ、ありがとうございます!」

少年の言葉にポッと顔を赤らめるフレデリカ。

部屋の隅では、いつもながらの女たらしの口調にセルードはもうお手上げのポーズ。

「どうした、急に?」
「あ、そうでした。二つ、お伝えしなければと思って」
「?」

モカの頭を優しく撫でながら聞く少年。

「まず、ヒスターナ様は本日体調がすぐれないため来られないとのことです」
「そうか・・・」

少し落ち込む少年。

「もう一つは、あれが完成したとの報告です」
「まさか、ついにあれが!」
「はい、一応ここに完成品を持ってきております」

そう言ってフレデリカは細長く後部が曲がった筒を持ってくる。

「セルード、これが前に話した『銃』というヤツだ」
「はぁ、これが・・・『銃』・・ですか」

「まあ、火縄式だけど」という少年の呟きは聞こえず、セルードはただ不思議そうにその細長い筒を眺めた。

「こいつはずっと遠くの敵も殺せるすぐれモノだ」
「制作されたドゴンさんも驚いていました。『これから、戦争が変わる』と・・・」

フレデリカの話を聞いてまたもニコッと少年は笑う。

「ラインハルト様、貴方というお方は・・・いや、いいえ。何でもありません・・・」

セルードは一度開きかけた口を閉ざした。

第三大陸ドルト王国の歴史を変えようとする少年ラインハルト。

この時彼はまだ無名の存在であった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【流血】とある冒険者ギルドの会議がカオスだった件【沙汰】

一樹
ファンタジー
とある冒険者ギルド。 その建物内にある一室、【会議室】にてとある話し合いが行われた。 それは、とある人物を役立たずだからと追放したい者達と、当該人物達との話し合いの場だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ハーレムキング

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
っ転生特典——ハーレムキング。  効果:対女の子特攻強制発動。誰もが目を奪われる肉体美と容姿を獲得。それなりに優れた話術を獲得。※ただし、女性を堕とすには努力が必要。  日本で事故死した大学2年生の青年(彼女いない歴=年齢)は、未練を抱えすぎたあまり神様からの転生特典として【ハーレムキング】を手に入れた。    青年は今日も女の子を口説き回る。 「ふははははっ! 君は美しい! 名前を教えてくれ!」 「変な人!」 ※2025/6/6 完結。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

処理中です...