白薔薇の紋章

第４章 生贄

第11話

真っ暗な神社の境内。
ついてきちゃだめだという母の言いつけを破って
オレはそこにいた。

草の影に隠れて
境内の様子を伺っていた。


14年前の7月の三日月の晩。
理事長と藤堂は俺の家にやってきた。

抵抗する親父を突き飛ばして
母親の手を掴んで家を出た。

追いかけるオレに母は言った。

「ついてきちゃだめ！さようなら、愛してるわ戒」

それが母親の最後の言葉。

誰にも気づかれないように
俺は3人の後をつけた。

気がつけば神社の中。


白い着物に着替えて、境内の前に正座している母親の後ろに
刀を持った藤堂の姿。


一瞬だった。
白い着物が赤く染まって
真っ暗な夜空に噴出した血が鮮やかだった。

背中から心臓を差された母親は
正座をしたまま境内に倒れた。


返り血を浴びた藤堂の顔が月明かりに照らされる。
顔についた血を手でぬぐってそしてそれを舌で舐める。
その顔は笑っていた。

その顔が気持ち悪くて
オレは吐き出してしまった。

人を殺しておいて
なんであんな風に笑えるんだ…？



オレから遅れてやってきた父親は母親の姿を見てその場に倒れこんだ。
母親の死体にすがりつくように泣いて。
そしてそれから

藤堂は親父の心臓もその刀で刺して殺した。



それから数日後、理事長が俺の家にやってきた。


「応竜であるあなたの父親がなくなりました。よって、その役目はあなたに引き継がれました。戒、今日からあなたは白薔薇姫と刀を守る応竜としての自覚をもって生きて下さい」

それから理事長はオレに
四霊のこと刀のこと白薔薇姫のことを聞かされた。
もう一つ

母と父が死んだ理由も聞かされた。

生贄の儀式だと。
必要な犠牲だと。


神に捧げる供物として人間を捧げる。
人質は一人でいいのになぜ親父まで殺したんだ！？
理事長は事故だと言っていたが、オレは見ていたんだ
藤堂が親父も殺したところを！


あの日から、表面上では理事長の言うことを聞いているが
信用は全くしていない。

オレは待っているんだ。
藤堂と理事長をオレの手で殺すその時を！




今でも、三日月を見ると吐き気がする。
真っ白な着物が赤く染まったあの瞬間を。
月明かりに照らされた藤堂のあの顔を思い出すから。