アポカリプス・ワールド ~最強の異端騎士~

伝承鳩

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EX.Story

『アルディナク要塞防衛戦 ~異端の前哨戦~』

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 ここはセルリオン王国の西端、隣国バルガロンとの国境線に位置するアルディナク要塞。
 要塞内はかつて無い緊張感に包まれている。事の発端は昨日にバルガロンから来た亡命者達だった。

 ーーーバルガロン王国は罪人の手に落ち、魔導騎士までもが掌握されている。
 ーーー魔法で洗脳された彼等を率いた首謀者が、明日にはこの国に攻めてくるだろう。

 突然の宣戦布告にセルリオン王国の魔導騎士達は浮き足立つ。戦争など、もう何年も起こっていなかった。それに、敵は洗脳された軍隊だ。全滅させるまで降伏はしないだろう。
 
 今現在集められる兵力を並べてみよう。
 正魔導騎士:47人
 従魔導騎士:376人
 所属魔導士:2820人
 
 合わせても3000人強にしかならない。
 魔法を用いた戦争では魔法を実戦的に使えない者は戦力として数えられない。仮に周辺地域から適当な成人男性を数万人徴兵しても、徒に死体の山が出来るだけだ。

 対して、亡命者の情報による敵の戦力予想がこれだ。
 魔導騎士:20人
 魔導士:約20000人

 魔導士にはランクがあり、1人で並の魔導士を数百人単位で相手出来るSSランクから、せいぜい魔法が使える程度のEランクまでが存在する。
 もし、47人全てがSSランクならどうにかなったかもしれないが、今居るのはAランクが5人とBランクが42人。
 相手の魔導騎士がすべてBランクと仮定しても、単純な魔法の物量戦に持ち込まれれば勝ち目はない。
 国内にはSSランクの魔導騎士も存在するが、おそらく開戦には間に合わないだろう。
 援軍には頼れない。今要塞にいる3000人の戦闘員にこの国の運命が掛かっていると言っても過言ではない。

 要塞内では既に仲間割れが起きていた。誰が先陣を切るのか、どうやって勝つのか、戦略的撤退をするべきではないのか。相手と比べれば圧倒的に少ない人数なのに、統制も取れない。これでは勝ち目があるかどうかの問題ですらない。

 髭面の指揮官は頭を悩ませていた。このままでは、最悪の結果となるだろう。
 一体どうすれば......。

 その時、司令室に入ってくる1人の少年の姿があった。

「失礼します、セルウェイ卿」

「ライア君、こんな時に何の用だね?」

「卿は今、戦術が立てられず困っている。違いますか?」

「ああ、情けないがその通りだ。その上混乱する皆の統率も取れん。皆怯えているのだろうが、戦わなければ国が滅ぶかもしれない。まったく、これでは指揮官失格だな」

「お困りのようですね、セルウェイ卿。ここは1つ、俺の戦略に任せて頂けませんか?」

「何、君にこの事態がどうにか出来ると言うのか?」

「はい。俺1人では不可能ですが、俺の仲間と、この要塞の魔導士全員が結束すれば可能かと」

「教えてくれ。一体どうすれば良い!?」

「これは卿に直接話すより、皆を一同に集めて話すべきです。俺にその機会を与えて下さいますか?」

「いいだろう、君に任せる。“異端”の実力、見せて貰うぞ」

 ***
《アルディナク要塞-中央管制塔》

 少年ーーーライア・グレーサーはセルウェイ卿が招集をかけている間、管制塔の一室にいた。

「ったく、我ながら久々に大見得を切っちまったな」

 ライアが溜息を吐いていると、部屋に入ってくる少女達の姿が。

「まったくその通りよ、でも、ライアがこんな大事に関わるのはいつもの事だしね」

 そう言うのは銀髪の少女。

「ライアさんが決めたなら、ミラもそれにお力添えさせて頂きますよ」

 次に入ってきたのはメイド服に身を包んだ薄緑色の髪の少女。

 「それでこそ、我が主殿だ。また妙策が思い浮かんだのであろう?」

 最後に入ってきたのは魔導刀を携えた黒髪の少女。

「そんなに期待されると緊張してくるな。でも、今回は国の命運が掛かってるんだろ? なら失敗はできない。だから......」

『俺に力を貸してくれるか?』

 3人の少女はそれぞれが当然といった顔で頷く。

「当たり前でしょう? 期待してるわよ、ライア」
「もちろんです。どうか、無茶はしないで下さいね」
「私は主殿の刀だ、任せてくれ」

 ーーーやってみせるさ、必ずな。

 ライアは決心を固め、3人を連れて部屋から出た。
 もうすぐ、全軍を相手にした作戦指令をすることになる。予行も兼ねて、3人に作戦の概要を説明しながら歩いて行く。

「と、言うわけだ。頼んだぜ」

「ふふん、任せて?」
「必ずお役に立ってみせます」
「主殿の望みなら、何なりと」

 少女達の信頼に後押しされたライアは、全軍が集まる場所へと向かう。

 ***
《アルディナク要塞-中央区画》
 
 中央区画に集められた魔導士達はざわめいていた。今から聞かされるだろう作戦は、自分達の命運を左右することになるに違いない。
 だが、元より勝ち目の薄い状況だ。無茶苦茶な命令が出たら逃げてしまおうと考える者も少なくなかった。

 数刻置いて、セルウェイ卿が壇上に現れる。彼は司令室での会話を思い出していた。

「今回の戦闘の一番の難所は、魔導士達の統率を取ることです」

「ふむ、確かに私も、それに難儀しているのだが」

「今だけでなく、いざ戦闘が始まってからもそうなるでしょうね。戦争などしたことのある者は皆無、愛国心はあれど、自らの身を案じて命令に背く者も多いでしょう。ですが、逆に言えば、今回は魔導士達をコントロールし、統率を取ることさえ出来れば必ず勝利を、奴らの撃退を成せるかと」

「その統率を、君が取ることが出来るのか?」

「俺の演説だけで何千人も動かせれば苦労はしません。しかし、俺にはそれが可能だと思わせるだけの実績があります。俺が先陣を切って、作戦の冒頭さえ遂行できれば、統率は自然と取れるでしょう」

「エルディリア防衛戦に加えてビアレスタの使徒撃退を成した君の名は確かに広まりつつある。あの絶望的な状況を、“魔”女を率いて2度も覆したその実績に、私は賭けよう」

 指揮官として、若い魔導士に責務を丸投げするのは気が重く、情けなくもある。
 しかし、今は“異端”の実力を信じるほかない。
 壇上に立った彼は、拡声魔法『ソーンフィーダー』を詠唱し、重い口を開いた。

「よく集まってくれた、諸君。指揮官のセルウェイ・ハーミットだ。まずは諸君に謝りたい。切迫したこの事態に対し、私は十分な策を立てる事が出来なかった。これは私の力不足、もしこの事態を切り抜ける事が出来たら如何様なる処分も甘んじて受けよう。だが、今回は王国の命運を賭けた戦いになるだろう。簡単に諦める事は許されない。よって、私はある男に今回の指揮権を一任することにした。さあ、壇上に来てくれたまえ」

 唐突な宣告に、場内は再びざわめき出す。
 不安に駆られる者、指揮官に苛立ちを隠せない者、混乱し騒ぎ出す者。
 そんな喧噪は、1人の少年の登壇で一変する。

「御紹介に預かりました魔導院ラ・メイソン所属従騎士、ライア・グレーサーです。ここからは俺が総指揮権を一時的に代行させて頂きます、いや、代行させて貰うぞ・・・。構わないな、諸君!!」

 現れた少年の姿に、一部の魔導士達が反応した。

「おい、あれって、エルディリアの時の小僧じゃねぇかよ」
「嘘だろ!? あんな餓鬼がかよ?」
「いや、アイツは凄かったぜ、ビアレスタでも単独で使徒とかいう奴を食い止めてたんだからな!」
「あの人は知ってるぞ、彼が居なかったらエルディリアにいた俺らは全滅してたはずだ」
「おい見ろよ、“魔”女の姿もあるぜ! まるであの時みたいじゃねぇか!?」

 積み上げたライアの実績は、その評価を只の少年から異端の騎士へと跳ね上げる。
 彼の実力はもはや、皆が認めるところだった。

「これから作戦の概要を説明する。良く聞いてくれ、これは死にに行くための作戦じゃない。俺達が生き残る為の作戦だ。俺は必ず、この要塞を護ってみせる。そのために、諸君の力が必要だ!!」

 そうして、約30分に渡ってライアの演説は続いた。終わったときに起こったのは盛大な拍手。
 たったの30分で、魔導士達の指揮と統率は見事に完遂されたのだ。

 ***
《アルディナク要塞外部-国境橋》

 開戦を前に、先陣を切る者達は国境の橋に集合する。奴らが来るとしたらここしかない。
 魔導城壁で守られた他の国境を越えることは困難、ならば唯一入れるこの橋において物量戦を仕掛けてくることは必至だ。
 敵の総数は2万以上。
 この橋は一度に通れる人数が限られている故に袋叩きにあう可能性は低いが、敵は数を武器に次々と兵を投入してくるだろう。

 だが、先陣部隊には確かな勝算がある。

 此方の兵力は、
 Aランクの正魔導騎士が5人
 Bランクの正魔導騎士が25人
 Cランクの従魔導騎士が32人
 Dランクの従魔導騎士が34人

 そしてーーー

《破刻の魔女》リリアンネ・ヘインズワース
《迅雷の魔人》ミラリア・アディンセル
《黒浄の魔剣士》シャロリナ・セラフィード

 3人の“魔”女と呼ばれし少女達の前で静かに時を待つのは、総指揮官代行《異端騎士》ライア・グレーサー。
 この場の司令官であり、この魔法の世界で己の拳で戦う異端の男だ。

 開戦の時は、刻一刻と近づいていた。


 

 ーーー数時間後

 火蓋は、唐突に切って落とされる。
 バルガロン側の城門が敵の魔法で破壊され、雪崩をうって押し寄せる洗脳された魔導士達。
 約1キロメートルにも及ぶ橋の上で、激闘が始まった。

 案外敵は冷静で、この橋を一度に大勢で渡れない事を理解しており、20人程の防御魔法をかけた盾役の魔導士の後ろから無数の攻撃魔法が放たれる。
 
 この時点で、多勢に無勢だ。

 だが、“魔”女の名は伊達ではない。
 リリィの放った風魔法『ヘクトブラスター』は前衛の魔導士達を一瞬でなぎ払った。
 ミラは武装魔法『アガートレイズ』で錬成された漆黒の魔爪を振るい飛んでくる魔法を次々と打ち落とす。
 シャロンの増幅魔法『フィードインパルス』を纏った彼女の魔導刀から放たれる振動斬撃は敵を両断し、布陣を切り崩した。

 ファーストコンタクトは上出来だ。第一波は完全に無力化した。
 
 しかし、次に現れるはバルガロンの魔導騎士達だ。先頭にはSランクの魔導騎士の姿もある。

 彼等は現れると同時に防御魔法を詠唱し、そのまま突進してきた。
 リリィや他の魔導士達の牽制で放った魔法を強引に突破し、数の暴力でミラとシャロンに襲いかかる。

 その時、異端は動いた。

 目にも止まらぬ早さでミラとシャロンの前に立ちはだかり、騎士を迎え撃つ。
 突然の敵の出現にも慌てずに、魔法で蹴散らそうとするSランク騎士に対し、ライアの拳が唸った。

「食らえ、『蒼蓮煌破』ッッッ!!!」

 詠唱より早く届いたライアの拳は、Sランク騎士を文字通り吹き飛ばす。
 怯まずに後ろから魔導騎士達が迫るが、ライアもまた動じない。

 瞬間、ライアの黒髪が白銀・・に染まる。

 ーーークアッドライズ・インハーリット

「行くぞ、『ヘクトシュナイダー』ッッッ!!!」

 風を纏った拳は、次々と魔導士を打ち据える。その姿はまるで荒れ狂う風神の如く。
 第二波もあっという間に撃破した。
 
 しかし、これはまだ前哨戦だ。
 次々敵は押し寄せてくる。
  
 ーーーここからが本当の勝負だ。
 ーーー俺の策は、どこまで通じるかな?

 戦闘は、まだ始まったばかりだ。

  

 ******
《桎梏の裏側》
 
 戦闘開始と同時刻。仮面の男は、1人廃墟に佇んでいた。
 彼の周りには無数の死体が転がっている。

「ようやく、奴らも動きだしたか」

 男は呟く。
 黒幕が動き出した気配を肌で感じながら。

「頼んだぜ、俺の全てを託したんだからよ」

 男の素顔は、仮面に隠されて窺い知れない。
 いや、そもそも彼の周りには誰も人は居ないのだ。

 ここは桎梏の裏側。
 世界の行く末を見守る男の、終の住処。

 約1年前、男はある少年に全てを託し、傍観者・・・となった。

 
 今から辿るのは、ある少年の絶望と回帰、そして転生までの記憶。
 
 “異端”の前日譚。

 全てを失い、全てを託され、全てを救うだろう少年の、その軌跡だ。
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