優太の異世界のほほん滞在記〜特殊スキル『衣食住』で、DKトリオは今日も仲良く旅をする~

まるぽろ

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第二章 辺境での冒険者生活~農民よりも戦士が多い開拓村で一花咲かせます~

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     ◆

 数日後、パンッパンッと柏手の音が河原に響いた。深く一礼していた頭を上げると、真新しい木製の社が見える。その中には、優しい笑顔のウカテナ様と無表情ながらもほんの少しだけ微笑みを浮かべるラミエルさんの像が祀られている。

「上出来!」

「ああ、日本で作ったときより大分ましだな」

 大空が親指を立てた拳を突き出しながら、徹はふうと息を吐きながら感想を言った。

 この三日間、僕たちはせっかく冒険者になったのにも関わらず、狩りにも行かずにせっせと社と像を作っていた。
 大空は開拓村で乾燥された大きな丸太を一本と像に使えそうな木材を物々交換で仕入れて戻り、徹が書いた設計図通りに二人で加工し、組み立ててくれた。
 一方の僕は、彫刻刀を使ってウカテナ様とラミエルさんの像を彫った。レベルが上がって器用さが上がっているからか、イメージ通りに彫れて大満足の出来。

「うん! 二人ともありがと!」

 何の文句も言うことなく手伝ってくれた二人に、僕は笑顔で感謝を伝えた。
 大木の木陰で昼食を取りながら、東の森に行ってみようかなどと話していると、取る必要のない食事を一緒に食べてくれていたクリスさんがぼそりと呟く。

「次はオークの解体」

 一斉にげんなりする僕たち。クリスさんは無情にも僕たちをテント中に放り込んだ。じゃんけんで頭とアレを運ぶの係を決め、負けたのは僕。

 くそう、グーを出していれば……。冷えてるからそんなに臭くはないけど、すごくヤダ。

 クリスさんに教わりながらなんとか解体を行った僕たちは、開拓村の解体所に向かうことにした。クリスさんは他の獲物を解体すると言って河原に残ったから、久しぶりの三人での森歩き。クズハは頭の上にいるけど、ほとんど寝てるから数には入れてない。


 何事もなく開拓村に着き、僕たちは東門近くにある解体所へと入る。入るといっても扉がある訳じゃなくて、水路が通された、柱と高い天井だけの風通しの良さそうな建物だった。手前には獲物を置くためらしき大きなテーブルが並び、その奥では血まみれの人たちが黙々と作業をしている。

 血や臓物の匂いが凄く臭い……えっと、なんて言うか、オーク一匹で文句言ってごめんなさい。

 心の中でクリスさんや日本のお肉屋さんに向けて謝罪し、近くで解体をしている毛むくじゃらの人に声をかける。

「こんにちは~。あの、オークの納品に来たんですけど」

「ああ?! はっ、お前たちみたいな小僧がオークだと!?」

「いっ!?」

 怒鳴りながらこっちを向いた人は、血が滴るふわふわの体毛、ぴんと立った耳、太く長い首、大きな牙、逞しいマズル──要は、狼の顔を持った獣人だった。びっくりしていると、熊の顔をした女の人が狼の人の後頭部をはたいて前に出てくる。

「ガルヴァン! ごめんね~坊やたち。それで、オークはどこ?」

「あ、これです」

 僕たちは三つの大きな皮袋をカウンターに載せ、中身を取り出していく。熊の人は大きな葉っぱに包んだそれを一つ一つ確認し、丁寧に包みなおして木箱に詰めていった。

「あら~解体までしてきてくれたのかい。うん、上手にできてるよ。ちゃんと冷えてるし感心だね。これで全部かい?」

「お肉は食べる分だけいただいています」

「それはもちろん大丈夫。じゃあ、査定はこれくらいかしら」

 熊の人は、テーブルの向こう側に重ねられていた色付きの小さな板を数枚取ってテーブルの上に置いた。手に取って確かめると板に書かれた文字が理解できる。銀貨10と書かれた青色の板が1枚と銀貨1と書かれた緑色の板が4枚。クリスさんに聞いていた金額よりも大分安い。

「銀貨14枚って、安くないですか?」

「ああっ!? てめえ、ローザ姐さんの査定にいちゃもんつけんのかコラ! ガキには十分な金だろうが!」

 思ったことを口にすると、ガルヴァンさんが怒鳴り散らした。さっきはびっくりしたけど、今はそんなに怖く感じなかった。ローザさんに叩かれてたときに尻尾を足に挟んでたのが見えたからかな?

「ガルヴァン、めっ! ちゃんと調べてて偉いじゃないか。試すようなことをして悪かったね。本当の査定はこれだよ」

 僕がガルヴァンさんの目をまっすぐ見つめ返していると、ローザさんが再びカルヴァンさんの後頭部を叩いた。ガルヴァンさんは恨めし気にこちらを睨んでから作業へと戻り、ローザさんは青色の板を3枚と緑色の板を4枚追加する。

「銀貨48枚って、今度は多くないですか?」

「あんたたち新顔だろ? 解体もしてくれていたし、初獲物のお祝いだから取っときな。その板はギルドに持っていけば換金できるから。今後も頑張りなよっ!」

 ローザさんはそう言うと大きな声で笑い、解体されたオークが入った木箱を一人で抱えて奥へと去っていった。

 僕たちは板を持ってすぐ近くにある冒険者ギルドへと向かう。中に入るとバステさんの顔が見えた。僕と目が合ったバステさんは、カウンターを飛び越えて駆け寄り、捲し立てる。

「良かった生きてたニャッ! 今までどこにいたんだニャッ! 心配したニャッ!」

「ごめんなさい。森にいました。これの換金をお願いします」

 ぷんすか怒っているバステさんに頭を下げ、僕たちは先程の木の板を差し出した。バステさんは、それを確認すると表情を緩める。

「もう森に入ってたのかニャ。マルクス様があいつらなら大丈夫って言ってたけど、何を狩ってきたんだニャ?」

「オークです」

「東の森の奥まで行ってたのかニャ! 最初からあんまり無茶はしないで欲しいニャ!」

「いえ、オークを倒したのは南の森ですよ?」

 再び声が大きくなったバステさんにそう言った途端、ざわざわとしてたギルドが静まり返った。

 ……え、何ごと?

 僕がきょろきょろしていると、カウンターの奥から大柄なおじさんがやってきて目の前に立った。鍛えこまれた筋骨隆々の肉体はオークといい勝負くらい大きくて威圧感が凄い。

「今の話は本当か?」

「はい。本当ですけど……何でですか?」

「新顔か。今まで南の森でオークの報告例はない。それより、何体いた?」

 おじさんはドスの効いた声で質問を重ねてきた。肌がざわざわする感覚でわかる、この人はかなり強い。

「一体だけです」

「確かか?」

 威圧が込められた問いに、気を強く持って頷くことで答えた。

「群れで行動するオークが一体? 群れからたまたまはぐれたか。斥候か……。分かった。もう行っていい」

 おじさんは振り返り、慌ただしく指示を出し始める。僕たちはバステさんからお金を渡されてギルドから追い出されるように外に出た。

 ……僕たち、南の森にいたオークを狩っただけだし、悪いことした訳じゃないから大丈夫だよね?

「よっし、金も入ったし市場に行こうぜ!」

「ああ、材料仕入れてあの店に行こう」

「おっ、いいなそれ!」

 心配している僕をよそに、大空はいつも通り能天気に、徹は弾んだ足取りで歩き出した。僕は、追いかけながら二人に釘をさす。

「今日はついでだからいいけど、週に一回までだからねっ!」

「「はーい」」

 まったくもう……帰ったら、店に行く前に野菜たっぷりのスープ作ろ。
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