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第二章 辺境での冒険者生活~農民よりも戦士が多い開拓村で一花咲かせます~
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しおりを挟むびりびりと響く戦いの音を感じつつ走ること数分、僕たちは東門へ辿り着いた。門は開け放たれ、ひっきりなしに怪我人が運び込まれては、新たな冒険者さんや戦奴さんが戦場へと向かっている。
状況を確認しながら指示を出している冒険者ギルドの職員らしき人を探し、周りの音に負けないように大声で声をかける。
「ブライアン教官はどこですか?!」
「教官は投石したやつを探しに向かった!」
「投石って?!」
「あれだ! 襲撃と同時に落ちてきやがった!」
ギルド職員さんが指差した方に目を向けると、火事現場に1mはありそうな岩がいくつか転がっていた。あそこは……武器屋があった場所!
「武器屋さんは!?」
「無事だ! 今は城壁の中にある軍の鍛冶場にいるはずだ!」
その言葉に、僕はほっと胸を撫でおろした。息を大きく吸って吐き、気持ちを切り替える。
「わかりました! 僕たちはブライアン教官を探しに行きます!」
「お、おい! 群れの中だぞ!? 死ぬ気か?!」
ギルド職員さんの静止を聞くことなく、東門から外に出る。そこでは、スケルトンさんたち戦争よりも生々しい、人とオークの無秩序な戦いが繰り広げられていた。
「優太、どうだ?」
大空が、肉厚の長剣を構えて聞いてきた。僕は注意深く精霊さんたちの様子を探る。狂ってしまった魔物の周りにいる精霊さんは、大体が怯えてる。ここにいるのは……。
「……だめ、全部モンスター」
「そっか。じゃあやるぞ!」
僕が首を振りながら言った言葉で、大空は気勢をあげて長剣を握りなおした。影からぬるり出て来たクリスさんも、小太刀を構える。
「大男の気配は覚えてる。……多分あっち」
「よしっ! クリス、後ろは任せた!」
「任された。ヒロはとにかく薙ぎ払って。止めは私が刺す」
二人は乱戦の中を走り始める。大空が繰り出す剣閃によってオークたちは深手を負い、その隙をついたクリスさんの小太刀が急所へと突き刺さる。
さらに、徹が魔言を唱え始めた。魔力を拡散して集めなくても、火事があったこの辺りは火精霊さんが十分に濃い。
「【この地に荒ぶる火精霊に要請する。何物も寄せつけぬ数多の炎玉となり、我らを取り巻き踊れ。炎弾乱舞】」
魔術の発動とともに、周囲に丸い炎の塊が浮かび上がり、徹と僕たちを中心に周り始める。大空とクリスさんが自由に動けるようにと練習してきた魔術。大空の体力並みに魔力が有り余っている徹だからこそ長時間維持できる。
自ら炎に近づく魔物なんてほとんどいない上に、持っている石槍で炎玉を小突いたオークには炎が纏わりつき骨まで焦がしていく。徹は、ナパーム弾をイメージしたとかどうとか言ってた。
さらに──
「邪魔だ! 【発射】!」
──徹の意思に感応し、炎玉の1つが立ちふさがったオークへと射出された。炎玉が顔に当たったオークは、断末魔の叫びをあげて崩れ落ちる。攻防一体の魔術だと、徹がドヤ顔で自慢するだけはある。
でも、欠点が一つ。炎玉が周っているのは数m離れているとはいえ、中心にいる僕たちは結構というか、かなり暑い。
「優太! ぼけっとすんな!」
「あ、ごめん!」
僕にも大事な仕事がある。魔力を捏ねてボール状にし、パチンコに番え、死んだオークの周囲に目をこらす。
……見えた!
幽霊おじさんのようにはっきりとは見えない、ほんのわずかな揺らぎ。その中心に向けて魔力の塊を放つ──苦しみから解放されるように意思を込めて。
これが僕たちが決めたこと。これで良いのかは分からないけど、初めてこれをした日の夜、ウカテナ様が何も言わずに優しく抱きしめてくれたから、多分間違ってはないと思う。
「徹、行こう」
「ああ。丸焦げになりたくないなら遅れんなよ!」
悪態をつきながらも、徹は僕が魔力を番えるたびに立ち止まり、時間を稼いでくれる。この場で死んでいるのは、大空や徹が倒したオークだけじゃない。村の人たちが倒したオーク、そしてオークから倒された村の人たちもいる。
僕は大空たちの後ろを追いかけながら、見つけうる限りの揺らぎに魔力を放っていく。幽霊おじさんたちを昇天させるのに比べれば、一つ一つに込める魔力はほんのちょっとだけ。何百でも何千でもやってやる。
◆
しばらくして、僕たちはオークの第一陣を抜けた。背の高いオークに阻まれていた視界が開け、急いで辺りを確認する。心配していたとおり、後方の森には蠢くオークたちが見える。また、ブライアン教官や見かけたことがある強そうな冒険者さんたちと、立派な毛皮を着こんだ体格の良いオークの集団たちとの激しい戦闘が目に映った。
さらにその後方では、見たことのない大きな魔物──褐色の肌、二本の角が生えた巨人が膝をついていた。
「小僧ども、よく来たな! オーガを仕留め損ねた! 高ランクのオークが邪魔で、もう一手欲しいと思っていたところだ!」
僕たちが来たことに気付いていたのか、ブライアン教官はこちらを振り向き、口を大きく開けてそう言って笑った。
「一手って僕たちはどうすればいいですか?」
「お主ら、ちょっと行って仕留めてこい!」
ほえ? 教官、何言ってんの?
「無茶苦茶すぎるだろ!?」
徹の言葉に完全に同意。戦術も何もないただのオークの群れならともかく、連携してくる高ランクのオークの群れに飛び込むのは結構きつい。
「魔術師を連れて来ずに駆けて来たのが裏目にでての! あやつめは皮膚が固く物理的な攻撃が通りにくい上に、もう傷が塞がってきておる。お主がやらねば、また石が村に降り注ぐぞ!」
ブライアン教官は返事を待つことなく前方に目を向け、大きく息を吸い込んだ。
「魔術師が来た! 道を切り開くぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
ブライアン教官の一声で冒険者さんたちが一斉に動き出した。軍隊の連携とは大きく違う、一見無秩序に見えるけどお互いをカバーし合っているようなそんな動き方。足並みが崩れたオークの群れに教官が大剣を横薙ぎに振るえば、数体のオークがまとめて斬り飛ばされる。
「行け!」
教官の指示を合図に、先ずは徹が前面の炎玉を射出してオークの横陣に空いた穴を広げた。大空とクリスさんは炎にひるんだオークの群れへ飛び込み、斬りつけながら前へと進む。徹は炎玉の周回を止め、左右に壁のように並べて走り始め、僕は最後尾について小石や魔力の塊をパチンコで放っていく。
当然、オークたちもただやられる訳ではなかった。怒声をあげながら前に立ちふさがり、横からは横陣に空いた穴を塞ごうと石槍を向けて迫りくる。高ランクオークの群れが生み出す威圧感に足がすくみ、呼吸が浅くなりそうになる。
だけど、大空や徹、クリスさんの姿が僕の背中を押してくれる。それに、後方からの援護もあった。冒険者さんたちが放った矢や投げやりにより、横からの圧力が弱まる。何よりも大きいのは、冒険者さんたちが斉射と同時に上げた鬨の声。
戦場で聞こえる味方の声って、こんなに心強いんだ。僕はそんなことを感じながら、立ち上がろうとしている巨人の元へと向かった。
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