雨に天国、晴に地獄

月夜猫

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前日譚

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それはまるで炎のようだった。
それは、ひどく美しくひどく恐ろしかった。きゃらきゃらと笑う子供は何も知らずにいた。それはかつての呪いで祝福でまじないだった。
子どもを蝕むとも知らず善意で掛けられたまじないは刻一刻と娘を蝕んでいった。
それは氷のようだった。
それは、ひどく美しくひどく恐ろしかった。快活に笑いながら、冷めた目をした子供はすべてを知っていた。
それは、それが呪いで祝福でまじないであると知っていた。

出会わないはずの2人が出会った時、すべての運命という名の歯車は回り出す。
ひとかけらの絶望と、ひとかけらの幸せと、ひとかけら焦燥と、ひとかけらの感謝、とひとかけらの後悔と、ひとかけらの悲しみを混ぜ合わせて、それはできていた。
回り出した歯車は、とまり方を忘れていた。

曼珠沙華の中で少女は一人泣いていた。
曼珠沙華の中で少年はひとり剣を降っていた。
「お前何してんの?」少年が少女問いかけたとき、少年と少女の道は交差した。
大切な人が死んでしまったのだと、どうしていいかわからないくらい悲しいのだと、少女は言った。少年はただ一言、「そうか」と言った。
それはどこかそっけなくてたけれど万感の思いの込められた言葉だった。
少年も少女知っていた。世界に奇跡は意外とありふれているけれど死者が蘇ることは決してないのだとそれは正しくそして一番やってはいけないことなのだと知っていた。二度と会えないと知っているから。だから、どこまでも悲しいのだ。
互いに名前も知らない誰かであったが話せる相手だとそう認識していた。
どこまでどこまでも澄んだ空ただ空に溶けてしまいたいと思った。
少年と少女は曼珠沙華の中で幾度と出会った。何かを少しばかり話す日もあったがだいたいの場合ただ隣に居るだけだった。
それでもいいと思った。決して短くはなくだけれども長いとも言えないようなそんな時間が続いた。
少年も少女自分のことについては何一つとして相手に話すことはなかった。話してしまえばこの出会いが終わってしまう気がしたからだ。
なぜかと聞こえても答えることはできないだってただそんな気がしただけなのだから。ただただ、何もしないその時間が愛おしかった。
終わりのないものはない。平穏は一瞬で崩れ去る。
少年と少女はそれをよく知っていただからはなせなかったそうして次第に合わなくなっていった。
「いつかまた会えますように」少年と少女はそう願った。その言葉はまじないだった。
それは。あとに残された曼殊沙華だけが知っている、少年と少女の物語。

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もう少し書きだめしてから続きは更新します。
次話は12月中に投稿予定です。
面白いと思って下さったらぜひお付き合いくださいませ。



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