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ミュルディスとの契約書
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ジョン・キングレイは三週間前、ベルディア王国の片隅に領地を持っている侯爵になった。
次男坊であるジョンは、爵位を継ぐつもりはひとかけらもなく、軍人として生きる予定だった。しかし爵位を継いだ兄とその妻を乗せた馬車が、大雨の日に角を曲がりきれず木にぶつかり、ジョンは大切な二人を失うと同時に爵位を受け継いだ。王都で休戦中の将校らしく休みを満喫していたとき、ジョンはその知らせを受け取った。
兄夫妻には子供はおらず、爵位を継ぐ者はジョンしかいなかったため、ジョンは軍を退役し、領地のグリーンウッドに急ぎ帰ったのだった。
ジョンが三年ぶりに帰った故郷のグリーンウッドは広大で肥沃な土地であり、そこに暮らす領民は幸せそうだった。
ジョンは祖先から受け継いだものを、前に誇らしさと虚しさを味わった。なぜなら兄夫妻が死に、ジョンはキングレイの最後の一人になってしまったのだ。彼には幸せを分け合う人がいなかった。
父から兄へ、兄から自分へ受け継がれた、キングレイのパントリー(貯蔵庫のこと)はいつも最高級のもので満たされている。今、書斎にこもっているジョンが飲んでいるブランデーもそのうちの一つだが、彼の心を満たしはしない。キングレイが自分一人になってしまった悲しさは、ジョンの心に大きな穴を開けていた。
ジョンはブランデーの琥珀色越しに、部屋を眺める。ジョンと兄が子供の頃、この書斎の現在はジョンが座っている椅子に父が座っていた。兄弟は父の足にまとわりつき、祖先の話や貴族としての名誉についてなど、たくさん話をしてもらった。ジョンはそのことを思い出し、笑みを浮かべた。
「昔々、キングレイの騎士たちは……」
いずれ自分が子供たちに語るだろう昔話を、ジョンはそらんじる。そして物語の肝である、ミュルディスとの盟約の呪文は、いつもはぐらかされていたことを思い出した。
「所詮はおとぎ話だな。しかし騎士の訓話としては、よくできている」
子供の様に信じていたわけではないが、ジョンは自分が失望していることを笑った。そして助けてもらうことはないが、助けてほしいと思ってしまったことを恥じる。
そのとき、琥珀色越しの景色が光った。ジョンは酔い過ぎたせいで起こった目の錯覚だと思ったが、彼は手を伸ばし、光の先にある紙を手にとった。その紙は手触りから羊皮紙だとわかる。
その羊皮紙には契約が書かれていた。父の話は嘘ではなかったのだ。どうやってジョンの目の前に現れたのかと聞かれると、彼にはわからなかったが(脳裏ではミュルディスの魔法だろう、と冷静な声がした)、現に契約書は存在している。
「キングレイの当主が助けを求めたとき、我らは必ず馳せ参じます……」
二重線が下に引かれている文の下には12の氏族名が書かれていた。そしてジョンは自分が助けを求めてしまったのかと、動揺する。自分がここまで弱っていたことを、彼は認めたくなかったからだ。
「少し飲みすぎたせいだ。これが夢だといいが……」
羊皮紙を机に置くと、ジョンは書斎を後にした。そして助けを求めていないように願った。寂寥感だけで助けを求めるなど、自分を軍で鍛え抜かれたタフガイだと評価しているジョンには認められなかったからだった。
次男坊であるジョンは、爵位を継ぐつもりはひとかけらもなく、軍人として生きる予定だった。しかし爵位を継いだ兄とその妻を乗せた馬車が、大雨の日に角を曲がりきれず木にぶつかり、ジョンは大切な二人を失うと同時に爵位を受け継いだ。王都で休戦中の将校らしく休みを満喫していたとき、ジョンはその知らせを受け取った。
兄夫妻には子供はおらず、爵位を継ぐ者はジョンしかいなかったため、ジョンは軍を退役し、領地のグリーンウッドに急ぎ帰ったのだった。
ジョンが三年ぶりに帰った故郷のグリーンウッドは広大で肥沃な土地であり、そこに暮らす領民は幸せそうだった。
ジョンは祖先から受け継いだものを、前に誇らしさと虚しさを味わった。なぜなら兄夫妻が死に、ジョンはキングレイの最後の一人になってしまったのだ。彼には幸せを分け合う人がいなかった。
父から兄へ、兄から自分へ受け継がれた、キングレイのパントリー(貯蔵庫のこと)はいつも最高級のもので満たされている。今、書斎にこもっているジョンが飲んでいるブランデーもそのうちの一つだが、彼の心を満たしはしない。キングレイが自分一人になってしまった悲しさは、ジョンの心に大きな穴を開けていた。
ジョンはブランデーの琥珀色越しに、部屋を眺める。ジョンと兄が子供の頃、この書斎の現在はジョンが座っている椅子に父が座っていた。兄弟は父の足にまとわりつき、祖先の話や貴族としての名誉についてなど、たくさん話をしてもらった。ジョンはそのことを思い出し、笑みを浮かべた。
「昔々、キングレイの騎士たちは……」
いずれ自分が子供たちに語るだろう昔話を、ジョンはそらんじる。そして物語の肝である、ミュルディスとの盟約の呪文は、いつもはぐらかされていたことを思い出した。
「所詮はおとぎ話だな。しかし騎士の訓話としては、よくできている」
子供の様に信じていたわけではないが、ジョンは自分が失望していることを笑った。そして助けてもらうことはないが、助けてほしいと思ってしまったことを恥じる。
そのとき、琥珀色越しの景色が光った。ジョンは酔い過ぎたせいで起こった目の錯覚だと思ったが、彼は手を伸ばし、光の先にある紙を手にとった。その紙は手触りから羊皮紙だとわかる。
その羊皮紙には契約が書かれていた。父の話は嘘ではなかったのだ。どうやってジョンの目の前に現れたのかと聞かれると、彼にはわからなかったが(脳裏ではミュルディスの魔法だろう、と冷静な声がした)、現に契約書は存在している。
「キングレイの当主が助けを求めたとき、我らは必ず馳せ参じます……」
二重線が下に引かれている文の下には12の氏族名が書かれていた。そしてジョンは自分が助けを求めてしまったのかと、動揺する。自分がここまで弱っていたことを、彼は認めたくなかったからだ。
「少し飲みすぎたせいだ。これが夢だといいが……」
羊皮紙を机に置くと、ジョンは書斎を後にした。そして助けを求めていないように願った。寂寥感だけで助けを求めるなど、自分を軍で鍛え抜かれたタフガイだと評価しているジョンには認められなかったからだった。
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