柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

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第5章 自宅謹慎編

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翌日、秀英と景雲は久しぶりの連休になり、自宅に戻っていた。
景雲が自室で本を読んでいると、扉の向こう側から声をかけられた。

「景雲、今回の休みはそこそこ長いみたいだな。今度は縁談を受けてもらうぞ」

現れたのは景雲の母、容 季蝶よう きちょう。景雲は渋る。

「俺はまだいい」
「寝言は寝て言え。容家の跡取りはお前しかいないのだぞ。いい加減腰を据える支度をしろ」

景雲には男兄弟はおらず、姉が三人いる。
姉三人ももう嫁いでいて残すは景雲だけとなり、季蝶は早く次期跡取りをと考えていた。
容家では景雲の父よりも母の権力のほうが強い。
とういうのも、容家の直系は季蝶であるため、どうしても父親の影が薄いのだ。

「私が目星をつけていた娘の家から良い返事が返ってきてな。是非一度会いたいということだった」
「いつの間に話を進めてるんだよ!?」
「お前が自分でやらないから私が面倒をみるしかなかろうに。ほら、目を通しておけ」

そう言って一方的に見合いの書状だと思われる文を景雲に押し付け、季蝶は出ていった。
景雲は頭を掻きながら、ぞんざいに文を広げた。

「…え」

見合い相手の名前を見て、景雲は驚いて言葉にならなかった。


謹慎三日目。
晏寿は自宅の掃除をしていた。

「晏寿、出かけるわよ」
「え、どこへ?ていうか、私謹慎中なんだけど…」
「大丈夫よ」

どこか嬉しそうな瑚蘭を見て首を傾げながらも、晏寿は瑚蘭と共に外出した。

出かけた先で晏寿は新しい服や簪でどんどん着飾られていく。
滅多につけない宝飾品まで身に着けていた。

「ちょっと、母様。どうしてこんな格好を…」
「それはこれからお見合いするためよ」
「え!?そんなの聞いてないよ!」
「本当に良いお話があったのよ。とにかく一回会ってみなくちゃ」

まさかの瑚蘭の発言に、晏寿は付いて行けず、そのまま強制的に見合いの場まで行くこととなった。


晏寿達が訪れたのは、見合い相手の家の離れだった。
晏寿は未だに見合い相手の名前さえわからないまま、座っていた。

「ねぇ、母様。せめて名前だけでも教えて」
「あら、言ってなかったかしら?」

あらあら、という感じで目を丸くする瑚蘭。そんな母を見ていて、晏寿は心の中で絶えずため息をついていた。
しかし、瑚蘭から名前を聞く前に相手側の使者が来たため、会話は中断となった。

「本日はわざわざありがとうございます。すぐに若が参りますゆえ」
「よろしくお願いします」

のほほんと瑚蘭が答え、使者はすっと下がる。
そして晏寿の見合い相手と女性が入ってきて、晏寿は目を見開くこととなった。

「わざわざ出向いていただいてありがとうございます。容家嫡男の景雲とその母、季蝶にございます。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ。柳家の娘、晏寿と母、瑚蘭です」

母親同士の形式ばった会話が流れるも、晏寿の耳には届いていなかった。

目の前に座っている景雲が気になって仕方がなかった。

母親同士の会話が区切りがついたところで、ようやく景雲が口を開いた。

「久しぶりだな、晏寿」
「…どうして景雲が」

互いの名前を呼び合った所で二人の母親はおや、という表情をする。

「なんだ、知り合いか?」
「ああ。仕事の同僚だ」

季蝶が尋ねると、景雲が答えた。
そこでやっと季蝶が気付いた。

「景雲、お前、上位三人に入っていたのか」
「知らなかったのかよ」
「ああ。官吏試験には受かったとは聞いていたが、どうせおこぼれだと」

季蝶の中では晏寿は官吏試験合格者の上位三名の一人という認識はあったようだが、自分の息子が入っていたとは思っていなかったようだ。

そんな季蝶を見て、景雲はため息をつく
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