柔よく剛を制す

薬袋 藍(ミナイ ラン)

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第6章 景雲の姉襲来編

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「だ、旦那様…」

先程まで明るかった表情が一転、真っ青になっていく。

男が杏歌に接触しないよう、玲峯が間に入る。

「なんだお前は。そこをどけ。その女はいなくなった俺の妻だ」
「彼女からは離縁したと聞いておりますが」
「勝手に書かれたもの、あんなもの無効だ!」

男は激怒しており、会話が成立しない。今にも掴みかかってきそうな勢いである。

「いいから帰るぞ杏歌!家に帰ったら、今日までの行動にしっかり反省してもらうからな」

男の威圧的な空気に飲まれ、杏歌が震えながら、玲峯の服の裾を掴む。
それをちらりと見て、玲峯は口を開いた。

「彼女はそれを望んでおりません」
「部外者は黙ってろ!そもそもお前は誰なんだ!」
「柳 玲峯と申します」
「柳…?はっ、没落した家の人間か。そんな奴がどんな面さげて歩いているんだ。俺を賦 大勘ふ だいかん様と知って楯突いているのか?分をわきまえろ!」
「やめて!」

玲峯を侮辱したことで、杏歌が叫ぶ。
その目からは涙がポロポロと零れる。

「どうか玲峯殿を否定するのはやめてください」
「それはお前次第だ、杏歌」
「言う通りにいたします。だからどうか、どうかこれ以上はやめてくださいませ…」
「最初からそうしていればよかったものを…もたもたするな!帰るぞ!」

杏歌が男について行こうとしたところで、玲峯は咄嗟に腕を掴み首を横に振る。

「いいのです…最後に柳家の皆様と過ごせてとても楽しかった。
ご迷惑ばかりかけて申し訳ございませんでした」
「杏歌何やっているんだ!そんな身分の低い者に頭なんか下げるな!」

再度怒声を上げて、迫る男に杏歌は肩をびくつかせる。
玲峯の手を離そうとしたときだった。

「柳家が駄目なら李家はどうだ?」

それまで黙っていた儀円が悠然と口を開いた。

「俺は李 儀円。王宮務めを多く輩出している家だ。それでも身分が低いか?」
「な…!李家だと!?だ、だが関係ないだろう!」
「それが関係あるんだな。その女人は俺の部下の姉だ。それに先程から罵倒しているこの男も今は俺の部下だ。部下を馬鹿にされたまま黙っている大臣ではないんでね」
「大臣…?そんな高い身分の人間がこんなところを歩いているわけがない!お前も嘘を吐いているんだろう!」
「儀円が真面目に働かないから…」

じとっとした視線を玲峯は儀円に向ける。
儀円はいつものことという感じで、さらっと流す。

「賦 大勘、だったな。玲峯」
「ああ」

男の名前を確認するように呟くと、玲峯の名前を呼んだ。

「賦 大勘。
賦家五男一女の三男に生まれる。三男ながら長男・次男を幼くして亡くなったため、家督を継ぐ。賦家は代々西夏せいか地区を治めており、地方貴族としては有力な権力を有している。ここまでが基本情報だ」

玲峯は淡々と情報をそらんじる。
それを男は訝しげに、杏歌は不安げに見ていた。

「ここ最近収入に対して豪遊が目立っていたため調べさせてもらった。米を他国に密売しているな」
「何を証拠に!出鱈目だ!」
「明日にでも家宅捜索しようとしていたところだ。証拠なら先日運び屋が捕まって、全部吐いてくれたさ。その者の名前は謙紡けんぼう

信じられないものを見るように、杏歌が目を見開く。
男は名前を聞いた途端に、脂汗が止まらなくなる。
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