Ancestor

りー

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私の名前は赤川 彩子(あかがわ さえこ)。
小学校4年生で、これから夏休みにおばあちゃんの家へ遊びに行く。お母さんがお盆休みにおばあちゃんの家に行こうと提案してくれた。
新幹線で3時間くらいの場所で、旅行気分も味わえてとても楽しみ。
新幹線に乗る前に駅弁やお菓子を買ってもらった。お父さんとお母さんはビールやチューハイを沢山買って飲むのを楽しみにしているようだった。
「ようやく夏休みだわー!おばあちゃんちでに行くまでに酒盛りするぞー!」
「お酒はいつも飲んでるでしょ。乗り過ごさないようにね。」
「彩子、シラけるようなこと言うなよなー。」
「起きなかったら置いていくからね!」
お母さんとお父さんは嬉しそうにビールに合うおつまみを探していた。私はお酒が飲めないけど2人は気にすることなく楽しんでいる。

新幹線に乗ると窓際の席に急いで座った。
お父さんとお母さんは隣に座り、仲良さそうにビールを開けて乾杯している。
私はお酒を飲めないので、疎外感を感じながらお菓子を頬張った。
お父さんとお母さんはそれぞれ3缶ずつ飲んで爆睡してしまった。
私は退屈なので、外の景色を見たり持ってきた夏休みの宿題を進めた。お父さんとお母さんみたいにお酒を飲んでぐうたらするような大人にならないように、今からしっかり勉強すると決めている。
気がつくと最寄駅の一駅手前になっていた。急いでお父さんとお母さんを起こした。
「さっきも言ったよね。起きないなら置いていくからね!」
「うーん。分かってるよ。」 
「彩子、怒らないでよー。」
2人はまだ寝ぼけていたが、空き缶を片付けて準備を整えた。
私は既に準備は完了していた。
「彩子は準備万端だね。えらいえらい。」
「私は2人とは違うから。早く立ち上がって。」
私は2人がトロくて、イライラしている。
最寄駅に着くと、お父さんとお母さんは私のイライラを知らんぷりするかのように、はしゃぎながら早足で改札へと向かった。
私は宿題の絵日記をどう書こうか考えながら歩いている。お父さんとお母さんがはしゃいでいると何となくテンションが下がる。周りがハイテンションだと冷静になるタイプなんだと思う。
改札を出るとおばあちゃんが車で迎えにきてくれた。おばあちゃんは笑顔で私たちを迎えてくれた。
「よく来たね、彩子。元気だった?」
「おばあちゃん、元気だよ。」
おばあちゃんは優しくていつも心配してくれる。私はおばあちゃんが大好きだ。
車に乗って、おばあちゃんちに向かった。
「お母さんに会えて嬉しい。田舎のみんなも元気?」
「元気よ。着いたら挨拶に行ってね。」
田舎に遊びに行くと必ず周りの家にお土産を持って挨拶するのが決まりだった。

おばあちゃんちに着くと、早速近所の家にお土産を持って挨拶に行った。
お母さんははしゃぎながら、近所の人と世間話をしている。私は挨拶だけして静かに話を聞いていた。
近所の人もお母さんやお父さんと話してはいるが、私にはあまり話しかけてこなかった。
何度か遊びに来ているものの、普段から関わりがある訳ではないから、人見知りをしてしまうのだった。

おばあちゃんちに着くとおばあちゃんがお茶を淹れてくれた。
おばあちゃんはお母さんとずっと話しているし、お父さんは昼寝をしている。
私はやる事がないので、読書感想文用の本を開いて読み始めた。兄弟が居たら一緒に遊べるけど、1人だと退屈だ。時間を有効活用したいから宿題を進めるかって感じ。いつもの流れだ。
おばあちゃんが私に話しかけてきた。
「彩子、退屈じゃない?近所の子どもたちと遊んできたら?」
「ええ、いいよ。突然仲間に入れないよ。」
「大丈夫よ。よくうちに遊びに来てくれる子たちだからさ。一緒に行こう。」
私は戸惑いながら、おばあちゃんに手を引かれて子どもたちが遊んでいる公園へ連れて行かれた。
「夏休みの宿題をしてるだけで終わっちゃうなんて勿体ないからね。きっと仲良くなるから。」
おばあちゃんは張り切っているけど、あまり気乗りしない。随分前に遊んだけど、活発過ぎるというかヤンチャな感じであまり合わないと思ったからだ。

公園に着くと、おばあちゃんは女の子2人に声を掛けた。その子たちはおばあちゃんを見て、近付いてきた。とてもおばあちゃんに懐いている様子だ。
「おばちゃん!遊ぼ!」
「今日はね、私の孫の彩子と遊んで欲しいのよ。」
「あー、彩子ちゃん!久しぶり!」
「久しぶり。よろしくね。」
2人は笑顔で出迎えてくれた。
おばあちゃんは夜ご飯の準備があると言い、家へと戻った。
「あっちで遊ぼうよ!ジャングルジムに登ろう!」
「うん、行こう!」
2人と走りながらジャングルジムへ向かい、楽しく過ごした。
16時のチャイムが鳴り、私は家へと帰った。
「また遊ぼうね!」
そう言って、帰り道へと向かった。
特に会話する訳でもなく、2人がずっと話しているのを聞いているだけだった。仲良くなったかと聞かれると疑問だ。
おばあちゃんちに着くと、夜ご飯のいい匂いがした。
「お帰りなさい!楽しかった?」
お母さんが出迎えてくれた。
「うん、まあまあ楽しかった。」
「良かったね、また明日遊びに行って来ていいからねー。」
お母さんは友達と遊ぶのは嬉しいみたいだ。
「楽しそうで良かったね。さあ、ご飯を食べなさい。」
楽しみにしていた夜ご飯だ。おばあちゃんが作ってくれたハヤシライスで、とても美味しそう。
一気に平らげると、テレビに目を向けた。
私の住んでる地域ではやっていない、ローカル放送がやっている。特に面白い訳でもないけど、退屈なのでぼんやりと見ていた。
「彩子、明日も公園に行くと良いよ。他の子とも会えるだろうから。」
「そうね!仲良しの子が沢山出来ると良いわね。」
お母さんとおばあちゃんは2人で頷いている。子どもだからってみんな仲良くなれる訳ではないのにって思ったけど、面倒になりそうだから黙っていた。
お風呂に入り、すぐに眠りについた。

朝7時になるとチャイムが鳴り響いた。
もう少し眠りたかったけど、チャイムがうるさくて目が覚めた。
おばあちゃんは既に起きていて朝ごはんを食べていた。
「ご飯とお味噌汁が出来ているよ。台所から取ってきて。」
「おばあちゃん、ありがとう。いただきます。」
ご飯とお味噌汁と梅干しを食べた。お父さんとお母さんはまだ寝ている。
ご飯を食べ終わると歯を磨いて夏休みの宿題を始めた。
「朝から偉いわね。遊びに行かなくて良いの?」
「宿題を進めてから行くね。」
「小学生なんだから、勉強しないで遊んだって良いのよ?」
「勉強しないとお父さんやお母さんみたいに怠け者になるのは嫌。」
「お父さんとお母さんは一生懸命働いてるじゃない。そんな事言っちゃダメよ。」
「だっておばあちゃんちに来ても遊んでくれる訳じゃない。今だって寝てて私のこと放置してるじゃん。」
「普段働いてるから疲れて休んでるのよ。放置なんてしてないじゃない。彩子、ひどいことばかり言うのね。」
「お父さんとお母さんのことを庇うなんておかしいよ!私の事何も分かってない。おばあちゃんなんか大嫌い!」
私はおばあちゃんに初めて感情的な言い方をし、気がつくと外に出ていた。
言い合いをしている声で起きたようで、お父さんとお母さんが寝室から降りてきたようだ。気にせず公園へと向かった。

公園に着くと、昨日遊んだ2人の子の他にも何人も遊んでいた。
「おはよう!」
「おはよう!砂遊び一緒にしない?」
「うん!遊ぼう!」
2人ともまた遊んでくれるから嬉しい。
のんびりと砂で山を作る。またしても会話はないけど、おばあちゃんたちと一緒に居るのは気まずいからありがたい。
2人で砂遊びをしていると、男の子たちが近付いてきた。
「君、誰?初めて会ったよね。」
「うん。おばあちゃんちに遊びに来てるの。」
「へぇー。なんか偉そうなんだけど。俺たちに挨拶しろよ。学校で習っただろ挨拶は基本だって。なあみんな?」
周りにいる男の子や一緒に遊んでいる2人もクスクスと笑っている。どうやらボス的な存在みたい。一緒に遊んでる2人まで私を笑っているから気分が悪い。
「おはよう。これで良いでしょ?じゃああんたも挨拶すれば良いじゃん、感じ悪いよ。」
「何だよお前、態度デカいぞ。」
「自分だってデカいけど。ボスなのかもしれないけど、私には関係ないから。」
「私には関係ないから、だってー!カッコつけててキモいよな?」
「うん、キモい!おばちゃんに遊んであげろって言われたから遊んであげてたけど、私達全然仲良くないよ。」
突然2人は味方ではなくなった。何だろうこの圧力。これはイジメじゃないのか。
「私も仲良しとか思ってないし。あんた達みたいな井の中の蛙と合うわけないじゃん。」
「はぁ?何言ってんのか分からねえよ。」
「慣用句も知らないとか馬鹿なの?私は馬鹿な人が大嫌いなの。」
「何だとテメェ!」
ボス的な存在の男が私に殴ろうとしてきた。
その時、男の子が私の前に現れて庇ってくれた。
「誰だ、お前?」
「みんなで寄ってたかって、いじめるのは辞めろ。先生を呼んだ!もうすぐ来るからな。」
近所では見かけない少年が助けてくれた。
「カッコつけやがって!みんな、帰ろうぜ!」
そう言うとみんなは公園から出て行った。

「…助けてくれてありがとう。殴られたよね。痛くない?」
「肘で防御したから大丈夫。怪我はないか?」
「大丈夫。助けてくれてありがとう。私は彩子って言うの。あなたは?」
一緒に遊んでいた子にすら、自己紹介をしていなかったのに不思議と自分から話しかけていた。
「勇一郎。彩子、宜しくな。」
優しく微笑みながら話してくれた。
勇一郎は背が高く、私よりも年上のように見えた。夏休みなのに何故か学ランを着ている不思議な人だった。
普段は高校生で勉強が好きなこと、体が弱いのでスポーツはあまり出来ないので友達が少ないことなどを話してくれた。
私も勉強が好きなので話が盛り上がった。気がつくと16時のチャイムが鳴っていた。
「そろそろ家に帰らないと。送ろうか。」
「…まだ帰りたくない。おばあちゃんと喧嘩しちゃったんだもん。」
「喧嘩か…分かった。俺も一緒に話してあげるよ。」
「…良いの?勇一郎が来てくれるなら心強いかも。」
「よし!それじゃあ帰ろう。」
今日会ったばかりだけど、人見知りの私がすぐに打ち解けられる事なんて初めてだった。
おばあちゃんちに行ったことがあるのか分からないけど、帰り道を知っているかのような歩き方だった。近所に住んでいるからきっと知り合いなんだろう。

「…た、ただいま。」
「彩子!おかえり!随分遅かったじゃない、心配したのよ!」
「ごめんなさい…友達と遊んでて、遅くなってしまったの。紹介するね、勇一郎っていうの。」
さっきまで隣に居た勇一郎はいなくなっていた。そして、おばあちゃんはとても驚いた顔で私を見ていた。
「あれ?今まで隣に居たんだけど、帰っちゃったみたい。」
「…彩子、話があるの。早く靴を脱いで上がりなさい。」
おばあちゃんはとても静かに囁いた。

夜ご飯を食べながら、おばあちゃんは話をし始めた。
勇一郎は、彩子が産まれる前に亡くなったおじいちゃんだった。
孤独な彩子を心配して、お盆だから帰って来たのではないかと話した。
「そうだったんだ。通りで話し方や服装が不思議だったんだ。」
「どんな服装をしてたの?」
「うーん。見た目は学ランなんだけど、教科書で見たような古いデザインだったの。話し方はとても男口調だったんだ。」
おばあちゃんはおじいちゃんと確信したようで、泣きながら私を抱きしめた。
「彩子に寂しい思いをさせないようにおじいちゃんが現れてくれたんだね。」
「彩子、寂しい思いをさせてごめんね。」
お母さんとお父さんが私を見たあと、頭を撫でた。
私はおばあちゃんとお母さん、お父さんとも仲直りして、おばあちゃんの昔話を聞いた。
おばあちゃんは20歳の時におじいちゃんと結婚した。おじいちゃんは体が弱かったが、とても頭が良かったので学者として働き、家族を養っていた。
お母さんが10歳の時に病気になり、亡くなってしまったそうだ。
おばあちゃんとお母さんは悲しみに暮れてしばらくは落ち込んで何も手につかなかった。
その後、家族の間でおじいちゃんの話はタブーのようになっていた。
私と思わぬ出会いをし、再び家族の思い出について語り継がれることになった。

東京に帰る最終日となった。
荷造りを済ませて外に出ると、勇一郎が立っていた。
「…話聞いたよ。おばあちゃんから。」
「そうか。」
勇一郎はそれ以上何も話さなかった。
「今日、東京に帰るんだ。最後に会えて良かった。私、一緒に話せて嬉しかった。こんなに楽しく話せたのは初めてだったから。」
「俺もとても嬉しかった。これ、受け取って欲しい。」
勇一郎はブレスレットを私の腕につけてくれた。赤とピンク色の糸で編まれたミサンガだった。
「一緒に遊んでくれたお礼。彩子の事を守ってくれるように願いを込めたんだ。」
「…うん…ありがとう…。私、頑張るから。おじいちゃん。」
別れの辛さから泣きながらお礼を伝えた。
「遠い未来になるだろうが、天国で再会しよう。いつもそばで見守ってるからな。」
「おじいちゃん、大好き。おじいちゃんみたいに私も学者になるから!」
そう言うと勇一郎は微笑み、姿が徐々に半透明となって消えていった。
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