蛍島教習所

たらこ飴

文字の大きさ
69 / 79

オンラインパーティー

しおりを挟む
 翌日は何もすることがなく、家族にテレビを繋いだら合格を祝われた。ちょうど私がいないのに昼間からパーティーを開いていたらしい。壁に『俊彦卒検合格おめでとう』と書かれた横断幕が貼られ、ケーキやご馳走がテーブルを彩っている。

『おお俊彦、卒検合格おめでとう! お前ならできると思ってたよ、ようやく肩の荷が降りたろう? コングラチュレーション!』

『おめでとう! 本当に良かったわ、私もあなたを育てた甲斐があった。今までお疲れ様』

 パーティーハットを被った両親がクラッカーを鳴らすと、中からカラフルなテープが飛び出した。まるで子どもの誕生日会だと思いつつ胸が温かくなった。

「ありがとう。桃太郎は?」

『桃太郎にも犬用のケーキを買ってやったんだが、半分も食べないで今は台所で湯掻いたササミを食べてるよ』

「そっか、桃太郎にもよろしく伝えといてくれ」

『ちゃんと伝えたわ。あっ、今楓くんが連れてきたわ』

 楓に連れられてきた桃太郎の顔が画面にアップになる。ササミを食べ終わるところなのか口をもぐもぐさせている。下痢をしたのが嘘のように元気そうだ。桃太郎の顔を見たらまた明るいエネルギーが漲ってきた。

「桃太郎、元気か? 私は遂に卒検に合格したぞ。教官が気難しい奴で、運転中想定外のことがいくつもあったけど、何とか免許が取れそうだ。辛いことがあるたびお前の顔を思い出して頑張れた。お前のおかげだぞ、桃太郎!」

 私の言葉を理解したのか、桃太郎はわんっと力強く鳴いた。桃太郎もおめでとうと言ってくれているような気がして、胸がいっぱいになる。

「あと1週間くらいここで過ごしたら家に帰るからな。それまで楓くんや家族の言うことをよく聞いて、良い子にしてるんだぞ」

 わんっ

 桃太郎がまた吠える。

 そこに燕と南とナンシーが現れて、TV電話の向こうの家族と話し始めた。

「可愛い~桃太郎! わんわんっ」

 燕に声をかけられた桃太郎は嬉しそうに舌を出した。

『俊彦、この子たちに変なことしてないでしょうね? あなたが真面目だってことは知ってるけど、警察沙汰になるようなことはやめなさいよ』

「分かってるよ、母さん。彼女たちは仲間だし、そういう間柄ではないから」

 親にまで警察というワードを出される私って一体。

 遊星はそれから二日間みっちりと運転を練習し、遂に二度目の卒検の日を迎えた。

 遊星は上手くやれているだろうか。後ろから煽ってくるような車や、嫌がらせをしてくる車がいないといい。できるなら皆で笑顔でこの島を出たい。

 夕方遊星の乗ったマイクロバスが民宿の前に到着した。彼にメールで今帰ってくるとだけ伝えられた私は、他のメンバーにも教えて皆で民宿前で待機していた。

 マイクロバスから降りてきた遊星は、暗い顔をして俯いていた。

 もしや、また——。

 悪い想像をしかけたとき、遊星が顔をあげてにかっと笑い横ピースをした。

「合格したよ~ん!」

「やった、よかった!!」

 私たちはその場で遊星を胴上げした。私も高岡も泣いていた。それを見ていた律子さんも泣いていた。他の女子メンバーの目にも涙が浮かんでいた。甲子園で優勝した投手のように胴上げされた遊星は、晴れやかな顔をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ユキ・シオン

那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。 成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。 出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。 次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。 青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。 そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり…… ※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...