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7. 顔合わせ
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2日ぶりに登校した学校では、学園祭の賑やかさは形を潜め、いつもの日常が始まっていた。
ロマンが早めに登校することは知っていた。私もいつもは彼女と同じ時間に家を出て、一緒にバスに乗って登校していたけれど、今日はクレアと一緒に彼女宅の専属の運転手の車に乗せてもらい、少し遅い時間に登校した。有名人のクレアは気を抜くとすぐに正体がバレて一般人に囲まれてしまうため、公共の交通機関を使うことは滅多にないらしい。
クレアが廊下を歩くだけで、学校中の生徒の視線が彼女に集中する。それほどまでに彼女はすごい存在なのだと思い知る。
当の本人はそんな視線には慣れっことでもいうかのように、涼しい顔で教室までの経路を歩いている。時折仲の良い生徒と会うと、手を振って笑顔で挨拶をしあったりしている。
教室に着くと、クレアはたちまち女子の軍団に囲まれてしまった。彼女らはクレアの休んでいた間の舞台の仕事のこと、訪れた国のことなどをしきりに質問していた。輪の中心に置かれたクレアは、嫌な顔ひとつせずに笑顔で受け答えしている。まるで、パパラッチに囲まれる芸能人そのものだ。
私は窓際の後ろから2番目の自分の席に着く。HRまでまだ少し時間があるので、昨日クレアから借りた本の続きを読もうと本を開げたところで、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、にやにや笑いを浮かべたオーシャンの顔がすぐ近くにあった。
「エイヴェリー、昨日クレアの家に泊まったんだろ? アイツの家、凄かったろ?」
「もう別世界って感じだったわ。彼女の家、大きな図書室があるのよ」
「俺は入れてもらったことないんだ。お前は特別なんだな」
意味深に笑うオーシャン。クレアは女子のパパラッチ軍団たちからようやく解放されたらしい。私の隣の席にやってきて、ふうと小さく息を吐いてゆっくりと腰を下ろした。
「大スターのお出ましだな」
オーシャンが揶揄うように言うと、クレアは彼女を笑いながら軽く睨んだ。
「スターはあなたでしょ、オーシャン。学園祭のヒースクリフ、すごくカッコよかったわ」
「そりゃどうも」
「だけど、53番目のセリフ間違えたわね」
「よく気づいたな」
そんな話をしていると、担任のステファン先生がやってきた。30代のステファン先生は歴史の担当なのだが、その知的で寡黙な雰囲気から、憧れる女子も多いらしい。
先生は学園祭のことに触れ、私たちの健闘を労ったあとで、『姉妹』の顔合わせ会について話し出した。
顔合わせは明日の夕方の4時から、体育館であるらしかった。私は自分のシスターが誰か、まだ確認していないままだったことに気づいた。
HRのあと、講堂の前の掲示板に向かった。張り出された紙を見てみると、私の名前の隣には、知らない三年生の名前が印字されていた。第一私はロマン以外の三年生のほとんどの名前を知らない。だから、わざわざ確認したところで意味がないのだ。
「あなたのペアは誰?」
声をかけられ、隣を見て驚いた。何と、立っていたのはあのミア・パスカルだったのだ。私より5センチ以上低い身長の彼女は、その夏空のように澄んだ青い目を私に向けて微笑んでいた。
「知らない三年生でした。ジャンヌさんっていう……」
「ジャンヌね……」
ミアは意味深につぶやいた。
「あなたは、クレアとペアなんですよね」
「そうみたいね、今初めて知ったわ。クレアとは仲良いの?」
「ええ……まあ。彼女はすごく優しい子ですよ」
「でしょうね。彼女、外でもすごく評判がいいもの」
彼女の言う『外』というのは、おそらく彼女とクレアが属している芸能界という世界のことなのだろう。
「ペアが彼女で良かったわ」
それじゃあ、また夕方。
ミアは私に軽く手を振り、軽やかに校舎のほうに駆けて行った。
ロマンが早めに登校することは知っていた。私もいつもは彼女と同じ時間に家を出て、一緒にバスに乗って登校していたけれど、今日はクレアと一緒に彼女宅の専属の運転手の車に乗せてもらい、少し遅い時間に登校した。有名人のクレアは気を抜くとすぐに正体がバレて一般人に囲まれてしまうため、公共の交通機関を使うことは滅多にないらしい。
クレアが廊下を歩くだけで、学校中の生徒の視線が彼女に集中する。それほどまでに彼女はすごい存在なのだと思い知る。
当の本人はそんな視線には慣れっことでもいうかのように、涼しい顔で教室までの経路を歩いている。時折仲の良い生徒と会うと、手を振って笑顔で挨拶をしあったりしている。
教室に着くと、クレアはたちまち女子の軍団に囲まれてしまった。彼女らはクレアの休んでいた間の舞台の仕事のこと、訪れた国のことなどをしきりに質問していた。輪の中心に置かれたクレアは、嫌な顔ひとつせずに笑顔で受け答えしている。まるで、パパラッチに囲まれる芸能人そのものだ。
私は窓際の後ろから2番目の自分の席に着く。HRまでまだ少し時間があるので、昨日クレアから借りた本の続きを読もうと本を開げたところで、後ろから肩を叩かれた。振り向くと、にやにや笑いを浮かべたオーシャンの顔がすぐ近くにあった。
「エイヴェリー、昨日クレアの家に泊まったんだろ? アイツの家、凄かったろ?」
「もう別世界って感じだったわ。彼女の家、大きな図書室があるのよ」
「俺は入れてもらったことないんだ。お前は特別なんだな」
意味深に笑うオーシャン。クレアは女子のパパラッチ軍団たちからようやく解放されたらしい。私の隣の席にやってきて、ふうと小さく息を吐いてゆっくりと腰を下ろした。
「大スターのお出ましだな」
オーシャンが揶揄うように言うと、クレアは彼女を笑いながら軽く睨んだ。
「スターはあなたでしょ、オーシャン。学園祭のヒースクリフ、すごくカッコよかったわ」
「そりゃどうも」
「だけど、53番目のセリフ間違えたわね」
「よく気づいたな」
そんな話をしていると、担任のステファン先生がやってきた。30代のステファン先生は歴史の担当なのだが、その知的で寡黙な雰囲気から、憧れる女子も多いらしい。
先生は学園祭のことに触れ、私たちの健闘を労ったあとで、『姉妹』の顔合わせ会について話し出した。
顔合わせは明日の夕方の4時から、体育館であるらしかった。私は自分のシスターが誰か、まだ確認していないままだったことに気づいた。
HRのあと、講堂の前の掲示板に向かった。張り出された紙を見てみると、私の名前の隣には、知らない三年生の名前が印字されていた。第一私はロマン以外の三年生のほとんどの名前を知らない。だから、わざわざ確認したところで意味がないのだ。
「あなたのペアは誰?」
声をかけられ、隣を見て驚いた。何と、立っていたのはあのミア・パスカルだったのだ。私より5センチ以上低い身長の彼女は、その夏空のように澄んだ青い目を私に向けて微笑んでいた。
「知らない三年生でした。ジャンヌさんっていう……」
「ジャンヌね……」
ミアは意味深につぶやいた。
「あなたは、クレアとペアなんですよね」
「そうみたいね、今初めて知ったわ。クレアとは仲良いの?」
「ええ……まあ。彼女はすごく優しい子ですよ」
「でしょうね。彼女、外でもすごく評判がいいもの」
彼女の言う『外』というのは、おそらく彼女とクレアが属している芸能界という世界のことなのだろう。
「ペアが彼女で良かったわ」
それじゃあ、また夕方。
ミアは私に軽く手を振り、軽やかに校舎のほうに駆けて行った。
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