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9. きっかけ
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翌日、朝礼の後に教室に戻る途中、一階の廊下でロマンとジャンヌが話しているのを見かけた。ジャンヌはロマンに正面からじゃれついて、頬にキスをしたり、手を握ったりキャハハと笑い声を上げながら肩を叩いたりとボディタッチを繰り返していた。ロマンも満更ではなさそうに微笑んでいる。彼女たちの側を通り過ぎる直前、ジャンヌは私を見てふっと笑ったように見えた。
昼休み、屋上で一人パンを食べていた私のもとに、ジャンヌがやってきて声をかけた。
「さっきロマンからネックレスを貰ったの、誕生日プレゼントですって」
彼女は首元にかけられた、月の飾りのついたシルバーネックレスを私に見せた。ロマンは、仲の良い友人たちにはマメにプレゼントを贈る。私にも誕生日やクリスマスに、ネックレスや髪飾りなどのアクセサリーをプレゼントしてくれることはよくある。だから、ジャンヌへのプレゼントも深い意味はないと思いたかった。そう思い込もうとしても、胸のざわめきは増すばかりだ。
ジャンヌはなぜ、わざわざ私にそれを見せびらかしたのだろう。朝のあの表情といい、私のロマンへの気持ちを知っているとでも言わんばかりだ。
「素敵ですね」
心にもない言葉をかけたあと、気持ちを落ち着かせるために、立ち上がって手すりからグラウンドを見つめた。ロマンはいつものように、友人たちとフットサルに興じている。
「エイヴェリー、あなたはお姉さんのことが好きよね?」
私の心を見透かした様な、タイムリーな質問がジャンヌの口から投げかけられる。
「もちろん、好きよ。姉だもの」
手すりからグラウンドの方を見つめ、答える。隣にやってきたジャンヌの視線の先にも、ロマンがいる。真剣な顔でドリブルをしていた彼女は、敵チームの選手にボールをとられたあと、やられたとでもいうように笑顔で前髪をかき上げた。
「ロマンから聞いたわ。あなた、ロマンのことを愛してるんですってね」
思わず、隣にいるジャンヌの顔を見てしまう。微笑みを浮かべたジャンヌの視線が、私に刺さる。どうしてロマンはそのことを、よりにもよって彼女に話したのだろう。このようなデリケートなことを、私のシスターである彼女に。ジャンヌのまるで私をコケにするかのような言い草、そして、誰にも知られたくなかったことをジャンヌに話した姉。やり場のない悲しみと怒りが、同時に込み上げてくる。
「例え叶わないと分かっていても、誰かを一途に愛することができるって素敵ね」
これがアイロニーであることくらい、私には分かっていた。頭に血が上りそうになるのを堪えながら、喉から搾り出す様に震える声を出す。
「お願いだから……ロマンを、これ以上弄ばないで」
「何を言ってるの?」
ジャンヌが首を傾げる。
「ロマンは私にとって大切な人よ、この世の誰よりもね。あなたはロマンのことをそれほど知らない。思わせぶりな態度をとって、彼女の心を惑わせることはしないで。彼女が……ロマンがあなたに本気になることはない!」
ジャンヌがふっと笑う。まるで私の言葉が、下らないジョークであるとでもいうかのように。
「ロマンはあなたの存在を鬱陶しがってるわ」
「姉がいつそんなことを?」
「分かるのよ、私には」
ジャンヌの邪悪な輝きを放つ目が私を捕らえる。ロマンの前では見せていないであろう彼女の本質が、今ようやくその姿を表そうとしている。
「私があなたのお姉さんなら嫌だと思うもの。血が繋がってないとはいえ、自分の妹にしつこくまとわりつかれて愛してるだなんだと言われたり、気をひこうとされるのは」
ロマンはどうして彼女なんかに私のことを話したりしたのだろう。ロマンの前の彼女は、きっと私の前とは全く別の顔をしているに違いない。甘い声で囁きかけ、あたかも自分がロマンの味方であるかのように振る舞って、姉の心を開かせようとでもしたのだろうか。彼女の仮面に気づかないまま、お人好しのロマンは目の前の少女を信用して私のことを打ち明けたのだ。
私は誰にこの感情をぶつけたらいいのだろう。目の前の私を嘲るように笑う先輩か、彼女の本質を知らず、軽々しく彼女に私の気持ちを話した姉のほうか。
「あなたには……分からない」
目の前の二つ年上の少女を睨みつけた。相手は怯むこともなく笑っている。痛みとも熱情ともつかない激しい感情が、胸にせり上がってくる。
「あなたに私とロマンのことは分からない!! 私は生まれた時から彼女を見てるわ!! 彼女のことは全て知ってる。好きな食べ物、好きな映画、愛読書や美しいと感じる音楽や絵画、苦手な香水の匂い、背中にある痣や細かい癖まで全部!! あなたなんかより私はロマンを深く愛してる。私たちのつながりについて何も知らないあなたに、彼女の感情を決めつけられる筋合いはない!!」
ひたすらに熱く激しい憤りに突き動かされるがまま叫んだ私は、いまだに蔑みの目を向ける二つ上の女生徒に背中を向けて歩き出した。
彼女が私の背中に向かって何かを言った気がしたが、聞こえないふりをした。
昼休み、屋上で一人パンを食べていた私のもとに、ジャンヌがやってきて声をかけた。
「さっきロマンからネックレスを貰ったの、誕生日プレゼントですって」
彼女は首元にかけられた、月の飾りのついたシルバーネックレスを私に見せた。ロマンは、仲の良い友人たちにはマメにプレゼントを贈る。私にも誕生日やクリスマスに、ネックレスや髪飾りなどのアクセサリーをプレゼントしてくれることはよくある。だから、ジャンヌへのプレゼントも深い意味はないと思いたかった。そう思い込もうとしても、胸のざわめきは増すばかりだ。
ジャンヌはなぜ、わざわざ私にそれを見せびらかしたのだろう。朝のあの表情といい、私のロマンへの気持ちを知っているとでも言わんばかりだ。
「素敵ですね」
心にもない言葉をかけたあと、気持ちを落ち着かせるために、立ち上がって手すりからグラウンドを見つめた。ロマンはいつものように、友人たちとフットサルに興じている。
「エイヴェリー、あなたはお姉さんのことが好きよね?」
私の心を見透かした様な、タイムリーな質問がジャンヌの口から投げかけられる。
「もちろん、好きよ。姉だもの」
手すりからグラウンドの方を見つめ、答える。隣にやってきたジャンヌの視線の先にも、ロマンがいる。真剣な顔でドリブルをしていた彼女は、敵チームの選手にボールをとられたあと、やられたとでもいうように笑顔で前髪をかき上げた。
「ロマンから聞いたわ。あなた、ロマンのことを愛してるんですってね」
思わず、隣にいるジャンヌの顔を見てしまう。微笑みを浮かべたジャンヌの視線が、私に刺さる。どうしてロマンはそのことを、よりにもよって彼女に話したのだろう。このようなデリケートなことを、私のシスターである彼女に。ジャンヌのまるで私をコケにするかのような言い草、そして、誰にも知られたくなかったことをジャンヌに話した姉。やり場のない悲しみと怒りが、同時に込み上げてくる。
「例え叶わないと分かっていても、誰かを一途に愛することができるって素敵ね」
これがアイロニーであることくらい、私には分かっていた。頭に血が上りそうになるのを堪えながら、喉から搾り出す様に震える声を出す。
「お願いだから……ロマンを、これ以上弄ばないで」
「何を言ってるの?」
ジャンヌが首を傾げる。
「ロマンは私にとって大切な人よ、この世の誰よりもね。あなたはロマンのことをそれほど知らない。思わせぶりな態度をとって、彼女の心を惑わせることはしないで。彼女が……ロマンがあなたに本気になることはない!」
ジャンヌがふっと笑う。まるで私の言葉が、下らないジョークであるとでもいうかのように。
「ロマンはあなたの存在を鬱陶しがってるわ」
「姉がいつそんなことを?」
「分かるのよ、私には」
ジャンヌの邪悪な輝きを放つ目が私を捕らえる。ロマンの前では見せていないであろう彼女の本質が、今ようやくその姿を表そうとしている。
「私があなたのお姉さんなら嫌だと思うもの。血が繋がってないとはいえ、自分の妹にしつこくまとわりつかれて愛してるだなんだと言われたり、気をひこうとされるのは」
ロマンはどうして彼女なんかに私のことを話したりしたのだろう。ロマンの前の彼女は、きっと私の前とは全く別の顔をしているに違いない。甘い声で囁きかけ、あたかも自分がロマンの味方であるかのように振る舞って、姉の心を開かせようとでもしたのだろうか。彼女の仮面に気づかないまま、お人好しのロマンは目の前の少女を信用して私のことを打ち明けたのだ。
私は誰にこの感情をぶつけたらいいのだろう。目の前の私を嘲るように笑う先輩か、彼女の本質を知らず、軽々しく彼女に私の気持ちを話した姉のほうか。
「あなたには……分からない」
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ひたすらに熱く激しい憤りに突き動かされるがまま叫んだ私は、いまだに蔑みの目を向ける二つ上の女生徒に背中を向けて歩き出した。
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