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配役②
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台本の読み合わせの前に、担任と脚本家のケイティを交えたキャストが教室に円状に並べられた机の周りに集まって、台詞や物語の解釈などについて議論をしあった。議論の内容は時代や舞台背景、台詞の裏にある感情や意味などだ。キャスト以外の生徒たちは別室で大道具や小道具、衣装や照明や音響などの係にそれぞれ分かれて打ち合わせをしている。
議論をした後で、担任がそれぞれの役について感じていることを話すようにと指示をした。
「主人公の行動の裏には、孤独と挫折を味わったことへの絶望があるのかも」
口火を切ったのはソニアだ。
「ミュージシャンって、華やかなようで結構寂しかったりするんだよね。私もそうなんだけど……本当の自分を理解されにくいってゆうか。売れないことで孤独を募らせて、一度経験した華やかな世界を渇望して、余計に挫折感を強く感じたりしたのかも」
「この姉弟がきたことで、忘れかけていた音楽への情熱を取り戻して、生きる意味を見出すことができたってわけね」
クレアの解釈にそうねとソニアが頷く。
「この黒人のオルファの気持ち、私はよく分かるわ」
そう口に出したのはリアナだ。
「私もシングルマザーで、一時期はトレイラー暮らしをしてた。周りには同じようなトレイラー暮らしをする人たちがいた。今は伯母の家で暮らしてるけどね……。これまで自分の境遇を何度も恨んだ。このまま自分はまともに教育も受けられずに、好きなこともできない、夢も叶えられないまま死んでいくのかと思ってたわ。今は好きなことができて、こんな自分にピッタリな役をもらえて幸せだけどね」
ただこの空気に流されただけなのかもしれない。だけど私は無性に、これまで話すことのできなかった姉への想いを吐き出したくなった。誰も話し出さないことを確認した後で、私は口を開いた。
「私にも姉がいて、私は姉のことが大好きで、姉のためなら何でもできると思ってる。姉を傷つける人間はみんないなくなればいいと思う。姉も私を大切に思ってくれてる……。私とは違う大切だけどね。だから私は、姉が弟を守りたいって気持ちにすごく共感できるの」
そのあとで深呼吸をして続けた。
「ある先輩から姉のことについていろいろ言われた時はすごく腹が立ったし、彼女を殴りたいと思った。同時に、こんな私を姉に見られたくないと……これ以上無駄な心配をかけたくないと思った。これまで消えてしまいたいと何度も思った。何で私はよりによって姉を愛してしまったんだろうって。普通の幸せなんて手に入らないと思ってた。だけどこんな経験をした私だからこそ、弟を愛する姉を上手く演じられる気がする」
「よく言ったわね、エイヴェリー」
クレアが隣の席から私の手をそっと握る。彼女の優しさに泣き出したい気持ちになりながら、笑顔を返す。
次に話し出したのはメグだった。
「私も他人から理解されにくいから、パールの感覚って分かるのよね。子どもの頃から他人と違うってよく言われた。他の子どもと遊ばないで、一人で架空の『パトリシア』って友達を作って遊んだりしてたわ。パトリシアはすごくお調子者で、私が寝ていると顔の近くでオナラをして起こしてくるの」
くすくすと笑い声が上がる。メグもふふ、と懐かしそうに笑ったあとで続ける。
「小学生の時担任の男の先生から、『お前は何もできない』『何も考えてないだろ』って言われたのがすごくショックだった。マイペースなだけでちゃんと考えてるし、私にだってできることがあるのにって思ったわ」
「理解されにくいってんなら、俺も同じだな」とオーシャン。
「俺ってこんなだから、昔から悪ガキに見られてたんだ。小学3年の時の先生は、俺の通信簿をやたらと悪く書いた。言葉遣いが乱暴だ、悪戯ばかりする、落ち着きがない……。友達と喧嘩しても、言い分を効かないうちに俺ばっかり悪いみたいに叱られた。すげー辛かったよ」
私はあまりのことに、怒りが抑えられずに口を挟んでしまった。
「それは先生が良くないわ。メグの担任にも言えることだけど、子どもを1番理解すべき大人が馬鹿にしたり否定ばかりするなんて、許せないことよ」
「身につまされるな」
担任が頭をかきながらつぶやくものだから、また笑いが起こった。
それぞれが自分の役についての解釈と個々の思いを吐露したあとで、レンカがおずおずと口を開いた。
「私……元は日本でモデルをしてたの。元々引っ込み思案の性格で、凄いあがり症だったんだけど……。知り合いの監督から声をかけられて、演技は全くの未経験で映画に出たの。だけど、その時の演技をネットで凄い酷評されて……。『棒読み』だの『大根』だのって貶されて……。それどころか街で面と向かって『もう映画に出るな』『〇〇監督の作品を汚すな』とまで言われたこともある」
「酷いわね」
クレアが呟く。
「俺なら、黙れって言って股間を蹴ってやる」
オーシャンが言うとレンカが噴き出したあと、
「言ってきた相手は女の人よ、中年の」と答えて笑いが起きた。少し緊張がほぐれた様子でレンカは再び口を開いた。
「あんまりショックで、モデルの仕事も学校も休んで2年位家に引きこもって、漫画読んだりゲームばかりしてた。だけど本当はすごく悔しくて……。ある日このままじゃだめだって思って、どうしても芝居が上手くなりたくて留学した。だけど、いざとなるとすごく怖いの……。差別を受けて喋れなくなった日本人のハナは、間違いなく私自身だと思う」
涙目になって俯いた後で、レンカは言った。
「今も怖いし不安だけど、みんなが沢山励まして助けてくれて……。私、フランス語も下手だし芝居も下手くそだけど、脚を引っ張らないように頑張ります」
自然に両手を叩いていた。大きな挫折を経験しても立ち上がろうとするレンカの強さと、親元を離れて外国からはるばるフランスまでやってきて頑張ろうとしている彼女のひたむきさと実直さに胸を打たれたのだ。私に釣られるようにパチパチと拍手が響く。レンカはまた恥ずかしそうに顔を紅潮させて俯いた。だがその表情は最初よりもずっと綻んでいた。
議論をした後で、担任がそれぞれの役について感じていることを話すようにと指示をした。
「主人公の行動の裏には、孤独と挫折を味わったことへの絶望があるのかも」
口火を切ったのはソニアだ。
「ミュージシャンって、華やかなようで結構寂しかったりするんだよね。私もそうなんだけど……本当の自分を理解されにくいってゆうか。売れないことで孤独を募らせて、一度経験した華やかな世界を渇望して、余計に挫折感を強く感じたりしたのかも」
「この姉弟がきたことで、忘れかけていた音楽への情熱を取り戻して、生きる意味を見出すことができたってわけね」
クレアの解釈にそうねとソニアが頷く。
「この黒人のオルファの気持ち、私はよく分かるわ」
そう口に出したのはリアナだ。
「私もシングルマザーで、一時期はトレイラー暮らしをしてた。周りには同じようなトレイラー暮らしをする人たちがいた。今は伯母の家で暮らしてるけどね……。これまで自分の境遇を何度も恨んだ。このまま自分はまともに教育も受けられずに、好きなこともできない、夢も叶えられないまま死んでいくのかと思ってたわ。今は好きなことができて、こんな自分にピッタリな役をもらえて幸せだけどね」
ただこの空気に流されただけなのかもしれない。だけど私は無性に、これまで話すことのできなかった姉への想いを吐き出したくなった。誰も話し出さないことを確認した後で、私は口を開いた。
「私にも姉がいて、私は姉のことが大好きで、姉のためなら何でもできると思ってる。姉を傷つける人間はみんないなくなればいいと思う。姉も私を大切に思ってくれてる……。私とは違う大切だけどね。だから私は、姉が弟を守りたいって気持ちにすごく共感できるの」
そのあとで深呼吸をして続けた。
「ある先輩から姉のことについていろいろ言われた時はすごく腹が立ったし、彼女を殴りたいと思った。同時に、こんな私を姉に見られたくないと……これ以上無駄な心配をかけたくないと思った。これまで消えてしまいたいと何度も思った。何で私はよりによって姉を愛してしまったんだろうって。普通の幸せなんて手に入らないと思ってた。だけどこんな経験をした私だからこそ、弟を愛する姉を上手く演じられる気がする」
「よく言ったわね、エイヴェリー」
クレアが隣の席から私の手をそっと握る。彼女の優しさに泣き出したい気持ちになりながら、笑顔を返す。
次に話し出したのはメグだった。
「私も他人から理解されにくいから、パールの感覚って分かるのよね。子どもの頃から他人と違うってよく言われた。他の子どもと遊ばないで、一人で架空の『パトリシア』って友達を作って遊んだりしてたわ。パトリシアはすごくお調子者で、私が寝ていると顔の近くでオナラをして起こしてくるの」
くすくすと笑い声が上がる。メグもふふ、と懐かしそうに笑ったあとで続ける。
「小学生の時担任の男の先生から、『お前は何もできない』『何も考えてないだろ』って言われたのがすごくショックだった。マイペースなだけでちゃんと考えてるし、私にだってできることがあるのにって思ったわ」
「理解されにくいってんなら、俺も同じだな」とオーシャン。
「俺ってこんなだから、昔から悪ガキに見られてたんだ。小学3年の時の先生は、俺の通信簿をやたらと悪く書いた。言葉遣いが乱暴だ、悪戯ばかりする、落ち着きがない……。友達と喧嘩しても、言い分を効かないうちに俺ばっかり悪いみたいに叱られた。すげー辛かったよ」
私はあまりのことに、怒りが抑えられずに口を挟んでしまった。
「それは先生が良くないわ。メグの担任にも言えることだけど、子どもを1番理解すべき大人が馬鹿にしたり否定ばかりするなんて、許せないことよ」
「身につまされるな」
担任が頭をかきながらつぶやくものだから、また笑いが起こった。
それぞれが自分の役についての解釈と個々の思いを吐露したあとで、レンカがおずおずと口を開いた。
「私……元は日本でモデルをしてたの。元々引っ込み思案の性格で、凄いあがり症だったんだけど……。知り合いの監督から声をかけられて、演技は全くの未経験で映画に出たの。だけど、その時の演技をネットで凄い酷評されて……。『棒読み』だの『大根』だのって貶されて……。それどころか街で面と向かって『もう映画に出るな』『〇〇監督の作品を汚すな』とまで言われたこともある」
「酷いわね」
クレアが呟く。
「俺なら、黙れって言って股間を蹴ってやる」
オーシャンが言うとレンカが噴き出したあと、
「言ってきた相手は女の人よ、中年の」と答えて笑いが起きた。少し緊張がほぐれた様子でレンカは再び口を開いた。
「あんまりショックで、モデルの仕事も学校も休んで2年位家に引きこもって、漫画読んだりゲームばかりしてた。だけど本当はすごく悔しくて……。ある日このままじゃだめだって思って、どうしても芝居が上手くなりたくて留学した。だけど、いざとなるとすごく怖いの……。差別を受けて喋れなくなった日本人のハナは、間違いなく私自身だと思う」
涙目になって俯いた後で、レンカは言った。
「今も怖いし不安だけど、みんなが沢山励まして助けてくれて……。私、フランス語も下手だし芝居も下手くそだけど、脚を引っ張らないように頑張ります」
自然に両手を叩いていた。大きな挫折を経験しても立ち上がろうとするレンカの強さと、親元を離れて外国からはるばるフランスまでやってきて頑張ろうとしている彼女のひたむきさと実直さに胸を打たれたのだ。私に釣られるようにパチパチと拍手が響く。レンカはまた恥ずかしそうに顔を紅潮させて俯いた。だがその表情は最初よりもずっと綻んでいた。
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