ネコハラ

たらこ飴

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ねこはじめ

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 猫が空から降って来た。

 ちょうど鳩尾あたりに衝撃が走って胃液がせり上がり、グェッという悲鳴とともに目が覚める。

 落下してきた張本人である黒猫のようかんは私の腹の上で体勢を立て直し、再びキャットウォークへ飛び乗った。

 枕元の時計は5時半だが、人間より遥かに早く猫たちの1日は始まっている。
 
 ようかんの双子の妹あずきは私が起きたことに気づき近寄ってきて、私の手の甲をしゃくしゃく音をたてて舐めてくる。

 茶白猫のみそしるは「ぶーまん」「ほんこん」と謎の鳴き声をあげながら歩き回り、枕元にあるエアコンのリモコンスイッチをピッと踏んでモードを冷房から送風に変えた。
 
 アメショレッドタビーのミックスであるタビは、百均で買ってきたボールをサッカー選手のように前脚で蹴り器用に転がして遊んでいる。

 あずきに手の甲を舐められながらぼんやりしていたら、ピンク色のセミのおもちゃを咥えたようかんが布団越しに脚に爪を立てて来た。

「痛っ、ようかんだめ!」

 注意しても悪びれる様子はなく、ようかんは遊んでほしそうに私を見つめる。まだ起きたくなくて動かないでいると、ついには飲み水の入った皿を前脚で動かしたり、餌皿をひっくり返したりという悪戯——おもちゃネコハラ略してトイハラをしかけてくる。

 隣の小部屋からは私の声を聴いたベージュ縞柄猫の双子の弟ゆうやけのけたたましい鳴き声と、ザッザッとトイレの砂をかく音が絶えず聞こえてくる。超綺麗好きなゆうやけはトイレがたいして汚れていなくても、1回か2回おしっこするとこんな風に掃除しろと圧をかけてくる。これを掃除クリーニングネコハラ、略して『クリハラ』と呼ぶ。

 猫たちからの無言の圧に屈してのそのそ起き上がった私は、右手をあずきに舐められたまま左手でおもちゃを持ってようかんと遊んでやる。ようかんは何もないところで頻繁にふらついたり転んだりするが障害や怪我ではなく、他の猫より外股だからか脚の使い方が下手なのだ。

 ようかんが遊びに飽きたあたりでトイレ掃除にとりかかる。夜のうちに溜まった5匹分のうんちとおしっこをシャベルですくってビニール袋に入れる。

 掃除のあとは猫たち念願のご飯だ。入口付近にある箪笥に向かう途中、ご飯の気配に気づいた猫たちが集まってきて歩くのに苦労する。どうにか辿り着いた箪笥の引き出しから餌袋を取り出し、床に置いてある5枚の餌皿に餌を入れ、猫たちが食べている間に外に脱出する。

 隣の部屋にはベージュ縞柄のクリームツインズがいる。甘えん坊のゆうやけは私の顔を見るなりぐりぐりと手に頭を擦り付けて甘えてくる。兄のあさやけはキャットウォークの木の船の上から静かにその様子を見守っている。

 満足のいくまで甘えさせたあと、ゆうやけに監視されながらトイレ掃除を済ませ餌をあげてキャットハウスを出る。

 これが私のいつもの朝だ。

 鬼瓦さん宅の玄関に入る前から二人のいがみ合う声が聞こえてきていた。

 居間に入ると私に気づいた道子さんが「あら、おはよう」と笑いかけてくれ、善二さんは眉間に皺を寄せながら「おう」と短く声をかけてくれる。

 朝食は目玉焼きとほうれん草のお浸し、昨晩の肉じゃがの残りと味噌汁だった。善二さんと道子さんが朝ドラを観ながら人物の言動や展開についてああでもない、こうでもないと議論している傍ら「いただきます」と手を合わせてご飯を食べる。そして三度のおかわりをする。これがいつもの光景だ。

 朝ご飯を終え支度が終わると仕事に出かける。仕事の休憩中も携帯で猫たちの様子を眺める。猫部屋には360部屋を映せるカメラが備え付けられてあり、スマートフォンと連動させている。そのためいつどこにいても猫たちの様子を眺めることができる。

 茶白のみそしるはケージの上で寝ていて、それに黒猫の妹あずきが甘えるようにしてよりかかっている。茶虎娘のちゃちゃは一人でピンクの桃のベッドの上(普通は中に寝るのだが潰して寝ている)で毛繕いをし、タビは百均ボールで遊び、ようかんは船型のキャットウォークの上で寝ている。

 カメラを隣の部屋に切り替えると、ゆうやけとあさやけが猫ベッドの中ですやすやと眠っていた。猫たちが無事なのを確認してほっとする。

 お昼休みにはまた猫部屋に戻るのだが、基本的に休むことはできない。

 みそしるにお腹に乗られながら開いたスマートフォンの待受は、ようかんの顔のどアップだ。このときはまだ猫たちに出会ったばかりで、生後半年くらいのようかんは小さくてふわふわで可愛らしかった。

 猫たちの写真を見ながら、私はこれまでに起きた過去の出来事に思いを馳せた。
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