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面会
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忙しくしている間にあっという間にアメの面会の日がやってきた。渡辺さんは予定の10時半に奥さんとともにやってきた。対応したのは私と道子さんで、善二さんは一度顔を出したきり奥に引っ込んでしまった。
「お客さんに怖がられると思って遠慮してるのよ」と道子さんが耳打ちした。
二人とも感染予防にマスクをしていたが、奥さんは女優さんのように目鼻立ちの整った綺麗な人で、電話をくれた旦那さんはふくよかで優しそうな人だった。仔猫部屋に案内された二人は30分ほど仔猫たちと触れ合い、旦那さんの方はつきみの猫パンチを膝にお見舞いされた。
アメの兄弟のクラシックタビー×白のまるが奥さんの手に頬擦りをしたりして懐いているのを見た旦那さんは、ぽつりと「やっぱり兄弟一緒がいいよな」とつぶやいた。
「私この子ほしいな」
奥さんに言われ、旦那さんは心を決めたように頷いた。
「この子ももらいます、2匹一緒に」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「はい。うちは飲食店なんで、留守番のとき1匹じゃ寂しいと思うんで。あと、家内も気に入ったみたいだから」
こうして理想的な形で兄弟2匹が貰われることになった。万が一のことも考えられるので、一応一週間のトライアル期間を設けることで合意をもらい、トライアル前に渡辺さん宅にお邪魔することにした。信用に足りまくる人たちというのは分かっていたけれど、大切な猫たちだから念には念を入れたかった。そう伝えると渡辺さんは快く承諾してくれ、来週末道子さんとお邪魔することに決まった。
渡辺さん宅は2階建てで、夫婦の他に0歳から7歳の子供3人とお祖母さんが住んでいた。広々とした家で、2階の一室に猫用ケージを2つ用意していたことからしっかりした飼い主さんだと分かった。仔猫が遊ぶのにちょうど良い大きさの低めのキャットタワーやトンネルのおもちゃもあり、壁にDIYのキャットウォークが設置してあるから楽しく遊べそうだ。システム式の猫用トイレもあり、もう迎える準備は万全だと分かった。これなら2匹を譲渡しても問題なさそうだ。
小さな女の子と男の子が走ってきて、「合格?!」「しんさつうか?!」と訊いてきたので、「うん、合格だよ」と親指を立てて見せた。
「「やった~!!」」
2人はジャンプして喜んだ。兄妹と猫たちが仲良く駆け回る姿が想像できて、微笑ましかった。道子さんも「これなら大丈夫そうだね」と頷いた。
「すごく良い環境だと思うので、猫たちを譲渡して問題ないと思います。明日猫たちを連れてきますね。1週間のトライアルをしてみて大丈夫そうなら、正式譲渡ということで」
そう伝えると渡辺さん夫妻はほっとしたみたいだった。
アメとまるとの最後の夜、善二さんはむっつり黙りこくって将棋板を見つめていた。
「親父の奴、寂しくてああなってんだな」
そう瑛二さんが小声で言った。言葉には出さないけれど、私と同じで善二さんも寂しいんだ。でも善二さんの場合は私よりも長い間猫たちをお世話しているわけだから、私の寂しさとはきっと比べ物にならない。
外猫たちにご飯をあげたあと仔猫部屋を覗いてみたら、2匹の猫を撫でる善二さんの姿があった。その背中がすごく寂しげで小さく見えた。
仔猫たちが幸せになるのは嬉しいことだけれど、愛着が湧いた分別れるのは辛い。短い間だったけど私のお腹の上で寝るアメとまるに癒された。とっくみあいをしているのを見てやきもきしたり、つきみにちょっかいをかけたり妹の分の餌を食べるのを叱ったり。いつの間にか全てがあたたかくていとおしい思い出になっていた。
私たちはこれから別れの辛さを何度も経験する。覚悟していたけれど、やっぱり胸が締め付けられる。だけど寂しさや悲しさを幸せになってほしいという願いが上回るから、手放すことを決断できる。餌をあげず世話もせずに無責任な飼い方をする一部の人間がいることも分かっているけれど、少なくとも渡辺さんたちはそうじゃないと分かる。猫に対する真摯な気持ちが伝わってきたし、何よりあの家族が猫たちを見つめる眼差しがすごく優しかったからだ。きっと2匹は渡辺さんの家で、優しい夫婦と子供たちに囲まれて幸せになれる。その願いと確信が別れをポジティブな意味に変えてくれるのだと思う。
「お客さんに怖がられると思って遠慮してるのよ」と道子さんが耳打ちした。
二人とも感染予防にマスクをしていたが、奥さんは女優さんのように目鼻立ちの整った綺麗な人で、電話をくれた旦那さんはふくよかで優しそうな人だった。仔猫部屋に案内された二人は30分ほど仔猫たちと触れ合い、旦那さんの方はつきみの猫パンチを膝にお見舞いされた。
アメの兄弟のクラシックタビー×白のまるが奥さんの手に頬擦りをしたりして懐いているのを見た旦那さんは、ぽつりと「やっぱり兄弟一緒がいいよな」とつぶやいた。
「私この子ほしいな」
奥さんに言われ、旦那さんは心を決めたように頷いた。
「この子ももらいます、2匹一緒に」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「はい。うちは飲食店なんで、留守番のとき1匹じゃ寂しいと思うんで。あと、家内も気に入ったみたいだから」
こうして理想的な形で兄弟2匹が貰われることになった。万が一のことも考えられるので、一応一週間のトライアル期間を設けることで合意をもらい、トライアル前に渡辺さん宅にお邪魔することにした。信用に足りまくる人たちというのは分かっていたけれど、大切な猫たちだから念には念を入れたかった。そう伝えると渡辺さんは快く承諾してくれ、来週末道子さんとお邪魔することに決まった。
渡辺さん宅は2階建てで、夫婦の他に0歳から7歳の子供3人とお祖母さんが住んでいた。広々とした家で、2階の一室に猫用ケージを2つ用意していたことからしっかりした飼い主さんだと分かった。仔猫が遊ぶのにちょうど良い大きさの低めのキャットタワーやトンネルのおもちゃもあり、壁にDIYのキャットウォークが設置してあるから楽しく遊べそうだ。システム式の猫用トイレもあり、もう迎える準備は万全だと分かった。これなら2匹を譲渡しても問題なさそうだ。
小さな女の子と男の子が走ってきて、「合格?!」「しんさつうか?!」と訊いてきたので、「うん、合格だよ」と親指を立てて見せた。
「「やった~!!」」
2人はジャンプして喜んだ。兄妹と猫たちが仲良く駆け回る姿が想像できて、微笑ましかった。道子さんも「これなら大丈夫そうだね」と頷いた。
「すごく良い環境だと思うので、猫たちを譲渡して問題ないと思います。明日猫たちを連れてきますね。1週間のトライアルをしてみて大丈夫そうなら、正式譲渡ということで」
そう伝えると渡辺さん夫妻はほっとしたみたいだった。
アメとまるとの最後の夜、善二さんはむっつり黙りこくって将棋板を見つめていた。
「親父の奴、寂しくてああなってんだな」
そう瑛二さんが小声で言った。言葉には出さないけれど、私と同じで善二さんも寂しいんだ。でも善二さんの場合は私よりも長い間猫たちをお世話しているわけだから、私の寂しさとはきっと比べ物にならない。
外猫たちにご飯をあげたあと仔猫部屋を覗いてみたら、2匹の猫を撫でる善二さんの姿があった。その背中がすごく寂しげで小さく見えた。
仔猫たちが幸せになるのは嬉しいことだけれど、愛着が湧いた分別れるのは辛い。短い間だったけど私のお腹の上で寝るアメとまるに癒された。とっくみあいをしているのを見てやきもきしたり、つきみにちょっかいをかけたり妹の分の餌を食べるのを叱ったり。いつの間にか全てがあたたかくていとおしい思い出になっていた。
私たちはこれから別れの辛さを何度も経験する。覚悟していたけれど、やっぱり胸が締め付けられる。だけど寂しさや悲しさを幸せになってほしいという願いが上回るから、手放すことを決断できる。餌をあげず世話もせずに無責任な飼い方をする一部の人間がいることも分かっているけれど、少なくとも渡辺さんたちはそうじゃないと分かる。猫に対する真摯な気持ちが伝わってきたし、何よりあの家族が猫たちを見つめる眼差しがすごく優しかったからだ。きっと2匹は渡辺さんの家で、優しい夫婦と子供たちに囲まれて幸せになれる。その願いと確信が別れをポジティブな意味に変えてくれるのだと思う。
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