ピカゴロー

世界三大〇〇

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1章

中間テスト

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 5月の大型連休が明けて2週間。日常の生活を取り戻すと、薫る風が心地良い。都内のとある高校で終業を告げるチャイムが鳴り響く。同時に8人の集団が1人の生徒を取り囲む。帰り支度がコンマ2秒といわれる帰宅部員のお株を奪い、早々に支度を終え取り囲んでいるのは、これといって悪い噂のある集団ではないが、一目で興奮していることが分かる。それだけでも教室内に緊張が走る。その集団のリーダーは恐る恐る中央の生徒に声をかける。

「おっ、おい。ピカゴロー!」

 ピカゴローと呼ばれた男は名を鱒太一という。太一は1年生ながらわずか1ヶ月あまりの間に17回も日間帰宅ランキング1位に輝いている、新進気鋭の帰宅部員、キタッカーである。こうして捕まることは滅多にないのだが、それでも捕まったということは、相手の側に相応の覚悟があるのを、太一は理解している。それを事前に察知できなかったのは、太一の側に落ち度があるというわけだ。
不覚をとった太一は鼻の穴を大きくしたこと以外は、ごく普通に立ち止まる。鼻孔の変化、集団の中にはそれだけでも怯え、半歩あとずさった者もいる。太一がどういう反応をするのか、分かっていないからだ。もし暴れ出したらどうしよう。そんな想像をしていたから、臆病にもなる。だが、太一に争うつもりはないと分かると、集団のリーダーは今度はやたらと強気になる。

「お前、帰宅部だろ。今日から活動停止だ。帰宅するな!」

 定期テスト期間、部活動は全面禁止になる。野球部は野球をやらなくなるし、吹奏楽部だって昼休み以外に吹奏楽をしない。だが、帰宅部が帰宅をしてはいけないというのは、あまり聞かない屁理屈だ。太一は、静かに辺りを見回す。そんな動作にも怯える者が5人。太一はそれには構わずに、いるであろう中学時代の同級生を探す。だが太一は中学の同級生の顔をほとんど覚えていない。結局、見つけることのできないまま、一度呼吸を整えてから目を閉じて静かに言う。

「今日は用意してないから……。」
「なに?」
「……。明日からにしてくれ……。」

 小5の初夏、ある事件をきっかけとして、太一は学校中の児童からからいじめられた。原因は、太一がもつ世にも珍しい異能、発光体質にある。ピカゴローというあだ名の由来にもなっている。太一は、興奮すると不思議な光を放ってしまうのだ。その不思議な光には浴びた人の気分を変えてしまう効果がある。もしも、人間がその光を浴びたのなら乗り物に酔ったようなムカムカした感覚となり吐き気をもよおす。最悪の場合、その場で卒倒する。不思議な光に人を幸せにするような作用があれば別だが、人を吐かせてしまうのではいじめられても仕方がない。太一自身でさえそう思えてしまうほどの強烈さが不思議な光にはあるのだ。

「っざけんなよ! テスト期間は今日からだぞ」

 まだ高校1年生の1学期のクラスは不安定で、誰がクラスの中で主導権を握るのかについては眼を離せない。この集団のリーダーが、明日もリーダーであるとは限らない。集団の規模も大きくなるか小さくなるかなんてことも分からない。だから今、太一の目の前にいるリーダーは、高校での3年間の生活をより充実したものにするために、リーダー然とした行動を取らなければならない。

 一方の太一は、いじめられるのには慣れている。だから、集団のリーダーがどんな気持ちで突っかかってきているのかを考え、その場の対処を決める。あまりいじめたことのないいじめっ子よりも、いじめられてばかりのいじめられっ子の方が、心理戦には強い。ただし、多くのいじめられっ子は、異能を持たないから、分かっていても泣き寝入りするしか手段が選べない。だが、太一には発光体質という異能がある分、打つ手の選択肢は割と多い。この日の太一は少しばかり急いでいた。だからこうして囲まれてからずっと気が立っていた。この集団のリーダーにとって不幸だったのは、そんな日を選んでしまったことにある。

「明日からにしてくれ!」

 先ほどと同じ言葉だが、違うのは大声ではっきりと言ったこと。そして、力を込めて眼をギッと見開くというフリをつけたこと。それだけで太一を囲んでいた集団の輪がサァーっとが大きく拡がる。リーダーを除く集団の一人ひとりが2歩3歩と後ずさったからだ。太一はまだ異能を発揮していないが、それをちらつかせただけで誰もが勝手に怯える。あとは1番広く開いた隙間を通り抜ければ、太一は易々と帰路につくことができる。集団の側に、颯爽と歩く太一を追うものは誰ひとりとしていないのだから。太一は、明日からの過ごし方を思案しながらも、足早にその場を去った。
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