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第五章 グランスレイフ
68.夜遅くの訪問者
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コンッ、コンッ。
夜になり、俺と唯葉が眠ろうとした時、突然部屋のドアをノックする音が飛んでくる。
「誰だろう? こんな時間に……」
こんな時間に一体誰だ? と俺が思った直後、ドアがバタンと開け放たれる。その先に立っていたのは一人の男だった。
そして、その男は――俺が知っている人物だった。多種多様な人たちのいるこの世界では少し珍しい黒髪に、全身にピカピカの装備を着けた、一人の男。その『目』が紅く染まっている事を除けば、俺が知っている姿だった。
「――やはりお前だったか……梅屋正紀。冒険者ギルドで一方的にやられた、あの時以来だな」
――工藤茂春。Sランクのスキルを持ち、かつて俺をクラスから追い出したうちの一人。確かに並みの実力ではない男ではある。が、それでも。あり得ないと思った。
何故、こんな所に彼がいるのだろうか? どうやって魔族の住まうこの大陸へと来られたのか? 俺は、目の前の状況の理解が追いつかない。
「あの船から出てくるのを見かけてな。俺もこの魔王城にお世話になっていたんでちょっと会いに来たって訳だ」
前よりも落ち着いたような、大人びたような。そんな雰囲気の彼に、俺は問いかける。
「……何故、お前がこんな所に居るんだ? ここがどこなのか分かっているのか」
工藤茂春は軽く笑うと、
「ハッ、格下だと思って馬鹿にしてるのか? どこからどう見ても、グランスレイフの都市の中――マーデンディアの魔王城に決まってるだろうが。強いからって良い気になるなよ主人公」
「そういう意味じゃない。分かっているのか? ここは魔族の大陸だぞ。何しに、どうやってこんな所まで来たんだ?」
「何しに……か。それなら俺の『目』を見れば分かるんじゃねえか? お前の妹もそうなんだろ?」
そう言い放つ工藤茂春の眼は――真紅色に染まっていた。そして、妹の唯葉と同じ。そして、この大陸の人々と同じ、紅い目を持つという事は……。
「お前、まさか『魔人』に――!?」
「俺は強くなりたかった。この異世界の主人公になれないならば、せめてそれを壊せる力が欲しかった。――そうだ、お前だよッ! この世界の主人公であるお前を壊す力だッ! 俺とお前、二人が出会ったんだ、やるべき事は分かっているだろうなァ!」
ヒートアップした工藤茂春が、勢いに任せて言い放つ。……やるべき事。それは『宣戦布告』だった。
「まだ主人公とか、そんな事を言っていたのか。あの時、俺はこの力をもって教えたはずだったんだが」
あの時。主人公だとか、下らない概念なんて存在しないんだと。この斬撃と共に、刻み込んだはずなのに。
彼は、再び同じ理由で、強い意志で俺の前へと立ち塞がっていた。
「主人公ってのはなァ、自覚がないから主人公なんだ。あの時、お前に完膚なきまでに叩きのめされてよーく分かった。お前はこの異世界の主人公だ。完璧な、理想的な非の打ち所のない主人公だ。だから俺は潰す。主人公を潰すための、この力でなァッ!」
主人公。そんな言葉に俺は興味はないし、なりたいとすら思わない。
が、目の前で再び間違った方向へと突き進もうとする男を、放っておく訳にはいかない。この世界はリアルで、ゲームなんかじゃない。一人一人が生きていて、助け合う。そんな世界に主人公なんて存在しないと。再び教える為に――俺は部屋に置いていた剣を取る。
「唯葉。俺は少し用事を済ませてくる。少し待っててくれ」
「はッ、それでこそ主人公。今度は俺がお前を叩き潰す番だ。見せつけてやる、俺の力をなァッ!」
夜になり、俺と唯葉が眠ろうとした時、突然部屋のドアをノックする音が飛んでくる。
「誰だろう? こんな時間に……」
こんな時間に一体誰だ? と俺が思った直後、ドアがバタンと開け放たれる。その先に立っていたのは一人の男だった。
そして、その男は――俺が知っている人物だった。多種多様な人たちのいるこの世界では少し珍しい黒髪に、全身にピカピカの装備を着けた、一人の男。その『目』が紅く染まっている事を除けば、俺が知っている姿だった。
「――やはりお前だったか……梅屋正紀。冒険者ギルドで一方的にやられた、あの時以来だな」
――工藤茂春。Sランクのスキルを持ち、かつて俺をクラスから追い出したうちの一人。確かに並みの実力ではない男ではある。が、それでも。あり得ないと思った。
何故、こんな所に彼がいるのだろうか? どうやって魔族の住まうこの大陸へと来られたのか? 俺は、目の前の状況の理解が追いつかない。
「あの船から出てくるのを見かけてな。俺もこの魔王城にお世話になっていたんでちょっと会いに来たって訳だ」
前よりも落ち着いたような、大人びたような。そんな雰囲気の彼に、俺は問いかける。
「……何故、お前がこんな所に居るんだ? ここがどこなのか分かっているのか」
工藤茂春は軽く笑うと、
「ハッ、格下だと思って馬鹿にしてるのか? どこからどう見ても、グランスレイフの都市の中――マーデンディアの魔王城に決まってるだろうが。強いからって良い気になるなよ主人公」
「そういう意味じゃない。分かっているのか? ここは魔族の大陸だぞ。何しに、どうやってこんな所まで来たんだ?」
「何しに……か。それなら俺の『目』を見れば分かるんじゃねえか? お前の妹もそうなんだろ?」
そう言い放つ工藤茂春の眼は――真紅色に染まっていた。そして、妹の唯葉と同じ。そして、この大陸の人々と同じ、紅い目を持つという事は……。
「お前、まさか『魔人』に――!?」
「俺は強くなりたかった。この異世界の主人公になれないならば、せめてそれを壊せる力が欲しかった。――そうだ、お前だよッ! この世界の主人公であるお前を壊す力だッ! 俺とお前、二人が出会ったんだ、やるべき事は分かっているだろうなァ!」
ヒートアップした工藤茂春が、勢いに任せて言い放つ。……やるべき事。それは『宣戦布告』だった。
「まだ主人公とか、そんな事を言っていたのか。あの時、俺はこの力をもって教えたはずだったんだが」
あの時。主人公だとか、下らない概念なんて存在しないんだと。この斬撃と共に、刻み込んだはずなのに。
彼は、再び同じ理由で、強い意志で俺の前へと立ち塞がっていた。
「主人公ってのはなァ、自覚がないから主人公なんだ。あの時、お前に完膚なきまでに叩きのめされてよーく分かった。お前はこの異世界の主人公だ。完璧な、理想的な非の打ち所のない主人公だ。だから俺は潰す。主人公を潰すための、この力でなァッ!」
主人公。そんな言葉に俺は興味はないし、なりたいとすら思わない。
が、目の前で再び間違った方向へと突き進もうとする男を、放っておく訳にはいかない。この世界はリアルで、ゲームなんかじゃない。一人一人が生きていて、助け合う。そんな世界に主人公なんて存在しないと。再び教える為に――俺は部屋に置いていた剣を取る。
「唯葉。俺は少し用事を済ませてくる。少し待っててくれ」
「はッ、それでこそ主人公。今度は俺がお前を叩き潰す番だ。見せつけてやる、俺の力をなァッ!」
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