滅んでしまった王国の元騎士は自由気ままな暮らしを満喫したい

川村直樹

文字の大きさ
5 / 66

アルフェリア 3

しおりを挟む
 いい加減観念しろよとばかりにスライブは、クリスにしつこく食い下がる。

「そういう事だ、救出に行ってくれるか?」

「嫌だね、今回はお断りする」

「どうしてだ、理由を知りたい」

「みんな、薄々分かっているのだろう。そいつは、嘘を付いている。まず、一つは森の奥に魔獣が居ることはみんな知っている事だろ。害獣駆除の仕事でもそこまで森の奥には行かないはず。二つ目は、凶暴化しない限り目の悪い奴らは、そう簡単に襲ってこない。多分、獣人のお嬢さんのパーティーは、興味本位から魔獣にちょっかいを出したのだろうね」

「それは、本当か?」と、スライブは険しい表情でポポルを睨みつけた。

 視線だけでも凄い威圧にポポルは、身震いする。これ以上、嘘を付くと本当に助け貰えない事をようやく理解したようだった。

「ごめんなさい。本当です、私達はブロンズの四つ星です。早くシルバーになりたかったの。魔獣が寝床にしている洞窟を発見したから、寝ている魔獣を退治しようとしました」

「ほらみろ、生半可な実力で命を粗末にしたんだよ。自分達が蒔いた種は、自分達で刈り取りな。関係の無い仲間を危険に晒すな」、クリスは戒めも込めて厳しい言葉をポポルにぶつけた。

「そういう事だ、失敗は誰にでもある。それでも、仲間を助けに行くのがギルドだ。クリス、分かったなら、手遅れになる前に早く行け」

 スライブの決断にクリスは、ズッコケそうになった。魔獣を倒すのは簡単だが、倒してしまうと後々、周囲が五月蠅くなる。魔獣を倒さず、残された冒険者達を連れて帰ってくれば良いかとクリスは考えた。

「それじゃあ、これが最後になるかも知れないから、リリ元気でな」と、クリスは彼女の手を握りしめた。

「そんな、不吉な事は言わないの。デートしてあげるから必ず帰って来てね」

 可愛い子からの誘いは大歓迎だ、「本当に戻ったらデートだからな。約束だぞ」

 場所の案内をするために一緒に出発しようとするポポルが、照れくさそうに口を開いた。

「あのー、仲間を助けてくれたら。私は、何でもしてあげますよ」

 クリスは笑顔で彼女の頭を撫でながら、「君は好みじゃないから、遠慮しておく」

 その言葉に周囲の男達は、ブーイングをクリスに浴びせた。彼は口では酷い事を言ったのかもしれないが、若い女性が知り合って直ぐの男に簡単に体を差し出すような真似をさせたくなかったのだった。

 ポポルの案内で洞窟の傍に着くと、魔獣が洞窟の前でウロウロと何かを探している。木陰には彼女の仲間の一人のチェッカが見張りをしていた。

「チェッカ、応援の人を連れて来たよ」

「一人だけ・・・、他に助けは来ないのか?」

「すまないな、俺だけだ。魔獣と聞いて誰も参加したがらなかった」

「やはり、そうか」

 残念そうに地面を見つめるチェッカは、エルフ族の男性だ。金色の髪の毛にエルフ特有の尖った耳が見える。革の鎧と軽装の彼は、年季の入った弓を持っていた。

「応援は来ないと思っていたのか?」と、クリスは尋ねる。

「ああ、こんな無謀な行為をした冒険者を命懸けで誰が助けたがる?」

「確かに、褒められる好意じゃないよな。君は分別ふんべつがある様に思うけど・・・なぜ、彼らと同じパーティーなんだ?」

「私の様な者が居ないと、若い彼らは直ぐに暴走する。ある意味ストッパーとして所属しているのだが、正直に言うと、放って置けなくて」

 若く見えるチェッカだが、齢はクリスの倍以上のはずだ。彼の親心が、パーティーメンバーのストッパーだけでなく支えにもなっている。

「えーと、紹介が遅れたな。俺はクリスだ」

 クリスは、洞窟を背に右往左往する魔獣に目をやった。4メートルを超える大きな体。鋭い目に口からはみ出た牙、ダークブラウの堅そうな毛で覆われ四つ足で地面を這う。

 この世界の魔獣は、今回の様に獣の姿をする獣型と人族と同じ姿をする人型が居る。普段は人目に触れない場所に潜んでいるが、飢餓や攻撃などが原因で凶暴化する事がある。凶暴化してしまうと、我を忘れ彷徨い好戦的になる。動くものは、全て攻撃対象だ。また、彷徨い始めると何故か村や町へと人が居る場所を目指す厄介な行動を取る。

 現在、クリスも含めて多くの人が知る魔獣は、獣型だ。ただ、過去を記録した文献には人型の魔獣と戦った記録があった。古い時代の出来事なので伝説になっていたが、知恵を備えた人型の魔獣は魔法を使うらしい。その力は絶大で、人型の魔獣一体で小国を滅ぼしたそうだ。

 今回の獣型の魔獣は、突然襲撃されて興奮しているが、洞窟の中にまだ取り残されている者には気づいてない様子だった。

「中に取り残されているのは、何名だ?」

「剣士のアルフと魔法使いのメルが中に居る」

「二人か、俺の作戦だが。最初に弓で魔獣の注意をこちらに引き付けてくれ。多分、魔獣は攻撃された方に向かって来ると思うので、直ぐに逃げる事。その間に俺は、洞窟の中に入る」

「分かった。しかし、中に入ってからどうやって逃げる?」

「中の二人が逃げられるように、俺がおとりになって奴を引き付ける」

 じゃあ、頼んだぞとクリスはチェッカとポポルを残して反対側へ移動する。

 クリスが手を上げ合図をしたのを確認したチェッカは、魔獣目がけて弓を放つ。
 矢が魔獣の体に当たると攻撃を受けた方向に振り向き、勢いよく走り出した。
 チェッカとポポルは、急いでその場を離れる。
 魔獣が移動したタイミングで、クリスは洞窟の中へ滑り込んだ。

「おーい、聞こえているか? 助けに来たから出て来いよ」

 クリスの呼びかけにアルフとメルが出て来た。アルフは仲間を守るために応戦デモしたのか鎧は泥だらけだった。剣を持つ手には、包帯が巻かれている。魔法使いのメルは、黒いとんがり帽子とローブを身に付け、先端に赤い石がはめ込まれた木の杖を持っていた。

「応援に来てくれてありが・・・、お前、酒場にいた」

「そうだよ。残念に思うかもしれないが、応援は俺だけだ」

「くっ・・・、お前に助けてもらうのか」

「助けてやるから、文句を言うな」

「でも、どうやってここから出るのですか?」、童顔のメルがキョトンとした表情を見せる。

「俺が魔獣を引き付けている間に、お前らは森の中に逃げ込め。外で待っているチェッカ達と合流したら、そのまま町に帰るんだ」

「あんたは、それで大丈夫なのか? 一人で戦ったら死ぬかも知れないだぞ」

「ご心配、有り難う。俺は、魔獣一匹で死なないよ」

「随分と自信があるのだな」

「逃げ足だけは、早いからな。気にするな、お前達が逃げたら俺も後に続いて逃げるから」

 そう言い残すとクリスは洞窟の外へ出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...